10 2人きりの食事
今回は、ジーンのターンです。
入学して3週間が経ちました。
相変わらず、遠巻きに見ている人達と、とりあえずお茶でもと声を掛けてくる人達に囲まれています。
例外は、ネイクとニールセン様だけです。
ネイクの予習は順調で、教科書もほぼ終わっています。
最近は、アインさんから飛び級の試験を受けるよう勧められているようで、どうしようか悩んでいるみたいです。
私も受けた方がいいと思いますけど、こういうのは自分で決めるべきだと思いますし、アインさんが勧めているなら、きっと受けることになるんだろうから、何も言わないことにしました。
ニールセン様の方は、その後、お兄様を交えて何度かお食事をしました。
それで、今日、初めて2人だけでお食事することになっています。
学院の近くにあるという、ドルチェがおいしいと評判のレストランで、ニールセン様のお薦めです。
「ローズマリー嬢は、やはり飛び級を目指すんだろう?」
「もちろんです。ジェラードの家に生まれた以上、避けては通れません。
皆様も、結果を楽しみにしておられるのでしょう?」
「楽しみって…」
「理由はともかく、オルガ・ジェラードの妹がどれほどのものか、皆様気にしておられるのでしょう? 果たして飛び級できるのか、二段飛び級はどうだ、と」
「それは、まあ、そうだね」
「ですから、できるできないはともかく、試験を受けないという選択肢はないのです」
「なるほどね。
たしかに、誰もが気にしているところだね。
それで、ローズマリー嬢の自信の程は?」
「受けたことがありませんので、わかりませんとしか申せません。
ですが、ジェラードの娘として、飛び級したいとは思っております」
「うん、オルガもそうだけど、君も大概つかみ所がないね」
「そうですか?」
「オルガもね、フワフワとしているようで、なかなかに鋭いところもあるんだ。
きっちり飛び級したしね。しかも、あれで剣の腕も結構なものなんだよ。
俺はね、君もあっさり飛び級してのけるんじゃないかと思ってるよ」
「ご期待に沿えるとよろしいのですが」
「じゃあ、期待して見ているよ。
ところで、親しい友人はできたかい?」
「ジェラードの娘ということで、遠巻きにされてますわ。
それでも、お友達はできましたけど。
彼女も飛び級試験を受けるそうですわ」
「色々な男に声を掛けられてるって噂だけど?」
「私の名もご存じない方からお茶に誘われましても、困りますわ。
あの方達は、ジェラードの娘を品定めに来ているだけです。
そんなところで無駄な時間を取られても困りますから」
「俺は? 君の名前なら知ってるけど」
「ですから、こうして一緒にお食事しています。
身内以外の方と2人でお食事なんて、私初めてですわ」
会話は、なんというか腹の探り合いのようでもうひとつ噛み合いませんでしたが、お薦めされるだけあって料理は本当においしいものでした。
ただ、最後のコーヒーが少し苦すぎるのが気になりました。
苦い飲み物は薬物を入れるのに便利だから気をつけるようにと、クロードに習ったのを思い出してしまったせいです。
つい、飲み込む前に確認してしまいましたが、別に薬物は入っていないようでした。
「少し苦いが、このケーキに合うだろう?」
私の反応が気になったらしく、ニールセン様が言いました。
少し挙動不審だったようです。気をつけなければ。
ニールセン様の言うとおり、甘めのチョコケーキなので、苦めのコーヒーがよく合います。
疑ってごめんなさい。
でも、クロードなら「それでいいんだ、お嬢様」と言いそうな気がします。
お代の方は、どうしてもということで、ニールセン様にご馳走になりました。
寮まで送ると言われたのですが、飲み過ぎたのか、ニールセン様の具合が悪そうだったので、遠慮して途中でお別れしました。
ニールセン様は、食事中にお酒もかなり飲んでいましたから。
騎士を目指す方には、お酒を飲む方も多いと聞きますが、酔って呂律が怪しくなるほど飲むのは感心しませんね。そのお陰で、送ってもらわずにすみましたけど。
ニールセン様と噂にでもなったら困りますし。
やっぱり年相応というのは大事なのだと思います。
少し距離を置くよう、気をつけましょう。
そして、ジーンの退場です…。
いや、まだ出てくると思いますが、マリーは完全に恋愛対象にしていません。