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奇蹟の少女と運命の相手  作者: 鷹羽飛鳥
学院1年目
31/161

裏13-1 「不世出の才媛」の再来(オルガ視点)

 マリーが二段飛び級した。

 僕もお父様もできなかったのに。正直言って妬ましい。

 植物学だったってことが、せめてもの救いだ。

 これが簿学や算術だったら、僕は本当にマリーを妬んでいたかもしれない。可愛い妹なのに。

 マリーは、経営学を取っていない。

 領地を継ぐわけじゃないし、マリーの希望はお祖母様と一緒に研究することだから。




 マリーは、元々領地を出ることが少なかった…というより、王都のお祖父様を訪ねる時以外は領地を出なかったから、その存在自体を知られていなかった。

 農業主体の領地貴族は、さすがに我が家(うち)に女の子が生まれたという情報をいち早く手に入れて、マリーが8歳になる頃には、こぞって婚約を申し入れてきたけれど。

 そんなわけで、マリーが学院に入学して暫くは、静かなものだった。


 そのうち、社交の講義などからマリーの名前が流れ始めた。

 それはもう、お父様の言っていたとおり、「3科目飛び級したオルガ・ジェラードの妹らしい」「不世出の才媛の孫がもう1人」「娘もいたのか」「既に3代にわたって3科目飛び級しているが、今度はどうだ」など、噂が飛び交っていた。

 そのうち、「いつも令嬢に囲まれて歩いている」「婚約者はいないようだ」「平民の娘とよく一緒にいるらしい」なんて話が聞こえてくるようになった。

 平民の娘というのは、マリーがよく話題にするネイクという子だろう。

 僕は会ったことはないけれど、マリーの口から出てくる友人の名は、そのネイクという子と、その婚約者のヒートルース子爵子息の2人だけだ。

 なんでも、2人は幼なじみで、7歳の時に学院での再会と結婚を約束して別れ、本当に学院で再会してすぐに婚約したんだそうだ。

 貴族と平民の子が幼なじみという時点で嘘くさい話だけど、マリーはその話を信じているらしい。

 相変わらず恋愛に夢を見ていて微笑ましい。

 僕やお祖母様の絡まないことをあんなに嬉しそうに話すマリーは珍しいから、本当に仲の良い友人なんだろう。

 マリーが言うには、お祖母様にも学院時代に平民の友人がいたんだそうだ。

 そんな話、僕は聞いたことないけど、マリーしか知らないお祖母様の昔話は沢山あるから、きっとそうなんだろう。

 なんにせよ、仲の良い友達ができたようでよかった。




 1か月が過ぎて、マリーが飛び級した。

 簿学と算術と植物学だ。

 その頃から、マリーに関する噂を聞く頻度が上がった。

 「やっぱり3科目飛び級した」「今度こそ二段飛び級するか」「さすがにそれは無理だろう」「言い寄る男を片っ端から切り捨てているらしい」などなど。

 そういえば、ジーンは一度マリーと2人で食事に行ったけど、その後は誘うことすらできないでいるらしい。

 食事の時に酔っぱらったらしくて、それで距離を取られてしまったようだ。

 騎士団志望の院生は、一緒に酒を飲んで連帯感を高めるというのを好むそうだけど、さすがに12歳の女の子とそれは無理だと思う。

 第一、ジーンは僕とだって一緒に酒を飲んだりしていないのに、どうしてマリーにそんなのを求めたんだか。

 まあ、あの時は酔っぱらって外で寝てしまったらしいし、マリーの前でも大分醜態を晒したんじゃないだろうか。




 マリーは、相変わらず男を寄せ付けない。

 そのせいで、この前、事件が起こった。

 マリーがフォスター侯爵家の嫡男に、ナイフで襲われたんだ。

 無事だったからいいけれど、一歩間違えばマリーは死んでいたかもしれない。

 フォスター侯爵家というのは、マリーがまだ小さかった頃に、婚約を申し入れてきた家の1つで、農業が盛んな領地を治めている。

 当然、すぐに断ってしまったそうだけど、そんな家の嫡男が、今更マリーに言い寄ってきたのが原因だったそうだ。

 いつものようにマリーが全く相手にしなかったものだから、彼は立ち去ろうとするマリーにナイフで襲い掛かった。

 マリーが持っていたバッグで身を庇い、たまたま鋲に刃が当たったお陰で、怪我をせずにすんだらしい。

 このことは、すぐにジェラード侯爵家(うち)とゼフィラス公爵家に知らされ、うちのお祖父様から厳重に抗議したらしい。

 詳しい経緯はよくわからないけれど、あっという間に子息は退学の上廃嫡、フォスター侯爵家も伯爵に格下げされたそうだ。

 廃嫡は当然としても、爵位まで下げられちゃうんだな。

 偶然鋲に当たったから怪我をせずにすんだけど、普通なら大怪我してるところだ。

 僕なんかじゃ暴漢から守れるほどの腕はないけど、少しマリーの周辺に気を配った方が良さそうだ。




 そうそう、マリーの友人のネイクも簿学で飛び級したと話題になっていた。

 平民の女子では初めてだし、同じ科目で2人も飛び級するのも初めてだったから。

 しかも、マリーがネイクに勉強を教えていたというのも噂になっている。

 「平民の娘が、ジェラード侯爵令嬢に教わって飛び級した」って感じで、マリーの手柄みたいな言われ方をしている。

 たった一月マリーに教わったくらいで飛び級できるわけがないから、ネイクって子は、元々優秀だったんだろう。

 それで、「飛び級した平民は、ヒートルース子爵家が手に入れた」って噂になっていた。

 マリーは、飛び級する前から2人は婚約していたのにと言って怒っていたけど、まあ、普通に考えてそんなことあるわけないから仕方ないよね。



 で、どういうわけか、その2人を中心に大規模な勉強会が開かれるようになったらしい。

 官吏志望者が集まって、お互いに得意なことを教え合う集まりだそうだ。

 みんな登用試験では競争相手(ライバル)になるんだろうに、敵に塩を送り合う集まりというのは、不思議な感じがする。

 とは言え、その勉強会は評判がいいみたいだ。

 ことに、学院からのウケがいい。

 そりゃあ、官僚候補を育てるために学院があるんだから、優秀な院生が増えることなら大歓迎なんだろうけど。

 主催者であるヒートルース子爵子息は、随分評価が上がったらしいけど、それだけで官吏になれるものじゃない。

 ライバルを助けて自分が登用試験に落ちたら元も子もないけど、その辺は大丈夫なのかな。




 そんな1か月の後、マリーが二段飛び級した。

 周囲からの期待のプレッシャーなどないかのように平然と。

 さすがに、僕に報告に来た時は満面の笑みだったけど。

 それにしたって、二段飛び級したことの喜びというよりは、お祖母様と同じことをできたことへの喜びって感じだった。

 お父様が言っていた「大好きなお祖母様に褒めてもらえるのが嬉しくて才能が目覚めた」っていうのは、こういうことなのかもしれない。

 マリーは、王都のお祖父様のところにも報告に行って、随分褒められてきたみたいだ。


 そして、学院では、二段飛び級の噂で持ちきりだ。

 「2人目の二段飛び級が出た」「不世出の才媛の孫が奇跡を起こした」「不世出の才媛の再来だ」などなど。


 正確には、お祖母様は、植物学と算術の2科目で二段飛び級しているから、マリーはお祖母様に並んだわけじゃない。

 でも、たとえ1科目でも、お祖母様以来36年ぶりとなった二段飛び級が、その孫娘によってなされたというのは、かなりのインパクトだったと思う。

 確かに、マリーはお祖母様の後継者に相応しい力を示した。

 ジェラード侯爵家の後継者としてじゃなかったことにホッとしている僕は、器が小さいんだろう。

 僕とマリーの違いは、いったい何だろう。

 マリーは、お祖母様と研究したくて頑張った。

 それじゃあ、僕は? 何のために勉強しているんだろう。

 領地を継ぐため? でも僕は、何もしなくても継ぐことが決まっている。

 もちろん、継ぐだけで終わりじゃないのは、わかってる。

 お祖母様はお祖父様のために。お父様はお母様のために。マリーはお祖母様のために。

 みんな、目標があって頑張った。


 じゃあ、僕は何を目標にすればいいんだろう。

 それさえ見付かれば、僕も成長できるんだろうか。

 僕は、マリーに、兄として胸を張れる男でいたい。

 とりあえず、今はそれを目標にしてみよう。

 マリーの二段飛び級を心から祝福してあげられるように。

 ようやく、二つ名の「奇蹟の再来」が出てきました。

 兄オルガは、よく言えば繊細、悪くいえば線が細いタイプのため、大事にされて育ってきました。

 自分の立ち位置や、目指す方向について、ようやく目を向けることになります。

 いささか遅い感もありますが、まだ14歳ですから、まだまだ挽回できるでしょう。


 次回は、ようやくパスール・スケルスの登場になります。

 これで、前作で予告されている4つのイベントの2つ目です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >貴族と平民の子が幼なじみという時点で嘘くさい話 うんうん。兄ちゃんはマリーよか物事が分かっているね! >まあ、普通に考えてそんなことあるわけないから仕方ないよね 実際も違ったしね笑…
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