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奇蹟の少女と運命の相手  作者: 鷹羽飛鳥
後日談 クラリス・コトラの愛
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6 再会、そして未来

 春になり、クラリス様が研究所に入ってきた。

 マリン様のお言葉どおり、マリン様の秘書として。

 お互い仕事が忙しいから、研究所の中で顔を合わせることも今のところはない。

 今、僕にできることは、爵位をもらえるよう日々の仕事を頑張ることだけ。


 僕は、しがない官僚子爵家の三男だ。それじゃあ、公爵令嬢であるクラリス様とは釣り合わない。だったら、釣り合うようになるしかない。

 自分の力で──マリン様に後押ししていただけたとしても──男爵になれたなら、僕は将来ある貴族だ。

 男爵と公爵令嬢じゃ、全然足りないけど。クラリス様に胸を張れる。張ってみせる。

 そう思って励んでいたある日、マリン様から呼び出された。クラリス様経由で。

 「マーカス・コトラ。次席がお呼びです。

  ついて来なさい」

 「は、はい」


 以前と変わらない物言いだけど、僕にはわかる。クラリス様の目に嬉しそうな色があることが。

 特に言葉も交わさず、クラリス様の後ろを歩いて次席研究室に向かう。

 カツカツと靴音を立てて先を行くクラリス様の姿に、元気そうだと安心して、自分が不安でいたことに気付いた。




 「久しぶりね、マーカス。

  元気そうでよかったわ」

 研究室に入ると、クラリス様が振り返ってふわりと笑った。

 この笑顔も、昔だったら睨まれてる気分になったんだろうと思うと、自分の変わりように驚く。

 あ、でも、僕はマリン様に呼ばれたんだよね。


 「あ、あの、次席はどちらに?」

 訊くと、クラリス様は呆れたような顔になった。

 「相変わらず鈍いわねえ。

  お兄様が気を利かせてくれたのよ」


 「え? 大丈夫なんですか、そんなことして」


 僕がクラリス様と話す時間を作ってくれたのは嬉しいけど、そんなことをしていいのかな。

 「融通が利かないのも相変わらずね。

  ま、だからこそ、あんな物好きなことを言ってくれたんだし、仕方ないわね」


 物好きなことって、もしかして、僕がクラリス様と結婚するために爵位を目指すって言ったことかな。

 よく見ると、クラリス様の耳が赤い。

 「クラリス様と結婚するには爵位が必要だって聞きました。

  それなら、爵位を目指すしかありませんので」


 どうせ言葉を飾るような言い方はできないからストレートに告げると、クラリス様はますます赤くなった。

 「わ、私はそんなこと気にしないのだけど、お母様もお兄様も、けじめとして必要だって言うのよ。

  お母様がご結婚なさったのが21歳だったから、それまでに男爵になりなさいよ。

  私が()き遅れって言われないように」


 ああ、クラリス様は、早く結婚を許されるよう頑張れって言ってるんだ。

 クラリス様も僕を好きでいてくれるんだ。

 それがわかっていれば、きつい物言いも、その奥に隠されてる本音が透けて見える。

 きっと前からそうだったんだ。たぶん、お茶会に呼ばれた時から。

 「頑張ります。

  男爵が精一杯だと思いますが、許してくれますか?」


 「マーカスは、私が男爵夫人じゃ嫌なの?」


 ああ、クラリス様は、本当に身分には拘らないんだ。

 「僕は、クラリス様が平民だって構いません」


 「なら、つまらないことを言うのはおやめなさい。

  あんたは、私を一刻も早く迎えに来ることだけを考えてればいいのよ」


 「できるだけ早くなるようにします」


 「約束よ」





 僕は、必死でがんばった。

 経理の担当なんて、研究員と違って何かを作れるわけじゃない。

 だから成果を挙げるとかじゃなくて、日々の仕事を確実にこなすことを考えた。

 そして、さらに2年が経って。

 僕は男爵になった。




 「王の名において、マーカス・コトラを男爵に叙し、クラリス・ゼフィラスとの婚姻を認める」


 ついに、僕はクラリス様と結婚できた。

 クラリス様は、

 「遅いわ。待ちくたびれたわよ」

と怒っていたけど、あれは照れ隠しだ。それくらいわかる。

 「苦労かけると思いますが、よろしくお願いします」


 「つまらないことを心配してないで、私を幸せにしなさいよ。

  お兄様から、持参金として、屋敷と護衛をいただいたわ」


 そう言って、クラリス様は、5人の使用人付きの屋敷に案内してくれた。

 僕らの俸禄じゃ、とても維持できないけど、クラリス様の護衛ということで、公爵家で賄ってくださるんだそうだ。だから、持参金なんて言い方をしてくださったんだろう。

 「いい? 浮気するような甲斐性はないでしょうけど、そんなことになったら命はないものと思いなさい。

  あんたは、私を幸せにすることだけ考えていればいいの。

  その代わり、あんたは私が幸せにしてあげる」


 どこまでも素直じゃないクラリス様だけど、そこも含めて好きなんだからしょうがない。


 「2人で一緒に幸せになりましょう。

  絶対に離しませんから」

 こうして、マリーの2人目の娘クラリスは、男爵夫人として子を残すことなく生涯を終え、歴史に埋もれました。

 この数年後にマリーが急死しますが、葬儀への参列も許されませんでした。“もう公爵家の人間ではないから”とのことでした。


 その際の模様については、母の日辺りでアップしたいと思います。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] >男爵夫人として子を残すことなく生涯を終え、歴史に埋もれました。 セリィとマリーという天才の陰で、色んなドラマがー。人生って重いのね。
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