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奇蹟の少女と運命の相手  作者: 鷹羽飛鳥
学院1年目
45/161

裏18-3 憧れの七色(アーシアン視点)

 時系列的には、18話の翌日で、裏18-1話の前になります。

 「で、憧れの七色のバラを見た感想はどうだ?」


 「聞きしに勝る素晴らしさでした。

  大叔父上は、やはり最高の研究者です」




 昨日、僕はサイサリス大叔父上の屋敷で、七色のバラの本物を初めて見た。

 何色かは見たことがあったけど、七色全部を見たのは初めてだった。

 七色のバラの話を初めて聞いたのは、5歳くらいの頃だっただろうか。

 幼なじみで、僕の婚約者候補でもあるミルティが、自慢したんだ。

 「おじいさまは、バラをすきな色で咲かせられるのよ」

というような話だったと思う。

 なにしろ随分前のことだから、詳しいことは覚えていないけど、やれお祖母様の結婚式では七色のバラで作られた花束をお祖父様が贈ったんだとか、お祖父様は研究所の所長として野菜の研究をしながらバラの研究もしていたとか。

 僕が大叔父上に会うことはそこそこあったけど、それまで研究の話をしたことはなかった。

 それで、一度バラの研究の話をしてもらったんだけど、七色全部を揃えることは滅多にないんだとか。

 大叔父上は、幼い頃からバラを好きな色に咲かせることが夢で、学院でも元々はバラの研究をしていたんだそうだ。

 でも、学院を卒業して、当時はまだ新設の弱小部門でしかなかった研究所に入った後、国のためになる研究を、ということで、イモの研究を優先したらしい。

 バラでは、国のためになる研究として研究費を出すのは難しいというのが理由だったそうだ。

 だから、大叔父上は、研究所で野菜の研究をする傍ら、ご自分だけでバラの研究をしていた。

 アライモの時に共同研究者だったのが、不世出の才媛と呼ばれているセルローズ・ジェラード侯爵夫人で、彼女はその功績をもって、その後も研究所が開発した新種を領地で作っている。

 と聞いていたけど、今回、大叔父上の葬儀に行く直前にお祖父様に聞かされた話では、むしろジェラード侯爵夫人の研究なんだそうだ。

 急に言われても理解が追いつかないんだけど、要するに、侯爵夫人が研究をほぼ完成させた段階で、研究所で仕上げをして発表しているんだとか。

 それが外部に知れると、侯爵夫人の身が危険に晒されるので、そのことは極一部の者にしか知られていない。

 身内であるミルティでさえ知らされていないそうだ。

 彼女は、うっかり誰かに喋ってしまいそうだから、それも仕方ないのかも。

 僕が今回知らされたのは、ローズマリー嬢に会う前に真実を知っておかないと、知らずに無礼なことを言って嫌われる恐れがあるから。

 確かに、僕は、不世出の才媛の功績なんて、何も知らなかった。




 不世出の才媛が、どれ程の力を持っているのかは、今も僕にはわからない。

 大叔父上は飛び級していないのだから、少なくとも成績は文句なしに向こうの方が上だろう。

 最初の新種は共同研究だったわけだし、大叔父上と一緒に研究できるだけの力もあっただろうと思う。

 あの大叔父上よりも凄い研究者だなんて、僕には理解できない。

 でも、昨日大叔母上に聞いてみたら、そのとおりだと言われてしまった。

 大叔父上が亡くなった直後に、わざわざ貶めるようなことを言うわけがないから、本当だと思うしかない。

 大叔父上や大叔母上との関係が良好だということは、よくわかる。

 なにしろ、ガーベラス叔父上の姉君は、幼なじみであるノアジール・ジェラードに自ら望んで嫁いだわけだし。

 貴族の結婚が、幼なじみだからとか、仲がいいからなんて理由ではできないことは、僕とミルティを見ればよくわかる。

 つまり、大叔父上達には、娘をジェラード侯爵家に嫁がせる意味があったんだ。

 不世出の才媛との縁繋ぎという、意味が。





 僕は、ミルティとは幼なじみで、婚約者候補ということにもなっている。

 僕の場合、王位を継ぐことはないし、継ぎたくもないから、いずれどこかの公爵家なりに婿として入ることになるだろう。

 その相手の筆頭候補が、今のところミルティだというだけだ。

 元々僕とミルティは婚約する前提で引き合わされたのに、6年経った今も、一向に話が進んでいない。

 なんというか、微妙な距離感で、一緒にいて心地いいし、離れる時は寂しいんだけど、僕はミルティに恋愛的な感情は持っていないと思う。

 なにしろミルティは、従兄であるオルガ・ジェラードのことが好きなのに、僕はそれに嫉妬しないし、羨ましいとも思わないんだから。

 まあ、領地貴族の跡継ぎと、公爵家の跡取り娘じゃあ、結婚するのは無理だってわかってるからの余裕だと言われれば否定はできないけれど。

 ともかく、どこかの公爵家に婿に入ることになる僕と、婿を取ることになるミルティの仲がいいということは、僕がゼフィラス公爵家に婿に入る可能性が高いということになるし、周りもそう見ているわけだ。





 「ローズマリー・ジェラード嬢にも会ってきたな?」


 そう、昨日の最大の成果は、ローズマリー嬢に会えたことだ。

 夏に大叔父上にお会いした時にお話を聞いた、奇蹟の再来と呼ばれる令嬢。

 弟子にして色々教えてほしいとお願いした僕に、大叔父上は

 「私などより、ローズマリーの弟子になった方がいい」

と断ってきた。

 ローズマリー嬢のことはミルティから聞いてはいたけど、まさかそんなことを言われるとは思わなかった。

 いくらローズマリー嬢が二段飛び級した才媛とはいえ、たった1歳上でまだ院生でしかない彼女に弟子入りなんてと憤慨したら

 「私など及びも付かない研究者だよ。あの子はいずれ、王国に名を轟かすことになるだろう」

と言われた。

 研究にストイックな大叔父上が、孫可愛さにそんなことを言うはずがない。

 信じるしかなかった。

 大叔父上が学院の研究室に通っているのは、ローズマリー嬢の研究を見るためだとか。

 孫だからではなく、優秀な研究者だから、その作業を見て、意図を聞くことが楽しいから行くのだと。

 あの大叔父上が手放しで褒め、期待する、若き天才。

 「はい、会いました。

  大叔父上やミルティから聞いていたとおりの方ですね。

  あまり貴族令嬢らしくない自然体で、そのくせ礼儀作法は完璧にこなす。

  ミルティが憧れるのもわかります」


 「その上、研究者としての資質は、サイサリスを上回る。

  だから、お前の婿入り先として、ローズマリー・ゼフィラスを候補に入れることにした」


 「ローズマリー・ゼフィラス(・・・・・)…ですか? ミルティはどうするんです? お家乗っ取りと後ろ指を指されるのは面白くないのですが」


 「ミルトリア嬢には、良い嫁ぎ先が必要だろうな。

  一番いいのはカーマインのところだが、どうもそれはうまくないようだ」


 「ミルティに王妃なんて、務まりませんよ」


 「ふむ。

  ミルトリア嬢と結婚したいとは言わんのだな。


  もしお前が本気でローズマリー嬢を欲するなら、お前の結婚相手をローズマリー嬢にしてもよい。

  ただし、条件が3つある。

  1つ、ローズマリー嬢自身もお前との結婚を望んでいること。

  2つ、彼女が学院を卒業し研究所に入るまでは、お前から口説かないこと。

  3つ、婚約はミルトリア嬢の嫁ぎ先が決まってからにすること。

  この3つだ」


 「ミルティの嫁ぎ先が決まるのが先というのはわかります。

  ミルティが嫁ぐことになり、跡継ぎがいなくなるゼフィラス公爵家にローズマリー嬢が養女に入る形を取るということですよね。

  ローズマリー嬢が望んだらというのも、わからないでもありません。

  しかし、卒業前はアプローチするなというのは、どういうことでしょうか。

  大叔父上の喪が明けるまでにしては、少し長すぎるのでは?」


 政略でなく恋愛結婚を求めるというのは、わかる。

 ミルティの話では、ローズマリー嬢は「運命の人」と愛し合って結婚するのが夢らしいから。

 そうでなくても、恋愛結婚に憧れる貴族令嬢は多い。

 けど、卒業してからってどういうことだろう。


 「実は、パスール・スケルスがローズマリー嬢に懸想しておってな。

  春先にしつこく言い寄っていたせいで、彼女は男嫌いになってしまったようだ」


 男嫌い? 昨日会った時、僕に嫌悪感を向けては来なかったけどなあ。

 「男嫌いという印象は受けませんでしたが」


 「それは、お前を男とは見ていないからだ。

  彼女は、お前をミルトリア嬢の幼なじみもしくは婚約者候補と思っているだろう。

  自分を口説こうとしない相手は、男としては見ないし、身内が仲良くしている相手なら警戒はしないというわけだ」


 なるほど。だから僕は嫌われなかったと。

 でも、それは卒業を待つ理由じゃないような…。


 「そのことと、卒業まで口説くなというのは、どういう関係でしょう?」


 「パスールはな、ローズマリー嬢に相応しい立場を手に入れるため、研究所に事務方として入ろうと考えている。

  研究所に入ったら、再び彼女を口説くだろう。

  だから、パスールにもチャンスをやることにする。

  その代わり、お前に出したのと同じような条件を付けるがな」


 「つまり、パスール殿とスタート地点を同じにするということですね」

 それって、遅れて卒業する僕が不利なんじゃないか?


 「そういうことだ。

  無論、お前もパスールも口説き落とせず、別の男に攫われるかもしれんから、あくまでお前達の条件を平等にしようというだけのことだ」


 「わかりました。

  大叔父上が認めた彼女の才能に触れてきます」


 ああ、それと、これも確認しておかないと。


 「口説くのは駄目でも、近付くのは構いませんね? 僕は研究所志望なんで、将来の研究仲間とは仲良くしておきたいんです。

  研究室の見学に行く約束もしていますしね」


 「もちろん、仲がいいに越したことはない。

  むしろ、警戒されない限り、積極的に近付くくらいが望ましい。

  ローズマリー嬢から口説かれたのなら、卒業を待つ必要すらない。

  直ちに婚約できるようにしてやろう。

  だが、くれぐれも周囲から、特にパスールから苦情が来ることのないようにな。

  学院には、ローズマリー嬢に虫が付かないよう注意させているのでな」


 「わかりました。

  嫌われないようにします」


 ローズマリー嬢、大叔父上が認めたその才能に触れられるのを楽しみにしていますよ。

 アーシアン参戦です。

 王家に時々生まれる変わり者で、同じ変わり者のサイサリスに懐いていました。

 そのサイサリスがべた褒めするマリーに、憧れのようなものを持っています。

 研究所志望ということもあり、それを口実にマリーに近付いていくつもりです。

 サイサリスよりは、かなり腹芸もできます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >僕はミルティに恋愛的な感情は持っていないと思う。なにしろミルティは、従兄であるオルガ・ジェラードのことが好きなのに えええええ!! そうだったの? がーーん。 [気になる点] そっかー…
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