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奇蹟の少女と運命の相手  作者: 鷹羽飛鳥
学院1年目
23/161

裏11-1 飛び級!?(ナシール視点)

 リクエストを戴いたので、今回はネイクの兄:ナシール・ティーバ視点です。

 庶民から見た学院と官吏は、こんな存在です。

 「は!? 飛び級!?」


 俺の下の妹のネイクミット(ネイ)は、この春から王都にある王立学院に通っている。

 ネイから俺あての手紙が届いたのは、5月中頃のことだった。

 手紙には、「簿学で飛び級した。夏の長期休暇には帰るから、詳しいことはその時話す」といったことが書かれていた。

 ネイは、小さい頃から聡い子だったが、あの入学することさえ難しい王立学院で飛び級したとは、さすがに信じられない話だ。

 手紙を読んで硬直した俺を見た親父が手紙を読んだことで、家中が大騒ぎになった。




 王立学院に入学するということは、平民の間では一種のステータスだ。

 商人の子が王立学院を卒業すれば、見所のある奴として扱われ、娘を嫁にという話がわんさか舞い込むことになる。

 事実、この春王立学院を卒業した俺のところには、親父が修行した王都のドリスト商会から、次女のジョアンナを嫁にという話が来ていて、もうじき日取りの打ち合わせに入ることになっている。

 ジョアンナは、俺の上の妹(3つ下)のアリスと同い年で、アリスにとっては憧れのお嬢様だった。

 大きな商会のお嬢様だから、いつも綺麗な服を着ていて、アリスは、あんな服が着られるようになりたいと、口癖のように言っていた。

 そのお嬢さんを、是非嫁にもらってほしいと、あちらから言ってきた。

 かつての雇い主が娘を嫁にと言ってくるということは、ティーバ商会(うち)が今後発展すると見込んでいるということだ。

 俺達平民にとって、王立学院を卒業したということは、それほどに大きな意味を持っている。


 それもまあ、当たり前と言えば当たり前の話だ。

 王立学院は、貴族なら誰でも入れるが、平民が入るには入学試験に合格しなければならない。

 人数ではなく点数で合否が決まるから、入学できる人数は年によって違うが、毎年百人以上が受験して、合格するのは十数人だ。

 事実、俺は合格できたが、アリスは落ちている。

 その俺にしても、講義について行くのに苦労した。

 中には、単位を取れずに卒業できない奴もいる。

 王立学院は、5年の間に卒業に必要な単位を取れないと退学になるから、そういう奴は王立学院中退として、入学できなかったよりはちょっとマシくらいの扱いになる。

 退学するのも年に1人や2人はいるが、単位が足りなくてってのはほとんどが平民で、貴族の場合は剣術の講義で大怪我したとか、病気になったとかってのが多い。


 ただ、平民の中にも、官吏になって王城に入ったり、地元の領主のところで役人になったりする優等生がいる。

 商家の次男坊あたりだと家は継げないから、普通はどこかの商会に修行に行ってそこで役職に就くか、うちの親父みたいに独立するかできると成功したってことになる。

 そんな中で、大逆転を狙えるのが、王立学院を卒業する際に登用試験を受けて官吏になることだ。

 家族の中に官吏になったのがいたりすると、そこの家の信用は段違いに跳ね上がる。

 もっとも、弟が官吏になった兄なんてのは悲惨なもんで、家での力関係が逆転してしまうんだが。


 とはいえ、この登用試験てのは、入学試験が可愛く見えるくらいの難関らしくて、王立学院の中でも上の方の成績じゃないと受からないらしい。

 なにしろ、官僚貴族だと、嫡男でも官吏になれなきゃ爵位を失うから必死だ。

 逆に、平民でも貴族になれることもある。

 あくまで「なれることもある」ってだけで、そんなのはよっぽどうまくいった奴だけだが。

 そもそも、平民で官吏になれる奴なんて、年に1人か2人くらいのもんだろう。

 で、登用試験を受けずに官吏になる方法が1つあって、それが飛び級だ。

 入学して1か月目に試験を受けて、それでいい成績を取るとすぐに上の学年に進めるという制度だが、これをやると王城の方から、官吏にならないかとお声が掛かるらしい。

 2~3年に1人しか出ないという、登用試験より更に狭き門だから、官吏になるために受けるようなものじゃないけどな。


 俺が王立学院にいた5年間で、飛び級したのは3人。

 1人は、俺より3つ上の平民で、出納学で飛び級して官吏になった。

 もう1人は、1つ上の貴族で、剣術で飛び級して騎士団に入った。

 最後の1人は、入学した時から飛び級するんじゃないかと騒がれてた3つ下の貴族で、3科目も飛び級した。

 噂によると、「不世出の才媛」とかいう人の孫で、親子3代で3科目飛び級しているというすごい家系らしい。

 ただ、領地貴族なので、飛び級しても官吏にはならず、卒業と同時に領地に帰ってしまうんだとか。


 その、飛び級を。

 まさか、ネイが…。




 元々、アリスが王立学院受験に失敗したことから、親父はネイに王立学院を受けさせるつもりはなかった。

 不合格は言わずもがなだし、合格してもアリスの立場がなくなる。

 立場、と言うか、嫁ぎ先が。

 妹より出来の悪い姉など、もらい手がつかない恐れがある。

 でも、ネイは王立学院に拘ってた。

 俺が長期休暇で戻るたびに、勉強を教えてくれとやってくる。

 教えてやってる時に、一度、なんでそんなに拘るのかを聞いたことがある。

 ネイは、親父には内緒にしてほしいと口止めしてきた上で、官吏を目指してるからだと言った。

 一緒に官吏になって結婚するって、ヒートルース子爵家の坊ちゃんと約束したから、とか夢みたいなことを。

 たしかに、ネイが坊ちゃんを好きだったのは知ってるけど、貴族が平民と結婚なんてするわけがない。


 「お前、そんな夢みたいなことあると思ってるのか?」

 「坊ちゃまと約束したの。一緒に官吏になるって。そしたら、ずっと一緒にいられるって。官吏になるには、王立学院に行くしかないの」

 「まあ、いい。じゃあ、約束しろ。

  もし官吏になれなかったら、親父が行けって言ったところに嫁げよ」

 「え、でも…」

 「官吏になれなきゃ、坊ちゃんと一緒にいられないんだろ。じゃあ、どこにでも嫁げるだろう」

 「…わかった。官吏になればいいんだよね」

 「そうだ。官吏になれるなら、誰も文句なんか言うわけがない。

  学院に入れたら、経営学は必ず取れ。うちの仕事を手伝えるようになるってのは親父を説得する上で必要だ。

  あ、それと、坊ちゃんとの約束は、親父達には言うなよ。受験させてもらえなくなるから」

 「わかった。ありがとう、兄さん」



 結局、俺は、ネイの夢を砕くのが忍びなくて、ネイに勉強を教え、王立学院を受験させてやるよう親父と交渉してやった。

 ネイは俺より頭がいいから、きっと合格する。王立学院卒業の才女なら、嫁ぎ先にも困らないし、しばらく家に置いて商会の手伝いさせてもいいし、と。

 アリスの嫁ぎ先だって、ネイが卒業する前なら、そんなに困らないだろう、とも。





 ネイが俺よりデキがいいのはわかってたが、まさか飛び級するとは思わなかった。

 俺が教えてやったんだ、俺より多少デキがいいくらいで上出来だろうに。

 しかし、まあ、これで官吏になれるのは、ほぼ確実だ。

 詳しいことは長期休暇で帰った時に、ということで、手紙には坊ちゃまとのことは書いてなかった。多分、親父達も読むのを見越して、わざと書かなかったんだろう。

 親父は、これでアリスの嫁ぎ先もすぐ見付かると喜んでいたが…。



 親父、下手すりゃネイは貴族に嫁ぐぞ。…って言ってやった方がいいんだろうか。

 今回は、感想でいただいたリクエストを元に、ネイが学院を受験できた裏事情を書いてみました。

 裏8話で、ネイクが「姉さんが落ちたってことで、あたしが受験する時は色々と面倒だったけど」と言っていたのは、こういう事情です。

 ネイクが、官吏になるのに必要ない経営学(だからアインは取ってない)を取っているのは、こういった事情があったからです。


 今回の話は、実は、夏の長期休暇でネイクが帰宅した際に書くつもりだったのを、前倒ししたものです。

 せっかくなので、今まであまり描写していなかった、庶民から見ると、学院卒業や官吏合格がもの凄いことだという説明も入れてみました。

 父親が「これでアリスの嫁ぎ先もすぐ見付かる」と喜んでいるのは、官吏になれた娘の姉なら、いいコネになるからです。

 義妹が官吏ってことですから。

 官吏の評価の高さは、学院卒の比じゃありません。

 なにせ、王のお膝元で国政を動かす一員になるのですから。


 これで、ネイクがアインと結婚して爵位を賜ったりすれば、彼らは貴族と縁続きということになります。

 いち早く娘を売り込んだドリスト商会は、ウハウハです。

 こういうのを先見の明と言います(←ちょっと違う)。



 今回の話は、とても楽しく、あっという間に書けました。

 感想や評価などいただけると、すっごくモチベーションが上がりますので、いただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おー。ネイクの実家、隆盛しそうだね。 お勉強ができると出世(?)するのが不文律な世界は、学ぶ意欲向上になってよろしい♪ 頑張っても報われない世界だと、努力するだけ無駄ってことで、楽して…
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