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奇蹟の少女と運命の相手  作者: 鷹羽飛鳥
学院1年目
24/161

裏11-2 あの日の約束(ネイクミット視点)

 1月31日に、裏11-1話を臨時更新しています。

 まだお読みでない方は、そちらを先にお読みください。

 「ネイクミット、折角だから飛び級試験を受けてみろ」


 ある日、アイン様からそう言われた。

 飛び級試験だなんて恐れ多い話ですとお断りしても、アイン様は許してくれない。

 いつも優しいアイン様が、珍しく強く推してくる。


 「もう簿学の教科書は全部予習してしまったんだろう?

  基礎科(1年分)の内容は頭に入ってるんだ、飛び級の条件は満たしてるじゃないか。

  受ける価値は、十分ある」


 「予習と言っても、マリー様に教わったお陰です。私の実力では…」

 「前にも言ったがな、習ったことを身に付けたのはお前の力だ。

  そもそも飛び級試験は、失敗したとしても罰則があるわけじゃない。受けてみるべきだ」


 「身の程知らずと笑われます」


 そう、平民のくせに飛び級試験を受けて落ちたりしたら、笑いものになってしまう。

 あたしだけならいいけど、一緒にいるマリー様やアイン様まで笑われるかもしれない。


 「誰が笑う? 俺は、決して笑わない。ジェラード嬢も笑わないだろう。

  それに、お前にはそれだけの力があると俺は信じてる。

  飛び級すれば、官吏登用は約束されたようなものだ。絶対に受けて損はない」




 こうして、アイン様に押し切られる形で、あたしは飛び級試験を受けることにした。

 確かに簿学は、マリー様に教えてもらったお陰で、1か月で教科書が終わったから、本科に上がってもなんとかなるかもしれない。

 アイン様は、算術も受けてみればいいと言ってくれたけど、簿学と違って算術はまだ教科書の3分の1も進んでいないからとお断りした。



 簿学の試験を受けたのは、マリー様とあたしの2人だけだった。

 マリー様は、簿学だけでなく、算術と植物学も受けてる。

 マリー様のお祖母さんが3科目で飛び級したから、同じことをしたいんだと仰っていたけど、マリー様なら、あっさり飛び級しそうな気がする。あたしがそんなことを言うのは生意気だけど。



 結果発表までの心臓に悪い数日が過ぎ、あたしは、驚いたことに飛び級できた。

 マリー様は、やっぱり3科目とも飛び級したけど、自分のことよりもあたしの飛び級を喜んでくださった。

 そして、アイン様は、それ以上に喜んでくれた。



 お祝いにと、レストランで食事をした後、寮に送っていただく途中の公園で、アイン様は、突然あたしの左手を取って片膝をついた。

 そして、

 「ネイクミット・ティーバ。

  俺の妻として、生涯を共に生きてくれ」

と言って、手の甲に口づけた。

 突然のことに驚いたあたしは

 「は、はい…」

と答えるのがやっとだった。

 立ち上がったアイン様は、あたしを抱き締めて

 「まだ、きちんと言っていなかったからな。

  正式なプロポーズ()は、俺が官吏になってからになる。

  だが、俺の妻は、お前以外あり得ない。

  それを忘れないでくれ。

  2人で官吏になって、爵位を掴み取ろう」

と耳元で囁いてくれた。

 ようやく頭が追いついたあたしの目からは、ぽろぽろと涙が溢れてきた。

 あたしは、アイン様にしがみつくように抱き返した。

 「一生、お側に置いてください。

  誠心誠意お仕えします」

とあたしが言ったら、

 「バカを言うな。お前は使用人じゃなくて妻になるんだ。仕えるんじゃない。

  俺と共に生きてくれ」

と言われた。

 嬉しい。アイン様が「共に生きてくれ」だなんて。

 もう涙が止まらなかった。

 「はい。一生ついていきます」


 しばらく抱き合った後、キスをしてあたし達は離れた。

 初めてのキスは、とてもロマンチックで、このまま全てを捧げたいと思うほどだった。


 「今後は、ジェラード嬢に倣って『ネイク』と呼ぼう。

  お前も、2人きりの時は『様』はいらないからな。


  それとな、これから、色々な貴族がお前に声を掛けてくるはずだ。

  飛び級したお前を欲しがる下級貴族は多いだろう。

  前にも言ったが、貴族がお前に何か言ってきたら、俺と婚約していると言ってあのハンカチを見せてやれ。

  お前に声を掛けてくるのは、官僚貴族の子爵までだろうから、(うち)の家名で対抗できる」


 その後、アイン様は、寮の入口まで送ってくれた後、もう一度キスしてくれた。



 その夜、あたしは、兄さんに手紙を書いた。

 学院を受験できるよう父さんを説得してくれた兄さんに、飛び級のことを報告するために。




 2日後、あたしが1人でいる時、本当に貴族があたしに声を掛けてきた。

 なんとかっていう子爵家のご子息は、

 「お前がネイクミット・ティーバか。

  平民のお前を我が婚約者に取り立ててやる。

  ありがたく思え」

とか言ってきた。

 いくら貴族だからって、初めて会ったのに婚約者にしてやるからありがたく思えってどういうことよ。

 あたしは、アイン様に言われたとおり、

 「申し訳ありませんが、私には既に婚約者がおりますので、お引き取りください」

と言い返した。

 相手は、それでも

 「平民の婚約など、解消すればいいことだ」

なんて言ってきたので、ハンカチを見せて

 「ヒートルース子爵家ご子息のアイン様と婚約しております。

  私の一存で解消などできません」

と言ってやったら、

 「ちっ! 出遅れたか! 手の早いことだ」

と捨て台詞を残して帰って行った。


 そうだね。5年くらい出遅れてるね。

 あと、アイン様は、あたしに手なんか出してないから。

 あたしは、アイン様に身を任せてもいいと思ってるけど、アイン様はあたしを抱き締めた時

 「このまま、お前を俺のものにしてしまいたいのは山々なんだが…。

  貴族の婚姻には、貞操がとても重要でな。

  婚姻まで貞操を守れないと、ふしだらな娘として扱われる。

  俺が今お前を抱いたら、お前は生涯肩身の狭い思いをすることになるからな」

と言って、あたしを抱こうとはしなかった。

 アイン様は、普通の貴族のお坊ちゃんなんかと違うんだ!



 同じ日に、もう1人、なんとかって男爵家の人にも言い寄られたけど、今度は最初からハンカチを見せて

 「申し訳ありませんが、私には婚約者がおりますので」

と言ったら、引きつった顔で、

 「ヒートルース家ご子息の婚約者殿だったか。いや、失礼した」

と、慌てて逃げていった。


 それから数日は、毎日同じようなことを繰り返してた。


 マリー様は、そんな様子をたまたま見たらしくって、


 「家紋入りのハンカチ(そんなもの)をいつの間に戴いたの?」


と聞かれたので、再会したあの日に、婚約の証として貰った話をしたら、微笑んで


 「そう。ヒートルース様は、素晴らしい方ね」


と、アイン様を褒めてくれた。

 そして


 「家紋入りのハンカチを渡すのは、家名を使うことを許すって意味なの。

  渡した相手が何かしでかせば、家名に傷が付くのよ。

  ヒートルース様がそれをネイクに渡したってことはね、ネイクを心から信頼しているって証なのよ。

  いいわね、信じ合える恋人同士って。うらやましいわ」


とも。



 あたしは、家紋入りのハンカチがそんなに重いものだなんて知らなかった。

 婚約の証として渡された物だから、当然大切に肌身離さず持っていたけど、アイン様があたしを信じてくれている証でもあったんだ。

 7歳の、引っ越す時の、あの日の約束を胸に頑張ってきたのは、あたしだけじゃなかった。

 アイン様も、あたしと学院で再会する日を信じて待っていてくれたんだ!



 アイン様、あなたが爵位が欲しいなら、私は何でもお手伝いします。

 12歳で、貞操がどうのという話が出るのも、アレなんですが…。

 この世界の人の精神年齢は、現代日本のそれより3歳くらい上になります。

 つまり、今のネイクの精神年齢は15歳くらいです。

 ちょっとませてるかな、という程度でしょうか。

 今時だと、当たり前ですかね?

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― 新着の感想 ―
[良い点] あー、もうネイクってば!なんと純粋な!! ハンカチで唾つけたのは、マリーの友人候補だったからよー。 まあ、いいか。こういう一途さは、意外と恋愛には強かったりするのよね。 狡猾な男も、こ…
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