2 ナイショは楽しい
マリーはね、今日もおばあちゃまのお手伝いをしてるの。
たし算の問題は、ときどきおばあちゃまが出してくるけど、たすと10になるうんめいのあいてを見つけちゃったマリーは、もう24たす17だってわかっちゃうの。
今日はね、おばあちゃまが何か見ながら、指をいっぱい動かしてたの。
「おばあちゃま、なにをやってるの?」
「実の数をね、数えてたのよ」
「数えてたの? どうやって? その指のぱたぱた?」
「ええ、そうよ。片手で31まで数えられる方法があるのよ。
マリーも覚えてみる?」
「うん!」
「いーい? これで1,これで2、これで3、ね。
後は、ひとつずつ指を増やしながら、4、5、6、7……」
おばあちゃまは、右手で親指だけ折って1,人差し指だけ折って2,親指と人差し指両方を折って3って言って、あとは、中指や薬指をたしていって、31まで数えちゃった。
「すごい! もう1かい!」
さっき、おばあちゃまは、目で実を見ながら、指を折って数えてたんだって。
マリーも数え方がわかったから、声を出さなくても数を数えられるようになったよ。
でもね、これもせかいのナイショだから、自分で見つけた人にしか教えられないんだって。
あとね、かけ算っていうのも教えてもらったの。
「マリー、ここに種が2つずつ入った箱があるでしょ。
全部でいくつあるかしら?」
「2たす2たす2で、6つ」
「そう。それでね、かけ算っていうのは、これを『種が2つ入った箱が3つで、2×3』って数えるの。
3つの箱に2つずつ入ってるから、3×2でもいいわよ。
2×3でも、3×2でも、同じ答えになるの」
「かける?」
「そう。答えがすぐわかるお歌があるのよ」
おばあちゃまのお歌をおぼえたら、かけ算のこたえがわかるようになっちゃった。
まほうのお歌だったんだ。
「このお歌も、せかいのナイショ?」
「残念ながら、これは違うわね。
おばあちゃまが作ったお歌よ」
そっか。ナイショじゃないんだ。ざんねん。
今日はね、お茶の時間にお父さまとお母さまとお兄ちゃまがみんなそろったの。
お茶の時間にお父さまがいることって、あんまりないのよ。
今日は、クッキーがでたの。
おばあちゃまみたいにナイショの数え方で数えてみたら、クッキーが18こあったの。
4かける4が16だから、ひとり4こで、あと2つあまるの。
2つだから、マリーとお兄ちゃまでいいよね。
そうおもったから、
「お父さまとお母さまは4つずつね、マリーとお兄ちゃまは5つずつ」
って言ったら、さっきまでニコニコしてたお母さまが急にこわいかおになっちゃった。
なんだかこわくなって、
「マリー、5つ食べたら、だめ?」
って言ったら、お父さまが
「大丈夫だよ。オルガとマリーは5つずつだね。
でも、よくわかったね」
ってほめてくれたの。
マリーはね、
「おばあちゃまに教えてもらったのよ」
って言ったの。
お母さまもこわいかおじゃなくなったから、マリーはほっとしてクッキーをたべたの。
お兄ちゃまと「おいしいね」って言ってたべたのよ。
次の日ね、おばあちゃまから、またほめられたの。
「クッキーの分け方を計算できたのね。
お母様が驚いてたわよ」
「あのね、数えたらね、お母さまのお顔がね、こわくなったの。
お母さま、どうしておこったの?」
「お母様は、怒ってなんかいないわよ。
マリー、ナイショの数え方したでしょ。
お母様は、ナイショの数え方を知らないから、マリーが魔法を使ったのかと思ってびっくりしちゃったのよ」
「お母さま、ナイショの数え方、しらないの?」
びっくり。
お母さまもお兄ちゃまも知ってるんじゃないの?
「知らないわね。
多分、おばあちゃまとマリーしか知らないんじゃないかしら。
だって、世界のナイショだもの。
マリーは、おばあちゃまが数えてる時に、おばあちゃまの手が不思議な動き方をしていたことに気が付いたでしょ。
でも、お母様は、マリーの手がどうやって数えていたか、気が付かなかったでしょう?
ナイショを見付けたマリーにはわかるけど、自分で見付けられなかった人にはわからないのよ」
「教えてあげたら、お母さまもナイショの数え方ができるようになるかな?」
「できるようになるかもしれないし、ならないかもしれないわね。
だって、お母様は、自分で見付けられなかったから。
誰かに教えてもらったナイショは、ナイショじゃなくなっちゃうの。
マリーがお母様に教えてあげるとね、ナイショの数え方が『変な数え方』になっちゃうの。
お母様が『変な数え方』を覚えられるかどうかは、わからないわねえ。
教えてあげてごらんなさい。
もしかしたら、覚えてくれるかもしれないわよ」
だからね、マリーはお母さまとお兄ちゃまにナイショの数え方を教えてあげたの。
そしたらね、お母さまは
「え? え? ごめんね、マリー。お母様、指がついていけないわ」
って言って、できなかったの。
お兄ちゃまはね、すぐにできるようになって
「へえ、おばあ様から習ったの?
おもしろいねえ」
って言ってくれたの。
よかった、お兄ちゃまはナイショの数え方ができるようになったのね。
でも、少しあとで、またお茶のときにビスケットを数えようってお兄ちゃまに言ったら、普通に指を折って数えてたの。
「なんでナイショの数え方しないの?」
って聞いたら
「忘れちゃった」
だって。ひどいよ。
おばあちゃまにそのことを言ったら、
「そうなの。
世界のナイショはね、ナイショじゃなくなっちゃうと、忘れちゃうことが多いのよ。
だから、自分で見付けなくちゃね。
こんなに楽しいこと、忘れちゃったら勿体ないもの」
って言って、わらってた。
うん、マリー、いっぱいせかいのナイショをみつけるよ。
そしたら、おばあちゃまとナイショのこと、いっぱいお話しできるもんね。
今回出てくるナイショの数え方というのは、指を折った状態を「1」、立てた状態を「0」と見て、二進法で数える方法です。
例えば、二進法で5は「101」となり、この数え方では、中指と親指を折った状態になります。
桁が1つ増えるたびに、数えられる数が2倍+1になるので、片手で31,両手だと1024まで数えられます。
1話でマリーが「両手を使っても数えられないくらい、いっぱいいっぱいのお花」と言っていたのは、1024より多いという意味です。
この数え方は便利だと思うのですが、指の状態から数がぱっとわからないため、鷹羽は、この数え方をしたがる人に会ったことがありません。
マリーは、好奇心が旺盛で、自分で見付けた「ナイショ」だから、使いたいのです。
兄のオルガがすぐ忘れたのは、さして興味がなかったせい。
おばあちゃまが言っていた、ナイショがナイショでなくなるというのは、つまり、形骸化した公式など応用できないから意味がない、ということです。