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奇蹟の少女と運命の相手  作者: 鷹羽飛鳥
学院2年目
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19 2年目の春

 少し時間が経って、新年度になりました。

 サイサリスが亡くなったのが10月末頃のことなので、半年近く経ったことになります。

 春になり、ミルティが学院に入学してきました。

 アーシアン殿下も一緒です。

 私は、ミルティとの約束どおり、特に用のない時はミルティと一緒にいるようにしています。

 ミルティは、入学早々、研究室の見学にも来ました。

 これも約束どおり、殿下も一緒です。

 温室の外で警戒しているルージュを見ると、お祖父様がいらしていた頃を思い出します。

 つい半年前のことなのに、なんだかすごく昔のことみたいに懐かしく感じます。


 そういえばルージュは、ミルティに付き従って動いていますが、講義室や寮の中には入ってこないようです。

 その間どこにいるのかわかりませんが、やっぱり護衛というのは大変だと思います。

 ミルティは、寮生活をするに当たり、私と同じように練習をしてきたそうです。

 私も大変でしたけれど、ミルティはそれまで特に自分では何もやってこなかったわけなので、きっとすごく大変だったことでしょう。

 意外にも、殿下は特に練習もせずに寮に馴染んでしまったそうです。

 どうしてか聞いたら、元々、剣の修練とかで汗をかいたら、自分で勝手に着替えていたから、慣れているのだそうで。

 そういうところは、やっぱり男の人は違うのですね。


 殿下は、研究室に、週に1回、ミルティとやってきます。

 ミルティがお茶を飲んでいる間、私に、今何をやっているのかを根掘り葉掘り聞いてくるのですが、不思議と鬱陶しくありません。

 多分、本当に興味を持って聞いてくるからでしょう。

 お祖父様が訪ねてらした頃を思い出して、少し鼻の奥がツンとすることがあります。

 お祖父様と話をしているつもりで話していると、気も遣わなくていいので、今はそんな感覚で接しています。



 考えてみると、殿下って王子様なんですよね。

 特に素敵とも思いませんが、少なくとも今まで会ってきた男性の中では、一番安心できる人のような気がします。

 アインさんにしても、ネイクに対してはとても誠実だけど、常に色々と計算して動いていますし。

 アインさんにとっては、ネイクだけが特別なんでしょうね。



 その点、殿下は、仮にも王子様なのに、良く言えば裏表がなくて、悪く言えば単純で。

 一緒にいて疲れない人です。

 さすが、ミルティと気が合うわけです。

 ミルティも、高位貴族の令嬢としては、もう少し社交に本腰を入れないと、この先大変でしょうに。

 私から見ると、ミルティの素直さは美点ですが、ゼフィラス公爵家の跡取りとしては不安です。

 これで殿下と結婚なんてことになったら、似た者夫婦過ぎて、周りが振り回されそう。

 まあ、そういうところが一緒にいて疲れない理由なんでしょうけど。




 でも、殿下とミルティは、実はまだ婚約していないのです。

 公爵家の跡取り娘と第2王子が幼なじみとなれば、当然、婚約の話が出てきそうなものですし、実際そういう噂もあるのですが、なかなか話が進まないんだとか。

 ミルティに言わせると、兄妹のような感覚らしいです。

 まあ、ミルティの初恋はお兄様ですし、兄妹のような感覚が恋に変わっても不思議はないと思うのですが。

 お兄様と殿下……似ているような、似ていないような…。

 裏表のないところと、屈託のない笑顔という点では似ていますね。

 お母様が小さい頃に会った王子様というのが今の王太子殿下で、アーシアン殿下は、その第2王子なんですよね。

 お母様は、王子様に会ってもちっとも嬉しくなかったって言ってたけど、王太子殿下はアーシアン殿下みたいな人だったのでしょうか? それとも逆のタイプ?

 お父様はお兄様を大人にして、もっと素敵にした感じだから、どちらかというとアーシアン殿下に似ているかしら?

 そうすると、王太子殿下は、きっとアーシアン殿下とは逆のタイプだったのでしょうね。


 でも、そうすると、どうしてミルティは殿下のことを好きにならないのかしら。

 恋って不思議。

 ネイクとアインさんも、全然タイプが違うのに、あんなに愛し合ってるし。




 研究室の見学と並行して、ミルティにお願いされて、勉強を見てあげることになりました。

 ミルティは、立場から言って官吏になる必要もないので、いい成績を取る必要はないのですが、私がネイクと勉強会をしているのが羨ましかったようです。

 でも、例によって、私の教え方では理解できないようなので、ミルティは、私とネイクの勉強会を脇で見学することになりました。


 「あの、マリー様、そちらのお嬢様は…」


 「ミルトリア・ゼフィラスと申します。

  お姉様のご友人のネイクミット嬢ですわよね。

  以後、お見知りおきを」


 「ごめんなさい、ネイク。

  ミルティは、あなたとの勉強会に興味があって、見学したいと言ってきかないの。

  静かに見ていると約束しているから、いないものと思って気にしないでちょうだい」


 「無理ですよ、マリー様」


 ネイクは、この1年、アインさんや勉強会の貴族子息達との交流の中で、貴族の付き合い方であるとか腹芸などを実地で学んできました。

 公爵令嬢であるミルティと知己を得ることがアインさんの将来にどれほどプラスになるかを理解しつつも、あまりの爵位の高さに及び腰になっているようです。

 少し、助け船を出してあげましょう。


 「ネイク、今度ヒートルース様も交えて勉強会をしたいのですけれど」


 「勉強会ですか? ゼフィラス様と?」


 「それもあるのだけど、アーシアン殿下も混ぜてあげてほしいの。

  殿下は、卒業後は研究所に入りたいそうなのよ。

  植物学についてお教えしてみたいのだけど、私と2人きりというわけにはいかないし、ネイクとヒートルース様にも同席してほしいの。

  ついでに、ミルティに算術を教えてくれると嬉しいわ。

  ヒートルース様にとっても、悪い話ではないでしょう?」


 王位を継ぐ可能性がほぼないとは言っても、アーシアン殿下は王家の方。

 アインさんが、将来的に王城で爵位を得ることを目指しているからには、殿下とお近づきになることの価値はわかるわよね。

 アインさんが王族とのコネを喜ぶのは、予想できるでしょう?


 「あの、アイン様にお話しておきます。

  自習室を取っておきますので、殿下のご都合のよろしい日を教えていただければ」


 「確認して、明日にでも伝えるわ」


 ネイク、あなた、やっぱりすごいわ。

 ちゃんと、アインさんが喜んで準備することを予測できるのね。

 あなたたちが爵位に近づけるよう、私もお手伝いするわ。ほんの少しだけ、ね。




 5日後。

 私は、殿下とミルティをアインさんに引き合わせました。

 さすがにアインさんも緊張しているようですが、そういうのを隠すのが上手いです。

 さて、ネイクにミルティの算術を見てもらっている間に、私は殿下に植物学を教えてみることにしましょう。

 研究室に来た時の受け答えからすると、多分大丈夫だと思うのですが。





 「殿下、やはり植物学は初めてではありませんわね。

  お祖父様から手ほどきを?」


 「いや、恥ずかしながら、独学なんです。

  一度、研究所の見学に行った折、大叔父上から軽く教えていただいたので、後は父上にお願いして、学院の教科書を取り寄せて」


 「それで、ここまで理解を?

  大したものですわ。

  研究所に入りたいと仰っていましたが、王族である殿下がお入りになれるのですか?」


 「成績さえ問題なければ、それは。

  ジェラード嬢もご存じのとおり、僕にはゼフィラス公爵家に婿に入るという話もあるくらいでしてね。

  もちろん、可能性だけの話ですが。

  いずれにせよ、僕はどこかの公爵家に婿に入ることになるから、官僚になっても問題はないんです」


 「なるほど。それでは、予習も十分なご様子ですし、少し本腰を入れてみませんか?

  どうやら殿下は研究に興味がおありのようですし、ご自分で研究できるような基礎を学ばれるのがよろしいかと思います」


 「教えてもらえますか?」


 「ええ。ただ、それなりの時間が取れる時でないと難しいですが」



 予想どおりと言うべきか、殿下はかなり植物学を理解しているようです。

 少し体系的に基礎を学べば、本当に研究者になれるかもしれません。

 少なくとも、ご本人が研究者として研究所に入りたいと思っているわけですから、できるだけのお手伝いはしてみましょう。

 そうなると、週に一度、1~2時間程度では足りないし、お忙しいアインさんをそれに付き合わせるわけにもいかず、かといって、私とミルティと3人では、おかしな噂が立ちかねません。

 仕方がないので、お祖母様にお願いして、週末にゼフィラス公爵家に集まることにしました。

 お祖父様が亡くなって以来、お祖母様は元気がないのですが、お祖父様や研究の話をすると少し元気になるので、叔父様からはなるべく顔を見せてほしいと言われていますし。

 その際、ついでに

 「お祖母様、ミルティと殿下は正式に婚約はしないのですか?」

と尋ねたところ、

 「正式も何も、婚約話など出ていません。

  単なる幼なじみです。

  ただ、殿下はいずれどこかの公爵家に入ることになりますが、今のところ行き先が決まっておらず、ミルティも相手がいないことから、一緒に行動することが多くなっているだけのことです」

と言われました。

 それって、このままいけば婚約するってことのような気がするんですけど。

 とは思いましたが、王家の事情など私にはわかりませんから、それ以上は言えませんでした。





 それから3週間、殿下は、週に2日は研究室に来て、週末はほとんど1日中ゼフィラス公爵家で私と勉強会をしていました。

 そして、勉強会をした甲斐あって、殿下は、見事植物学で飛び級を果たしました。

 なぜか、ミルティも算術で飛び級しました。

 ミルティはネイクを相当気に入ったらしく、寮で時々勉強会をしているのは知っていましたが、まさか飛び級するとは思いませんでした。

 てっきり、一緒に遊ぶための口実だと思っていたのですが。




 王家や公爵家では初めての飛び級、しかも幼なじみの2人です。

 週末に殿下がゼフィラス公爵家を訪れていたのは、それなりに知られていましたから、周囲には、2人で勉強会をしていたものと思われています。

 ますます婚約話が現実味を帯びてきました。

 ミルティ自身は王城に入るつもりはないそうで、単に飛び級してみたかっただけだそうです。

 「してみたかっただけ」で飛び級するというのもすごい話ですが、

 その後も殿下との勉強会は続けましたが、2人とも二段飛び級はできず、殿下との勉強会は終わりを告げ……るはずだったのですが、殿下のたっての願いで、その後も勉強会を続けることになってしまいました。

 時間は週に2時間ほどに減らしましたが。

 まあ、いいんですけどね。

 どうせお祖母様を訪ねる用事もありますし、相手が殿下なら疲れませんから。

 当初は、アーシアンだけが飛び級するはずだったのですが、なぜかちゃっかりミルティまで飛び級していまいました。

 ネイクと寮で勉強会をしているのは、女子寮ではそれなりに有名なので、ネイクの指導力に対する評価がまた上がっています。

 一方、アーシアンの地味なアプローチは、マリーには伝わっていません。

 カトレアやガーベラスが屋敷を使わせているのも、そういう思惑からなんですが。

 一方通行ラブコメって難しいです。


 4月27日は、前作「転生令嬢は修道院に行きたい(連載版)」の連載開始1周年なので、記念に閑話を更新します。

 27日午後11時頃の更新の予定です。


 なお、「奇蹟の少女」については、通常どおり29日午前零時頃更新です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うーん。アーシアン、ちょっとリードしてますねー。気がついてもらえてないけど。 植物学飛び級とはたいしたものだ! しかし、ミルティとオルガ、全然、交流してないなあ。いやいや、パスールが台頭…
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