裏20 秘密のお茶会(アーシアン視点)
飛び級試験の後も、なんとか勉強を教えてもらえることになって、と言うか、勉強会名目で会い続けられるようになたんだけど、どうにも進展しない。
2時間の勉強時間を2つに分けて、間に1時間もお茶の時間を入れているのに。
いや、確かにそれなりに話は弾むんだけど。
研究が絡まない話題になると、どうにも反応が鈍い。
せっかく大叔母上に協力してもらってゼフィラス公爵邸を使わせてもらってるのに。
お菓子を僕の持参にしたら、お菓子の説明とかで盛り上がるかと思って、うちの料理人に作らせたり、うちの出入りの店の職人に注文したりもしたんだけど、あまり上手くいかない。
どういうわけか彼女、話題が切り替わると研究の話を振ってくるんだよなあ。
最近は、僕が研究科に進んだ後の研究テーマについてがお気に入りの話題らしい。
これが、ローズマリー嬢と同じ系列のテーマを選んで一緒に研究しようという方向に行くならいいんだけど、彼女は、最初に会った時に僕が言った「目に見える成果」という言葉に拘っていて、僕は食料の研究はしないという前提で話をしてくる。
大叔父上の偉業を讃えるつもりで言った言葉だし、それはそれで本心なんだけど、ちょっと失敗したかなあとも思う。
あの一言で、僕がローズマリー嬢の共同研究者になる可能性は消えてしまった。
まあ、一緒に研究はできなくても、相談には行けるんだけど…。
僕は、一応、ミルティを訪ねてゼフィラス公爵邸に行っているという体裁だから、ミルティも毎週屋敷に戻っている。
もっとも、ミルティがいると色々と邪魔になるので、彼女は自室で寛いでいるわけで、少し申し訳ないとは思っている。
ミルティには、僕がローズマリー嬢を好きなことは言ってある。
大叔母上にも。
難攻不落のローズマリー嬢に近付くには、周囲の協力は不可欠だから。
ただ、正直なところ、ミルティがどうして僕に協力してくれるのかはわからない。
ミルティの初恋がオルガ・ジェラードで、今でも好きなままだってことは知ってるけど、ミルティは自分がゼフィラス公爵家の跡取り娘だってことは理解してるはずだ。
いくらのほほんとしてるといっても、跡継ぎ同士の結婚なんてありえないことくらい知ってるはずだし、ローズマリー嬢を養女にして僕を婿に取ろうなんて話があることに感づけるほど勘も良くないはずだし。
いったい何を考えているんだろう。
時々ティーバ嬢を屋敷に招いたり、この前はヒートルースも招いていたし。
さすがにヒートルースも招いた時は応接室だったようだけど、ティーバ嬢だけの時は私室に通してたみたいだ。
単に気に入ったからということならいいけど、それにしては少し気安い。
憧れのお姉さんの友達……ミルティは、人のものを横取りしたがる性格じゃないし、まさか勉強を教わってるとか?
ありそうだ。なにしろ、この間飛び級してたし。
あれ? でも、ミルティは官僚なんか目指さないだろうに。
まさか向学心に目覚めたとか? いやいやありえない。
だって、あのミルティだよ? 自分の楽しみのこと以外で、努力するなんてありえない。
それほどティーバ嬢を気に入った、とか? それならありえる。
学年も違うし、ティーバ嬢と一緒にいるなら、勉強を教わる形にするのが一番手っ取り早い。寮でも勉強会をしてたっていうし。
で、思いがけず飛び級するほど成績が上がったから、楽しくなったってとこか。
週末はどのみち、僕に協力するために屋敷で過ごすことになるから、ティーバ嬢を招いてみたかった、と。
そんなところか。
ミルティが突然勤勉になるなんて、信じられないもんね。
それで、ローズマリー嬢だけど、なかなか距離が詰められないでいる。
僕とお茶しているのに、警戒もしなければ意識もしない。
それどころか、ミルティがお茶の席に入り込んできても、当たり前のように接している。
これは困った。
僕がこれだけ攻めても、柳に風で流されてしまっている。
なんとか雰囲気を変えないと。
そんな思い悩んでいたある日、街で評判になっている店の話を聞いた。
庶民向けの、あまり高級とは言えない喫茶店らしいけど、カップルで入ってケーキを注文すると特別な飾り付けをしてくれるらしい。2つのケーキに跨るように、クリームでハートを描いてくれるんだとか。
少しでも彼女に僕を意識してほしくて、買いに行ってみることにした。
あくまでただの客として、無理を言う気はないから、いつもお忍びで街に出る時の格好で、護衛も少し離れさせて店に入った。
告白したい相手がいるので、店内で食べるわけではないけど飾り付けてもらえないかと頼んだところ、なんとか受けてもらえた。
崩さないように馬車に戻って、馬車の中で着替えて、ゼフィラス公爵邸に向かい。
お茶の時間に出したところ、ローズマリー嬢の反応は冷たかった。
冷たいというより、全く気付いてくれていないと言った方がいいかもしれない。
彼女の中では、僕は完全にミルティの婚約者ということになっているらしい。
これはまずい。
まず、僕がミルティの婚約者じゃないということを再確認してもらわないと。
「あ~、その、ローズマリー嬢? できれば、殿下ではなくて名を呼んでほしいのですが……アーシィとか…」
「お戯れを。
ミルティでさえ殿下と呼んでおりますのに、私が殿下を名前や愛称で呼んだりしたら、本当に泥棒猫ではありませんか。
王家の方が、そう簡単に愛称呼びなどさせようとなさるものではありませんわ」
「もう随分と親しくなったし、ローズマリー嬢のこともマリーと愛称呼びさせてもらえると嬉しいんですが」
「…それこそ、愛妾扱いされてしまいます。
殿下、私をマリーと呼ぶ殿方は、身内にしかおりません。
正式でないとはいえ、誰もが認めるミルティのおられる殿下と愛称で呼び合うなど、正気を疑われますわ」
「いや、だから、ミルティとは婚約してるわけではなくて…第一、僕にはもっと大事な…」
「ええ、研究に打ち込みたいと仰るんでしょう。
お祖父様に憧れてらっしゃるのはよくわかっております。
それで話を戻しますが、研究科では何をテーマに研究なさいますか?」
「あ…うん…。まだ決められないんですよ。
七色のバラに憧れたはいいけど、大叔父上の猿まねをしても仕方ないし。
別の花で何かするって言っても、やっぱり猿まねだろうし。
ローズマリー嬢が研究していて喜びを感じるのは、どんな時ですか?」
「どんな…というか、私は、研究すること自体が楽しいので…」
「でも、受粉なんかは単純作業だし、やってて面白いようなものじゃないでしょ」
「受粉は、私が最初にやったお手伝いなんです。
領地で、おばあさまの研究をお手伝いするようになった切っ掛けで、おばあさまが褒めてくれたことを思い出しますから、あれはあれで楽しいんです」
「そうか、お祖母様との思い出の作業なんですね」
「え…? …ええ、そう、ですね。
…思い出の作業です。
どうして楽しいのかなんて、考えたことありませんでした。
そういえば、殿下とこうして研究のお話をしていると、お祖父様と研究のお話をしていた頃を思い出して、楽しいです」
「そう。ローズマリー嬢は、大叔父上のこと、好きなんだね。
僕も、こうしてあなたと話していると、とても楽しいよ。ずっとこうしていたいくらいだ」
そう、好きだから楽しいんだよ、わかってほしい。
「殿下も、お祖父様が大好きですものね。
もしかしたら、本当の孫であるミルティよりもお祖父様のことをお好きなのではないかしら」
「あ……うん……そうかも、しれませんね…」
そうじゃなくて! 僕が好きなのは、あなたなんだ!
どうしよう、もうすぐ長期休暇で、ローズマリー嬢は領地に帰ってしまう。
このままでは、無為に時間ばかり過ぎていくことに…。
なんでこんなに鈍感なんだ~~~~!
いつの間にか外堀埋まってるマリーです。
基本、カトレアもミルティもアーシアンの味方なので、パスールの目に付かない場所でアーシアンの背中を押しまくりです。
色恋に鈍いマリーは、そのことに気付いていませんが…。




