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奇蹟の少女と運命の相手  作者: 鷹羽飛鳥
学院2年目
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裏19-2 公爵令嬢との交流(ネイクミット視点)

 とんでもないことになった。

 幸運? 多分、ものすごい幸運だ。

 公爵家との縁なんて、望んでも得られるものじゃないのに。



 今日、マリー様との勉強会にゼフィラス公爵家の跡取りであるミルトリア様が着いていらした。

 なんでも、マリー様から算術を習ったけどわからないそうで…。

 それはそうだ。マリー様の教え方は癖が強すぎる。

 それで、ミルトリア様は、マリー様の教え方で理解できたあたしに興味を持ったらしい。

 とはいえ、まだ基礎科のミルトリア様が、本科の教科書も半ば過ぎまで進んだあたしを見て、参考になるはずもない。

 高位貴族のお嬢様が癇癪も起こさずに見ているだけでも大したものだと思う。

 そして終わり際、マリー様は、アイン様を交えての勉強会をやりたいと言い出した。

 男性を交えるので、変な噂が立たないよう、アイン様にもいてほしいということらしいんだけど。

 その相手が、陛下のお孫様のアーシアン殿下。

 登用試験を目指すので、一度教えてみるのだとか。

 王族と同席なんて恐れ多いとは思ったものの、考えてみれば、王族とお近づきになれる、しかも官僚として同じ王城に勤めることになるかもしれない殿下と知己を得るというのは、得難いコネになる。

 アイン様なら、こんなチャンス、生かさないはずがない。

 私はありがたくマリー様の申し出を受けることにした。





 5日後、殿下にミルトリア様、マリー様とあたし達で、勉強会という名の集まりを開いた。

 ミルトリア様もご一緒なのは、男女2対2になると、やはり噂の種になるかららしい。

 最近は大分慣れたけど、やっぱり貴族って面倒だ。

 まあ、ミルトリア様はアーシアン殿下の婚約者になられるともっぱらの噂だし、マリー様とご一緒におられることも多いのだから、今回もご同席されるのが当然なのかもしれない。



 で、マリー様が殿下に植物学をお教えしている間、あたしは暇を持て余しているミルトリア様に算術を教えてさしあげた。

 こう言ってはなんだが、ミルトリア様は相当優秀な方のようだ。

 マリー様の教え方でも十分理解できそうな気がするのに、どうして駄目だったんだろう。

 ミルトリア様は、あたしの教え方が上手かったからと、

 「あなたはお姉様の友人なのでしょう? 私のこともミルティと呼んで構いません」

と仰った。

 平民の娘が公爵令嬢を愛称で呼んでいいだなんて、幸運とかいうレベルの話じゃない。

 ミルティ様は、少なくともアイン様の勉強会に参加している方々では、貴族であっても話しかけることなんかできない、いわゆる雲の上のお方だ。

 普通に考えれば、あたし如きが「ミルティ様」なんてお呼びするのはとんでもない不敬だけど、ご本人からそう呼ぶよう言われたのに断るというのもまずい。

 もっとも、よく考えてみると、マリー様のお母様はゼフィラス公爵家の出で、今の公爵様のお姉さんだそうだから、生まれた家が違うだけで、マリー様も公爵家のお嬢様と変わらないのかもしれない。

 そう考えると、あたしが「マリー様」って呼んでいるのも、とんでもないことなのだけど。


 去年の春(あの時)、マリー様の隣に座っていなかったら、アイン様に会えるのにも大分時間が掛かっただろうし、飛び級なんて夢にも思わなかっただろう。

 本当に、運命の出会いってあるんだと思う。





 勉強会が終わった後、アイン様は

 「ネイク、ジェラード嬢に最近何か言われたか?」

と聞いてきた。


 「特には、何も。

  今回の件ですよね?」


 「ああ。

  どう考えても、俺達に殿下と公爵令嬢を引き合わせるための集まりだ。

  しかも、次回は開かなくていいという。

  たしかに俺はいた(・・)だけだが、彼女が学院内で殿下と会うと問題になる以上、俺は絶好の風除けだろう。

  多少忙しいと言ったって、それくらいの時間は作れるし、掛けた時間以上の見返りだってある。

  ジェラード嬢は、そんな遠慮をするくらいなら、最初から声を掛けてこないだろう」


 「つまり、あたし達に殿下やミルティ様との縁を結ぶ機会を与えてくださったってことですよね」


 「ああ、そうだろうな。

  だからこそ不思議だ。

  これまでジェラード嬢は、家名に惹かれて近付く者を嫌っていたのに、突然こんな場を設けるようになるほど考え方が変わるような何かがあったはずだ」


 「去年、ゼフィラス前公爵が亡くなりましたよね。マリー様のお祖父様なのでしょう?」


 「そうだが…それとこれとでは、接点がないだろう。

  ジェラード嬢には頑固な面がある。葬儀の席で誰かに何か言われたとしても、そうやすやすと考えを改めるようなことはないだろう。今更な話だ。

  言われて変わるくらいなら、とっくに変わっていたはずだからな。

  何があったのかは知らないが、とにかく少し柔らかくなったのは喜ばしいことだ」


 「あたし達が王子殿下やミルティ様とお知り合いになれるよう、マリー様が計らってくださったということですよね」


 「そうだな。

  特に何かに使える繋がりではないが、知り合ったというだけで箔が付く。

  公爵家のご令嬢から愛称呼びを許されたお前は、特にな。

  馴れ馴れしくならないよう適度な距離を保つ必要はあるが、大抵のことはなんとかできるほどの後ろ盾とも言える。

  ジェラード嬢には、借りばかり増えてしまうな」


 「マリー様が何をお考えなのかはわかりませんが、わざわざミルティ様や殿下との縁を私達にくださったのですから、この繋がりはありがたくいただいておきましょう」


 「そうだな。お前もわかってきたじゃないか。

  気安く使えるものではないが、大きな切り札だ」





 その夜、あたしは兄さんに手紙を書いた。

 今日の話を伝えておかないといけない。


 ついこの前、兄さんはジョアンナ義姉さんと結婚した。

 兄さんの話では、父さんは約束どおりマリー様のお家には接触していないらしいけど、さすがにドリストの旦那様には、あたし絡みの話をしているらしい。

 まあ、娘を嫁にくれたかつての雇い主に、そういう大事な話を隠すのはよくないだろうから、仕方ないよね。

 どの程度まで話をしたのかは、兄さんにもはっきりとはわからないそうだけど、少なくともあたしが飛び級して王城に入ることになるだろうってのと、アイン様と婚約したことは話しているはずだって言ってた。

 なにしろ、ヒートルース子爵家は、ドリスト商会のお得意様だ。

 あたしとアイン様の婚約を子爵様がお認めになっている以上、何かの時に話題に上るかもしれない。

 うちとドリスト商会の繋がりを子爵様がご存じだとは思わないけど、こういう情報を意図的に隠すのは、裏切りとさえ言えるだろう。

 第一、ジョアンナ義姉さんが嫁に来てるんだから、そっちからも話が行くはずだし。

 ともかく、アイン様がヒートルース子爵家を出て行く立場だということを考慮しても、あたしの存在があるだけで、ジョアンナ義姉さんがうちに嫁に来た価値があった。

 あたしは、家のためによその商家に嫁ぐ気はなかったけど、アイン様と結婚することで家のためになるのは嬉しい。


 そして、今度はゼフィラス公爵家だ。

 多分、ミルティ様は、マリー様の友人としてあたしを評価してくださっているだけなんだろうと思う。

 マリー様のことを「お姉様」なんて呼んでいるし、マリー様と同じように振る舞いたいだけなのかもしれない。

 それでも、本来なら声を掛けられることもないはずだったミルティ様に、わずかな時間でも勉強を教えたなんて、普通なら自慢話になるほどの大事件だ。

 今回の件は、マリー様のお家とは関係のないことだから、公爵家と縁ができたことを利用しても構わないわけだ。


 あたしは、公爵家の跡取りに貸しがある娘ってことになる。

 「貸し」というほどのものではないけど、公爵家の跡取りを愛称で呼ぶことを許された価値は、小さくはない。

 そういう情報だけでも知らせておくことは必要だ。




 この時、あたしは、ミルティ様が本当にあたしのことを気に入ったなんて、思ってもいなかった。

 ミルティは、ネイクを気に入ったようです。

 一応、勉強会の結果、飛び級もしているあたり、勉強もちゃんと頑張ったようです。

 飛び級カルテットがそれなりに近しい存在だというのは、周囲はどう思ってるでしょうね。


 アインだけ飛び級してない…。本人は、気にしてませんが。

 というか、員数合わせで王子と知り合えるなんて、ある意味幸せかもしれません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うんうん。優秀なのは女子ばかりで、アイン心配。 でも、そこで卑屈にならないところが、アインの良さだなーと。 本当に自分に自信があれば、そんなことでプライドを傷つけられたりしない。 そうい…
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