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奇蹟の少女と運命の相手  作者: 鷹羽飛鳥
学院2年目
49/161

20 秘密の勉強会

 ラブコメ回です。…多分。

 間もなく長期休暇に入りますが、殿下は相変わらず毎週研究室にやってきます。

 もちろん、ミルティも一緒です。

 そして、ゼフィラス公爵邸での勉強会も続いています。

 さすがに、週1回、2時間程度に減らしてもらいましたが。

 相変わらずミルティは別室ですが、最近は時々ネイクを招いているようです。

 どうしてかはわかりませんが、ミルティはネイクを本当に気に入ったようです。

 招いて何をしているのかまではわかりませんが、一度はアインさんも招いていたので、何か考えがあるのでしょう。

 殿下はミルティを訪ねてきていることになっているのに、同じ時間に別の友人と会うのはやめてほしいところですが、一度そのことを言ったら


 「大丈夫よ、お姉様。

  ネイクは口が堅いから」


と流されました。





 殿下との勉強会は、1時間やって1時間休憩、その後また1時間というペースです。

 休憩の時には、お茶とお菓子が出て、ゆっくりとお話をしています。

 時たまミルティも加わることもありますが、さすがにネイクは、殿下とご一緒するのは気後れするようで、加わったことがありません。

 お茶もお菓子も公爵家の方で用意してくれるのですが、殿下がご用意されることもあります。

 ご持参されるのは料理人に作らせた時で、出入りの商人に運ばせる時は王家御用達の職人の作です。

 ただ、一度だけ、ごく普通の菓子店のケーキを買ってきたことがありました。

 なんでも、わざわざ騎士爵家の子息に見えるような格好をして、馬車を離れたところに止めて、ご自分で歩いて店まで行ったそうです。

 護衛は離れさせて…って、どうしてそういうはた迷惑なことをするんでしょう。

 何のために護衛が付いているのか考えなければいけませんとお諫めしたら、

 「こういうのも、社会勉強として必要なのですよ。

  小銭を使って自分で買い物したり、市井の物価を見たりといった経験ですね。

  僕は為政者になるわけではありませんが、それでも少しはね」

などと、至ってまともな答えが返ってきました。

 感心して、


 「失礼ながら、殿下がそんなご立派なお考えをお持ちだとは存じませんでした」


と言ったら、


 「これくらいの建前を出せないと、やりたいことなんてこれっぽっちもできないんですよ。

  実はこの店ね、世間で評判でしてね。

  本当はカップルで食べに行くというのが流行しているんですが、僕とあなたで行くというのはさすがに無理なので、しかたないから気分だけでも味わおうかな、と」


と身も蓋もないことを言われてしまいました。


 「殿下、せっかく見直しましたのに。

  確かに、私を連れてそのようなお店に行くのは無理でしょうけれど、もう少し言い様というものがあるでしょうに」


 殿下とミルティなら、それなりの服装で食べに行けば、お忍びで通るのでしょうけれど、残念ながら私とでは、色々と問題です。

 殿下はまだ正式に婚約はしていませんが、ミルティとの仲は、周囲が認めているところで、というか、半ば婚約しているものと知れ渡っています。

 そんな殿下が私と2人で出掛けたりしたら、お忍びではなく、人目を忍んでの(・・・・・・・)逢瀬と取られてしまうでしょう。


 ついつい妹分として応対してしまいますが、ミルティは公爵家の跡取り娘であり、年下とはいえ私よりも家格が上なのです。

 そのミルティの婚約者(候補)の殿下と私がこっそり2人で出掛けたりしたら、私が泥棒猫のようではありませんか。

 まあ、殿下は、ご自分でそのことを理解して一緒に出掛けるのは諦めているわけですから、私が何か言うところではないのでしょうが…。




 「それで、殿下はどういう研究をなさるか、お決まりになりましたか?」


 「あ~、その、ローズマリー嬢? できれば、殿下ではなくて名を呼んでほしいのですが……アーシィとか…」


 「お戯れを。

  婚約者候補(ミルティ)でさえ殿下としか呼びませんのに、私が殿下を名前や愛称で呼んだりできるわけないではありませんか。

  王家の方が、そう簡単に愛称呼びなどさせようとなさるものではありませんわ」


 「もう随分と親しくなったし、ローズマリー嬢のこともマリーと愛称呼びさせてもらえると嬉しいんですが」


 「…それこそ、愛妾扱いです。

  殿下、王国は一夫一婦制なのです。

  確かに隠れて愛妾を持たれる方もおられるようですが、公式には認められておりません。

  私をマリーと呼ぶ殿方は、身内にしかおりません。

  正式でないとはいえ、誰もが認めるミルティ(婚約者)のおられる殿下と愛称で呼び合うなど、正気を疑われますわ」


 「いや、だから、ミルティとは婚約してるわけではなくて…第一、僕にはもっと大事な…」

 「ええ、お祖父様のように研究に打ち込みたいと仰るんでしょう。

  お祖父様に憧れてらっしゃるのはよくわかっております。

  それで話を戻しますが、研究科では何をテーマに研究なさいますか?」


 「ああ……、うん…。まだ決められないんですよ。

  七色のバラに憧れたはいいけど、大叔父上の猿まねをしても仕方ないし。

  別の花で何かするって言っても、やっぱり猿まねだろうし。


  参考に聞かせてほしいんですが、ローズマリー嬢が研究していて喜びを感じるのは、どんな時ですか?」


 喜びを感じる時? 私は、研究をするのが楽しいのだけれど、一番嬉しいのは、どんな時? 考えたこともありませんでした。


 「どんな…というか、私は、研究すること自体が楽しいので…」


 「でも、受粉なんかは単純作業だし、やってて面白いようなものじゃないでしょう?」


 「受粉は、私が最初にやったお手伝いなんです。

  領地で、おばあさまの研究をお手伝いするようになった切っ掛けで、おばあさまが褒めてくれたことを思い出しますから、あれはあれで楽しいんです」


 「そうか、お祖母様との思い出の作業なんですね」


 「え…? …ええ、そう、ですね。

  …思い出の作業です。

  どうして楽しいのかなんて、考えたことありませんでした。

  そういえば、殿下とこうして研究のお話をしていると、お祖父様と研究のお話をしていた頃を思い出して、楽しいです」


 「そう。ローズマリー嬢は、大叔父上のこと、好きなんだね。

  僕も、こうしてあなたと話していると、とても楽しいよ。ずっとこうしていたいくらいだ」


 「殿下も、お祖父様が大好きですものね。

  もしかしたら、本当の孫であるミルティよりもお祖父様のことをお好きなのではないかしら」


 「あ……うん……そうかも、しれませんね…」


 結局、この日も殿下の研究のテーマは決まりませんでした。

 なかなか決まらないせいか、殿下がしょんぼりしています。





 どんな時に喜びを感じるか、ですか。

 結局、私の研究は、おばあちゃまとの絆なのかもしれません。

 お祖父様のように、純粋に研究を楽しんでいるのではなくて、研究を通しておばあちゃまを見ているだけなのかも。

 殿下も、研究にお祖父様の影を探していて、そのせいでテーマが見付からないのかもしれません。

 私と似た者同士だから、気が合うのかしら。

 なら、もう少し親身になって考えてあげなきゃいけませんね。

 アーシアンの必死のアプローチも、鈍感マリーには通じません。

 アーシアンの好意は、マリーの中でサイサリスへの憧れめいたものに変換されてしまっています。


 …ラブコメって難しい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あらら。アーシアン、残念でした。 でも、愛称と愛妾を掛けたりして、マリーとアーシアンはまあまあ相性は悪くなさそう笑。 でも、やっぱりアーシアンはちっちゃいね。 色々と制限があるとはいえ…
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