表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奇蹟の少女と運命の相手  作者: 鷹羽飛鳥
学院2年目
62/161

裏25-1 王城の大掃除(カトレア視点)

 一連の事件の内情と後始末です。

 「結局、真相は藪の中だ。

  どうやら自害した奴も含めて、全貌を把握している者はいなかったようだな。

  捕まるリスクも計算に入れて、ゴースンの手の者だけで襲ってきたらしい」


 「それで陛下、国内の不穏分子だけでも根絶やしにできたのでしょうか」


 マリーが襲われた事件から2日、私は陛下の元を訪れ、事後処理の打ち合わせをしています。

 今回の件、どうもテザルト王国が裏で糸を引いていたようですが、尻尾を掴むことはできませんでした。

 まあ、尻尾を掴んだところで、隣国のことですから、具体的に何ができるというものでもありませんが。

 しかし、国外にまでマリーの情報が漏れたというのは、かなり危険な状態です。

 特に、陛下のお膝元である研究所内から内通者が出たことは、深刻な問題と言わざるを得ません。


 「ゴースン伯爵を研究所に配属したのはムスカ伯爵だが、こちらは後ろ暗いところはなかった。

  ということは、たまたまテザルトの息の掛かっていたゴースンが研究所に配属されたか、配属された後で別の息が掛かった何者かに唆されたか…。

  後者だと厄介だ。

  今後も城内から内通者が出続ける可能性があるということだからな。

  従順な臣下が、ある日突然敵になって背後から襲ってくる。そんな悪夢はごめんだ」


 「ゴースン伯爵の周辺は、今洗っておられるのでしょう? 今のうちに膿を出し切れば、とりあえずは安心できるのではありませんか?」


 「そうありたいと思ってはいるがな。なかなか難しい。

  テザルトにとって、ローズマリー嬢は喉から手が出るほど欲しいだろう。

  今や彼女の価値は、侯爵夫人を凌ぐ。

  10年後、20年後を考えれば、若いローズマリー嬢の方が有益だろう。

  研究者としての才覚のみならず、その身に流れる王家の血もな。

  彼女に産ませた子を押し立てて、我が国の王位継承権を主張することさえできるんだからな。


  できることなら、ローズマリー嬢をすぐにでもゼフィラスの養女にしてほしいところなのだが…、まだ駄目か」


 まだ駄目、というのは、マリーが研究のモチベーションとする何かが見付かっていないということです。

 マリーにとって、研究とはセリィと共にあるための手段に過ぎません。

 セリィと関わらないところで研究の目標を見付けること。それがマリーには必要なのです。

 マリーが研究者として生きる覚悟を決めてくれたなら、ゼフィラス公爵家に迎えて跡継ぎとする。陛下との約束です。

 マリーは、自分と同じく研究の道を志すアーシアン殿下と触れ合うことで、いい影響を受けているようです。

 旦那様のバラの研究に憧れる殿下との交流は、セリィの二番煎じに過ぎない今のマリーにとって、いい刺激となるでしょう。

 それは、近いうちに、マリーに自身の夢を抱かせる呼び水となってくれる…私はそう信じています。




 「今回は、ニコル・ヒートルースという目印がいたから早く発覚したが、今後も都合良く目印が立つとは限らん。

  早いところ、公爵家の跡継ぎとして、手厚い護衛を付けたいのだがな」


 「そうは仰いますが、此度(こたび)の件、ニコルを捕らえたのも、影を3人押さえたのも、元々マリーの護衛をさせていた者達です。

  わざわざ捕り物のために遣わされた王家の影は、たった1人の影を捕らえたに過ぎません」


 「そちらも、1人、生かして捕らえ損ねたようだが?」


 「1人も捕らえていない影が2~3人いたようですが、彼らはどうして自害を止められなかったのでしょう?

  殿下が余計なことをなさらなければ、ローズマリーを守ることに注意を割く必要もなかったのです」


 「まあ、ローズマリー嬢に付けている護衛が優秀なのは理解している。

  だが、襲ってきた者を返り討ちにしているだけでは、何の解決にもならん。

  そんなことは、夫人だってわかっているだろう」



 確かに陛下の仰ることは正しいでしょう。

 いつでも確実に撃退できるとは限らないのですし。

 けれど、それでもマリーが自分の道を見付けるまでは、時間をあげなければ。

 そうしないと、旦那様が夢見た偉大な研究者ローズマリーは生まれないのですから。


 「あと半年で、殿下は研究室に入られます。

  未だにテーマがお決まりにならないようですが、それ次第でローズマリーに変化があるやもしれません」


 「アーシアンの研究テーマでか? なぜだ?」


 「2人が、同じ問題に直面しているからです」


 旦那様の七色のバラに憧れて研究を志した殿下が、何を目指すのか。それは、セリィと共にあるために研究者となったマリーと鏡写しの関係です。

 偉大すぎる先達を前に、自分独自の色が入れられないという点において、2人の悩みは同じなのです。

 研究室に入ってからそのことに気付いたマリーより、これから研究室に入る殿下の方が、切実に考えているでしょう。

 そして、その答えを受けてマリーが何を思うのか。

 間もなく旦那様が逝かれて1年になるというのに、私はまだ誓いを果たせていません。

 1年後に追い掛けるのが理想だったのですが…。




 「ともかくゴースン伯爵家は取り潰しの上、一族郎党死罪で終わりだが、問題はその他だな。

  ニコル・ヒートルースは囮に使われたとはいえ実行犯だから死罪で問題ないとして、ヒートルース子爵家はな。

  事前に廃嫡の許可が出ている以上、家に累を及ぼすわけにはいかんし、元々兄が弟を妬んでという動機だ、被害者を罰するわけにもいかん。

  まあ、結果的に、当代で爵位返上となることでもあるし、周囲は納得するか」


 「そうでございましょうね。

  テイルズ商会はいかがなさいますか?」


 「武器の供給源は断たねばなるまい。

  今後にも障るしな。

  可哀想だが一罰百戒の見地から、潰すしかあるまい」


 「ナイフに塗ってあった薬は、テイルズで仕入れたものではなかったとお聞きしましたが」


 今回の事件は、王立研究所に勤めるゴースン伯爵がテザルト王国と通じ、ニコル・ヒートルースを利用してマリーを攫いに来た、というのが真相と思われます。

 影が持っていたナイフには、特殊な睡眠薬が塗られていました。

 かすっただけでも暫くは意識が戻らない、そのくせ後遺症はないという、誘拐に特化した薬です。

 これは、我が国では流通していない薬だったようです。

 恐らくはテザルト王国から持ち込まれたものなのでしょうが、その証拠はありません。

 ニコルがネイクミット・ティーバを眠らせ、影の1人がマリーを眠らせ、他の影が殿下とアイン・ヒートルースを殺している間にマリー達2人を誘拐する、というシナリオだったのでしょう。

 ティーバは、マリーに言うことを聞かせるための人質。

 テザルト王国は、我が王国の南に位置し、広大な国土を持ってはいるものの、その多くが不毛の地であるため、国力は決して高くありません。

 アライモなどの荒れ地で育つ作物を開発できる研究者は、さぞかし魅力でしょう。

 ジェラード領の方にも影を送り込もうとして撃退されているようですから、学院で護衛の付いていないマリーが狙いやすいと思ったとしても不思議はありません。

 まして、陛下の仰るとおり、マリーは我が王家の血を引く娘なのですから。

 公には、マリーに護衛は付いていないことになっていますから、ルージュが離れた隙に襲撃するというのは上手い手に見えたことでしょう。

 院生であるファイゼル・ゴースンを通じてニコルを抱き込み、ニコルを使って剣など必要なものを調達することで、後日、黒幕を追えなくする。

 ニコルの口を封じれば、もはや追跡できないでしょう。

 そのニコルの存在が警戒の糸口となったわけですが、マリーが普通の令嬢であれば成功していただろうほどには計画自体は周到だったのです。

 幸い、今回学院内に潜り込んだ者は全員押さえましたから、マリーの自衛能力については露見していないはず。

 素人ならば、今回の襲撃の模様を直接見ていたとしても、マリーと殿下が抵抗しているうちに護衛(ルージュ)が鎮圧した程度にしか理解できないはず。

 テザルト側が情報収集したとしても、状況から判断できるのは我が国の影によって阻まれたことまで。

 最低限の被害に留めたと言っていいでしょう。

 できれば苛烈な連座は避けておきたいところですが…。


 「店にせよ研究所にせよ、全ては人の集まりだ。

  構成員を制御できねば、今回のようになる。

  研究所は、これまで以上に目を光らせる必要がありそうだな」


 「それは確かに。

  研究所内が安全でないとなれば、ローズマリーを研究所に迎え入れるわけには参りません。

  研究所が安全だというのが大前提なのですから。

  あの子が学院にいる間に、大掃除をするべきです。


  それと、今回搦め手を使ってきた黒幕は、ネイクミット・ティーバの利用価値に気付いていたと思われます。

  彼女は平民ではありますが、大変優秀と聞き及んでおります。

  また、彼女の教えを受けた者は成績が上がる傾向にあるとの情報もありますし、事実ミルトリアは飛び級しております。保護するのが妥当かと」


 「飛び級した娘か。

  いずれ官僚として迎えることになるのだろうし、しばらく影を張り付けておこう。

  優秀な人材を喪うのは痛いからな」




 しばらくは、マリーを学院という塀の内側に留めておいた方が良さそうですわね。

 その間に、研究所を掃除しておかないと。

 旦那様、まだしばらくそちらに行けそうにはありません。

 他国に漏れたセリィとマリーの情報。

 絶対安全圏だったはずの研究所にまさかの内通者と、王様大失態です。

 これからカトレアは、環境作りとマリーの意識改革に奔走することになります。


 次回は、リクエストのあったドリスト商会の会頭ダイハン・ドリスト視点で、裏25-2話「公爵家御用達(ダイハン視点)」となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] >テザルト王国 なんと! 隣国の手先!! >彼女に産ませた子を押し立てて、我が国の王位継承権を主張 あー、うんうん。王家には付き物だよね。 >塀の内側に留めておいた方が良さそう …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ