表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奇蹟の少女と運命の相手  作者: 鷹羽飛鳥
学院3年目
70/161

裏28-2 それぞれの行く末(カトレア視点)

 すみません、今回、新登場の(そして多分二度と登場しない)貴族の名前がたくさん出てくるので、わかりにくいと思います。

 ニコル事件の結末です。

 まったく根の深い問題でした。

 テザルトの影もかなり始末しました。

 この半年ほどの間でわかったことは、テザルトの手が随分と王国の中枢にまで伸びていたということです。

 やはり、ニコルの事件の際の麻酔薬は、テザルトで使われているものでした。もちろん、そのくらいではテザルトへの攻撃材料にはなりません。

 テザルトと国境を接する2つの侯爵家、ザーカイン侯爵家とセズール侯爵家がテザルトと通じていたのが早めにわかっただけでもよしとすべきでしょうか。



 今回のニコルの件は、コークス・ザーカイン侯爵が、妹の嫁ぎ先である官僚貴族ドラグノ侯爵家を通じてゴースン伯爵を抱き込んだというのが真相のようです。

 ドラグノ侯爵家当主タクルス・ドラグノは、コークス・ザーカインの意を受けて、王城内にシンパを増やしていたようです。

 まだ取るに足らない勢力ではありましたが、研究所内にシンパを送り込めるところまで来ていたというのは看過できません。

 結局、官僚貴族では侯爵家を1つ、伯爵家を3つ、子爵家を2つ、男爵家を1つ潰すことになりました。

 さすがに全てをゴースンの連座でというのは影響が大きいので、別件の汚職から攻めたり、テザルトの影を利用して一家丸ごと口封じさせたり、急病になってもらったりしましたが。

 そして問題は、領地貴族の、それも侯爵家であるザーカインとセズールの処遇です。

 他への影響を考え合わせると、簡単には潰せません。

 官僚貴族と違って、領地を取り上げることになりますから、明確な罪責を糾弾しないと、王家に対する不信を生むことになってしまいます。

 他国の影響を排除した代わりに王国内に不信の芽を生んだのでは、本末転倒です。

 ザーカインは、まあいいでしょう。

 ドラグノを通じて実行犯たるゴースン伯爵家を操っていたことが明らかにされましたから、正面切って取り潰せます。

 あとは、セズールをどうするかです。

 そのことで、今日は陛下から呼び出されているのです。


 「お召しによりまかりこしました」


 「やあ、夫人。久しぶりの外の空気の味はどうだ? 随分と屋敷に籠もりきりと聞いているが」


 「年のせいか、外に出るのが億劫になりまして。屋敷の中でできることをしております。

  それで、こたびはいかがなさいましたか?」


 「セズールの処遇がようやく決まった。うまい具合に当主が病に倒れてな。代替わりだ。

  倅の方は、まだ取り込まれていないようだし、ベルモット侯爵(・・)に睨みを利かせてもらえばなんとかなるだろう。

  幸い、セズールのところにはキドーの姪が嫁いでいることだしな」


 「ベルモット侯爵、ですか。

  では、このたびの功績で、ベルモット伯爵にザーカイン領を与えた上で昇爵させるわけですね」


 「そうだ。もっとも、領地には代官を置いて王城(こちら)で活躍してもらうことになるがな。

  ザーカインにせよセズールにせよ、領内に潜り込んでいる連中を炙り出すには時間が掛かるだろう。

  謀反の(かど)で領地貴族が根絶やしになるなど、百年以上もなかったことだ。

  領民に与える衝撃も計り知れないし、キドーの配下をかなり注ぎ込むことになるだろう。数年はテザルト対策にかかりきりになるな。


  だが、王城の膿は出し切った。

  当分は最小限の警戒で足りるだろう」


 「それはようございました。

  間もなくローズマリーの研究が完成するようです。

  その後、これまでどおり研究所で栽培実験をして、ローズマリーの卒業と同時に発表できる見込みです」


 「ほう。では、ようやく…」


 「いえ、あと一歩足りません。が、ガーベラスの養女になる気にはなってくれたようです。

  オルガとミルトリアを婚約させ、同時にローズマリーを養女に迎えます。

  足りないあと一歩は、その後でもなんとかできましょう」


 「ジェラードにやる気になったか」


 「ミルトリアを好きにさせておいた甲斐がありましたので。虚仮の一念とはよく言ったもので、私の思惑以上に動いてくれました。

  ローズマリーが養女になる気になったのも、研究の土台を築きつつあるのも、ミルトリアの功績によるところが大きゅうございます。

  褒美に、ミルトリアの望みを叶えてやるのもよいかと」


 ミルティがこっそり動いているのを敢えて放置し、影から手助けしてきましたが、マリーの自覚を促し、我が家に入ることを承知させ、と十分な成果です。

 私では、こうはいかなかったでしょう。マリーにとって可愛い妹であるミルティだからこそできたことです。

 その上、大きな余録まで。

 あの娘にも褒美をやらねばなりませんね。


 「陛下、今回空いた爵位、1つ2ついただけませんか?」


 「む? 何かあるのか?」


 「子爵位を、2年後にいただきたいのです」


 「ヒートルースの次男の方か。

  卒業と同時に叙爵、それも子爵をか?

  今回で家が爵位返上になることへの埋め合わせというなら聞けんぞ。さすがにそんな前例は作れん」


 「そうではなく、ネイクミット・ティーバの方です。

  あの娘には、子爵位くらいは必要になります」


 「ますますわからんな。卒業と同時に結婚するわけでもあるまい。

  それに、飛び級した娘はともかく、ヒートルースの小倅が王城に上がれるとは限らん」

 

 「十中八九、上がってきます。

  ネイクミット・ティーバには、教える相手の実力に応じて最も効率の良い教え方をするという特異な才能があります。

  事実、あの娘には、ミルトリアを2科目で飛び級させた実績もございます。

  元々それなりに優秀なアイン・ヒートルースならば、登用試験くらい通ってみせるでしょう」


 「ふむ。それで?」


 「ネイクミット・ティーバは、王城に上げるより、学院で登用試験向けの特別講師にした方が有用かと。

  優秀な官僚を育成するという学院の目的にも沿います」


 「ミルトリア嬢が飛び級できたのは、純粋に彼女の資質だったという可能性もあるが?」


 「仮にミルトリアが優秀だったとしても、それまであの子が触れたことのなかった経営学を、わずか1年で飛び級できるほどに教え込んだ実力は本物です。

  …とはいえ、たしかにいきなり信じられる話ではありません。

  ですから、確認いたしましょう。

  ティーバは、近々、学院を目指している平民の子供達に講義をすることになっております。

  その子供達のうち、どれほどが学院に入るか確認すれば、ティーバの才能のほども知れるでしょう。

  爵位は、その結果次第で結構です」


 「ふむ。それはまた妙な実験を思いついたものだな。

  よかろう、後で教え子のリストを届けさせろ。

  その結果次第で、望みは叶えよう。

  だが、どうして子爵位なのだ?」


 「卒業したばかりの平民の小娘が講師では、院生に侮られましょう。飛び級した才媛というだけでは足りません。

  “その実力でいきなり子爵位を賜った才媛”という箔が必要です。

  残念ながら、王国の法により、彼女自身に爵位は与えられませんが、卒業と同時に結婚し、何の実績もない夫に子爵位が与えられたとなれば、その意味を理解できない愚か者は少ないかと」


 「よかろう。才能が証明されたなら、子爵位を約束しよう。

  お互い年だ。この件については、王太子(ルーシュパスト)にもよく言い含めておくから安心するといい。

  どちらが死んでも、約定は果たされるだろう」


 「ありがとうございます」


 「それにしても、ミルトリア嬢は、夫人の血を色濃く継いだようだ。表舞台から去るのは惜しいな」


 「やりたいこと以外はやらないのが信条ですから、ものの役に立たないでしょう。

  確かに今回は役に立ってくれましたが、元々社交する気のない娘です。ジェラード領に引っ込んだままでちょうどいいでしょう」


 そう。社交する必要のないジェラード領で、オルガと幸せに過ごしなさい。

 あなたの功績に報いるなら、それが一番いいでしょう。



 「あとは、ローズマリーの仕上げに全力を注ぎたいと思います」


 「ああ、期待している」




 旦那様、もう少しです。

 もう少しだけお待ちください。

 というわけで、ニコル事件の関係者処罰は、これで終了です。


 そして、これまでも感想欄に、「ネイクは官僚向きじゃない」「学院で教師になった方が良い」といったご意見を戴いてきたのですが、実は、ネイクは卒業後、学院の講師になります。

 登用試験志望者相手の、マンツーマンに近い少数精鋭向け特別講座になる予定です。大学のゼミに近い感じでしょうか。

 平民だとなめられないように、卒業直後に子爵位を与えられた才媛という箔(正確には、まだ官吏になったばかりの夫が妻の功績で叙爵されたという箔)をつけて。


 実は、リリーの次男が学院で講師をやっている(講師も官吏の一種)という情報も、この伏線だったりします。

 前話でのダイハン・ドリストからの家庭教師のお願いも、半分くらいカトレアの仕込みです。

 ダイハンの元に周囲からお願いが来ているのは本当ですが、それをネイクが引き受けるよう仕向けたのはカトレアの指示でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] あー、やっぱりね。講師かー。そりゃ、実績を見ればそうなるよねー。 まあ、社会(というか世間)の理不尽さを知らずに、学院という特殊に守られた世界に生きるのは、ネイクにはいいのかもね。 >…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ