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奇蹟の少女と運命の相手  作者: 鷹羽飛鳥
学院1年目
19/161

裏9 幼なじみとの再会(トロリー視点)

 今回は、9話で少し出た、ネイクの幼なじみのトロリーの視点です。


2/4追記

 11話更新に伴い、ネタバレ防止のため控えていたラストの文を本来のものに戻しました。

 僕の名前は、トロリー・サントス。

 王都に店を構えるサントス工房の跡継ぎだ。

 サントス工房では、貴族向けの高級茶器などを作り、ドリスト商会に卸している。

 僕も小さい頃から父に連れられてドリスト商会に顔を出していた。将来のための顔つなぎの意味があったらしい。

 親が仕事をしている姿を見せ、後は子供同士で遊ばせて、どんな子かを見させる。

 そうやって集まった子供達は、街の広場で遊んでいる。子守もいらないし、一石三鳥だ。


 僕は、そうして知り合ったネイクミットという女の子が大好きだった。初恋だったと思う。

 ネイクミットは、ドリスト商会の従業員の娘で、僕と同い年だった。

 彼女もまた、顔つなぎということで連れてこられたんだと思う。

 こういう業界では、お互いの結びつきを強くするために、子供同士を結婚させることが多い。

 一緒に遊んだ子供達は、男の子も女の子も沢山いたけど、僕とネイクミットは特に仲が良かったと思う。

 集まるメンバーは決まっていたわけじゃないけど、僕とネイクミットはほとんど毎日いたから、一緒に遊ぶ回数も多かった。ネイクミットに会いたくて、毎日父についていったんだから、当たり前と言えば当たり前なんだけど。

 やがて、僕は彼女のことを「ネイ」と呼ぶようになった。


 そんなある日、広場で遊んでいる僕達の前に、小綺麗な格好をした男の子が現れ、僕らに混ざって遊ぶようになった。

 「アイン」と名乗ったその子は、親がどこに勤めているとか一言も言わないまま、週に2回くらい来ては、夕方になる前にさっさと帰って行く。

 金持ちの家の子なんだろうとは思ってたけど、僕らは普通に「アイン」と呼び捨てにしていた。

 ある日、早めに迎えに来たネイのお父さんがアインの顔を見てすごく驚いて、それでアインが貴族のお坊ちゃまだと知ったんだ。

 それからは、アインのことを「坊ちゃま」と呼ぶようになったけど、やっぱり僕らは普通に遊んでいた。

 7歳になる頃には、坊ちゃまは勉強が忙しいとかで、滅多に現れなくなったけど、時々抜け出してきていた。


 坊ちゃまは、なにしろ顔はいいし、着ている服は質もセンスもいいしで、女の子に人気があったみたいだ。

 坊ちゃまも、女の子には優しく声を掛けていた。

 ネイも色々なことを教えてもらったと言ってたし、坊ちゃまが来ている日は嬉しそうだった。悔しいことに。

 かといって、坊ちゃまは男をないがしろにするわけじゃなくて、対等に遊んでいたと思う。今にして思うと、とんでもない不敬をはたらいていたものだ。知らないってことは恐ろしい。



 そして、ネイが王都を離れる日が、唐突にやってきた。

 ネイのお父さんが独立して、遠くの町に店を出すことになったんだそうだ。

 残念なことに、そんな日に限って坊ちゃまも遊びに来ていて、ネイと別れの言葉を交わしてた。ネイと会えなくなるのは寂しいけど、坊ちゃまももうネイに会うことはないんだと思うと、いい気味だと思った。

 ネイがいなくなった後も、坊ちゃまは時々やってきて、相変わらず女の子と親しそうに話をしていた。

 僕はと言えば、ネイがいない寂しさは薄れても、他の女の子には興味が湧かなかった。




 やがて12歳になる頃、僕は王立学院を受験した。

 商人として、学院卒というのは箔になるから、少しでも受かる見込みがあるなら受けてみることが多い。僕も、周りの子供の中ではちょっとできる方だったから、受けてみることにした。

 父から聞いた話では、ネイのお兄さんとお姉さんも受けて、お兄さんは合格したそうだ、

 多分、ネイも受けるだろうから、2人とも受かれば、学院で再会できるかもしれない。

 そうしたら、また仲良くして、卒業したら結婚することだって…。

 再会(それ)を励みに、僕は頑張った。

 合格を知った時の天にも昇るような気持ちは、ちょっと言葉にできないほどだった。




 僕は、経営学、出納学、簿学、算術を中心にカリキュラムを組んでいる。多分、ネイも合格していればそうしているだろうと思ったから、学院に少し慣れると、講義室の中でネイの姿を探すようになった。

 ネイの姿を見かけたのは、算術の講義の時だった。

 勇んで声を掛けようとしたら、ネイの隣に男がいることに気が付いた。

 誰かと思って見てみると、どうやら坊ちゃまのようだ。

 そういえば、貴族は試験なしで学院に入れるんだった。

 僕は試験を受けるためにあんなに頑張ったのに、貴族というだけで入学できるなんてずるいよ。

 しかも、ネイがいなくなった後も、他の女の子と仲良く話してたくせに、ネイが戻ってきたら、ちゃっかり隣にいるなんて。

 でも、貴族相手に面と向かって文句を言えるわけがない。

 とにかく、まずはネイと話をしないと。


 そう思って見ていると、そのうち、経営学の講義では、ネイが1人で座っていることに気付いた。

 そうか、坊ちゃまは貴族だから、経営学なんか取らないんだ。

 僕は、経営学の講義の後、ネイに声を掛けた。

 「ネイ、久しぶりだね。トロリーだよ、覚えてる?」


 「ああ、トロリー、久しぶり! あなたも学院(ここ)に来てたのね!」


 ネイは、変わらない人懐こい笑顔で応えてくれた。

 ちょっとツリ目で、取っつきにくい印象を与えやすいネイだけど、本当は人懐こくて優しい子なんだ。

 「うん、なんとか合格できたよ。

  でも、講義についていくのって大変じゃない? 良かったら、一緒に勉強しない?」


 「あたしは、マリー様にコツを教えていただいたから、大丈夫」


 「マリー様?」


 「簿学の方でご一緒してる貴族のお嬢様よ。

  すごく優しい方で、簿学を教えていただいてるの。

  前に、わからない問題について聞いたら、解くためのヒントを教えてくださって。

  今は、マリー様に教えていただきながら、予習をしてるわ」


 「あの、それ、僕も加えてもらってもいいかな?」


 「え? …う~ん、まあ、講義棟の自習室なら…、じゃあ、マリー様にお願いしてあげる」


 「ありがとう。

  ところで、その、貴族のお嬢様を名前で呼んだりして大丈夫? いくらご本人がいないところとはいえ」


 「大丈夫よ。マリー様から、名前で呼んでいいって言われたんだから。

  マリー様って、とっても気さくな方なのよ」




 翌週、僕は、無事ネイと一緒に勉強会に参加できた。


 「このたびは、お願いを聞いていただき、ありがとうございます。

  トロリー・サントスと申します」


 「ローズマリー・ジェラードと申します。

  それでは、サントスさんは、今、講義でやっている辺りでいいですか?

  ネイクは、少し先に進んでいるので、ネイクと同じことをするのは無理があると思いますから」


 見ると、ネイはもう教科書の半分くらいのところを開いていた。まだ、4月の半ばなのに、なんでそんなとこやってるの? さっきジェラード様は、少し(・・)先に進んでるって言ったよね? 半分は少しじゃないよね?

 ジェラード様は、ネイと二言三言話した後、僕にも教えてくれた…んだけど。


 「あの、申し訳ありません。仰っていることが、よく…」


 ジェラード様の言っていることが、さっぱりわからない。話があちこちに飛んで、何の話をしているかわからない。ネイから、ジェラード様はヒントしかくれないと聞いてはいたけど、何のヒントかさえわからない。

 見かねたネイが、説明してくれた。

 今度は、もの凄くわかりやすい。

 噛んで含めて、細かいところまで説明してくれる。

 結局、僕はネイに教わることになってしまい、ネイの勉強の邪魔にしかならなかった。


 「ごめん、ネイ。君の勉強の時間を邪魔してしまって」


 「気にしなくていいわよ、トロリー。友達じゃない。

  でも、マリー様に教わるのは、やめておいた方がよさそうね。マリー様の時間を無駄にするのは、申し訳ないもの」


 「ネイは、よくあの説明でわかるね」


 「マリー様のヒントは、何のためにするのか、何を求められているのかっていう本質を考えないとわからないのよ。

  あたしも慣れるまで少し掛かったわ。算術は、今でもダメだけど。

  アイン様もね、教わった内容をお話ししたら、マリー様に教えていただくのは無理そうだって仰ってたわ。

  アイン様、覚えてるでしょ。

  あたし、算術でご一緒してるの」


 「ネイ、名前で呼んじゃまずいって。

  昔、怒られたじゃないか」


 「大丈夫。ちゃんとアイン様からお許しをいただいてるの」


 お許しって…。

 「ネイ、わかってる? 貴族が名前を呼ばせるってことは、特に認めた相手ってことなんだよ?

  異性の場合、ほとんどが婚約者とかで、間違っても平民に向かって許すようなことは…」


 「アイン様は、『官僚貴族の次男なんて、騎士か官吏になれなきゃ平民と変わりゃしない』って仰ったわ。

  あたしね、昔、引っ越す前に、アイン様と約束したの。

  学院に入って官吏になるって。そうすれば、一緒にいられるからって。

  あたしは、その約束を果たすためにずっと勉強してた。

  あたしね、登用試験を受けるために、マリー様に教わってるのよ」


 そんな約束してたのか、いつの間に!?

 「約束って言うけど、ネイが引っ越した後だって、坊ちゃまは他の女の子と遊んでたんだよ!?」


 「でも、アイン様は、入学式の後、あたしを探してくれた。

  それで、名前で呼べって言ってくれたの。

  それにね、トロリー。あんた、なんで貴族が学院に無試験で入れるか、知ってる?

  貴族はね、小さな頃から勉強してて、試験なんか受かるのがわかりきってるから、いらないのよ。

  覚えてるでしょ? アイン様、7歳になったら家庭教師がついて、あんまり遊びに来なくなったじゃない。

  アイン様は、あたし達が遊んでる時も勉強してたのよ。

  登用試験に受かるには、そんな貴族に追いつかなきゃいけないの」


 ネイは、官吏になるの? 商家に嫁ぐんじゃないの?

 「だからって、坊ちゃまが官吏になれる保証は…」

 「ないわよ、そりゃ。

  だから、勉強してんじゃない!

  貴族だってね、次男は自力で官吏になるとかしなきゃ、生きていけないのよ!

  アイン様やあたしには、トロリー(あんた)みたいに、継ぐ家なんかないの!


  少なくとも、アイン様は、講義についていけないなんて弱音は吐かないわ。

  よく知りもしないくせに、アイン様を悪く言わないで!」




 その後、謝り倒して許してもらえたけど、それまで2週間くらい、ネイは口をきいてくれなかった。

 そして、その頃には、ネイは飛び級していて、坊ちゃまと婚約しているという噂が知れ渡っていた。

 僕がネイと結婚する日は、永遠に来ない。

 トロリーは、講義についていくのが大変だったからではなく、ネイと一緒に勉強する口実にしただけでした。

 アインに夢中なネイクは、自分に向けられているトロリーの目には気付きもしません。哀れトロリー。


 感想の方でも少し書きましたが、マリーの教え方には独特の癖があります。


 セリィ以外から教わったことがないため、セリィ流になったのです。

 本作の裏2話でノアが言っているように、セリィはあまり教え方がうまくありません。というより、相手を選ぶ教え方をします。

 ノアは、セリィに教わると自分が愚かな存在に思えてくるとまで言っています。

 それでもセリィは、ノアやリリーナに教えた時は手加減していたのです。

 でも、マリーには手加減していません。

 マリーはそれで理解できたので、それが普通だと思っており、セリィ以上に相手を選ぶ教え方をしています。

 ですから、学院での教え方は、回りくどいと感じています。



 マリーの教え方は、イメージとしては、三角形の面積を計算するために「底辺×高さ÷2」と公式を習うところで


 「まず、同じ三角形をもう1つ用意して。それで長辺同士をくっつけるとどうなるかな? それで底辺と高さをかけると四角形の面積が出るよね。

  で、この四角形は元の三角形2個分なんだけど、1個分の面積出すにはどうすればいい?」


という説明を


 「同じ三角形をくっつけて四角にして、それで面積を出すの。で、これは元の三角形2個分だから、1個分にしてやればいいのよ」


という風に端折ります。


 そもそも、平行四辺形の面積を出すために垂線を引いて高さを測る、という部分を踏まえないと理解できません。

 初めて聞いた人は、「え? 四角形? 三角形じゃないの? 2個を1個にするの?」

という具合に混乱するわけです。


 マリーは、セリィから系統立てた教えを受けているので、つい、他の知識を踏まえた説明をします。

 しかも、九九に相当するものを誰も知らないことなんて、頭から飛んでいますから、そういう前提で話をしてしまうわけです。

 ネイクが、算術については苦戦したのには、そういう部分もあります。


2/4追記

ネイクがトロリーを許した後の会話

 「それにしても、ホントに坊ちゃまと婚約してたんだ…」

 「だから、言ったじゃない。

  アイン様はね、学院に入った翌日にはあたしを見付けて、プロポーズしてくださったのよ」

 「そう。ネイ、幸せにね」

 「ありがとう。きっと2人で幸せになるわ。

  あ、あたしは今も幸せだけど」

 こうして、トロリーはトドメの一撃を食らいました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おおーー! アインとネイクは婚約者同士!! そうだったのねー。良かった良かった。 ネイクが勘違いしてたらどーしようと思ったけど、大丈夫なのねー。 [気になる点] それにしても、どうして…
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