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奇蹟の少女と運命の相手  作者: 鷹羽飛鳥
後日談 クラリス・コトラの愛
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3 クラリス様の笑顔

 その後も、時々公爵家に呼ばれた。

 大抵はご子息やヒートルース嬢がいらして、4人でテーブルを囲むことになる。

 何回か顔を合わせてるうちに、ご子息からもマリン様と呼ぶように言われてしまった。

 「まあ、気持ちはわからなくもないけど、そんなに固くならないでほしいな。

  呼びにくそうだし、私のことはマリンと呼んで構わない。

  クラリスに振り回されて大変だと思うけれど、嫌だったらそう言って構わないからね。私が許すから」


 「お兄様? それではまるで私がマーカスを困らせてばかりの我が儘娘のように聞こえます」


 「自覚がないというのは困りものだね。

  マーカスは、明らかに困っているじゃないか」


 ご子息…マリン様に言われて、クラリス様は僕を睨みつけてきた。

 「マーカス? あなた、私と一緒にいるのが嫌なの?」


 「あ、いえ、そんなことは…」


 「クラリス、だからそれがいけないと言っているんだよ。

  彼が公爵令嬢(お前)に強いことを言えるわけがないだろう。

  自分の立ち位置というものを理解しないと。

  それにね、私もそうだけど、お前がじっと見詰めると、相手は睨まれているように感じるんだよ。

  まっすぐなのは見ていて微笑ましいけれど、もう少し柔らかく笑ってごらん」


 マリン様の助け船で、クラリス様は睨むのをやめてくれたけど、眉根を寄せて

 「柔らかく?」

とか困っていた。

 その様子が、いつもの凜とした雰囲気と違いすぎて、ちょっと可愛いと思ってしまった。それで、ちょっと顔がゆるんだんだけど、クラリス様はそれを僕がバカにして笑ったと思ったらしい。

 「ちょっとマーカス、何がおかしいの!?」

と、真っ赤になって怒り出した。


 「いえ、何もおかしくは…」

 慌てて弁解しても、クラリス様の機嫌は直らない。だから近付きたくなかったのに。このままでは、僕の人生は終わりだ。

 冷や汗をかきながらクラリス様をなだめていたら、今度はヒートルース嬢が助けてくれた。

 「クラリス様、コトラ様は、クラリス様の笑顔が可愛らしくて微笑んだのですわ」

 でも、それを聞いて、クラリス様はますます真っ赤になって怒った。

 よっぽど怒っているらしく、肩をわなわなと震わせている。

 下を向いてくれててよかった。これで正面から睨みつけられたら、悲鳴を上げてしまったかもしれない。

 しばらくわなわなとしていたクラリス様は、やがて顔を上げた。

 目尻に光るもの──たぶん、涙──がある。

 涙が出るほど怒ってるのかと背筋が凍ったけど、クラリス様は一言

 「生意気だわ」

と言っただけで、許してくれた。

 マリン様もヒートルース嬢も、うんうんと軽く頷きながら笑っている。

 クラリス様が僕を怒鳴らなかったからかな。




 公爵邸に招かれるのは、月に一度くらい。

 基本的にマリン様とヒートルース嬢と4人でのお茶会で、クラリス様の姉君が加わったことはない。

 いつもお屋敷にいらっしゃらないというわけではないようで、今日、ここに来る前にすれ違った。

 お屋敷にいらっしゃるのにお茶会には参加されないので、

 「姉君はお誘いしないんですか?」

と訊いたら、クラリス様は目に見えて機嫌が悪くなった。もしかしたら、仲が悪いのかもしれない。

 チラッと見た限りでは、女性らしさに満ちた体つきで、やせ形のクラリス様は並びたくないのかもしれないな。

 …なんて考えていたら。

 「何を思い出してるのよ。

  お姉様をいやらしい目で見るんじゃないわよ」

と、思いきり不機嫌な声で怒られた。

 いやらしい目で見ていたつもりはないんだけど。

 これは、あれかな。僕が姉君に邪な気持ちを抱いて何かするんじゃないかとか警戒してるとか?

 そんな心配なさらなくても、公爵家のご令嬢に不埒なマネなんかするわけないのに。

 「誤解です、クラリス様。僕は姉君を初めてお見かけしたなあと思っていただけで、決して邪な気持ちなど持っておりません!」


 こう言うときは、目を逸らしたりすると疑われるから、ちゃんと目を見て話さなきゃいけない。

 クラリス様の目をしっかりと見たまま言い切ると、クラリス様は

 「な、ならいいわ」

と言って目を逸らした。

 心なしか顔が赤い気がする。僕を疑って悪かったって思ってくれてるのかもしれない。

 クラリス様の目をじっと見つめたのは初めてだったけど、意外と怖くはなかった。

 クラリス様は、少しツリ目ってだけで、べつに睨んできてるわけじゃなかったんだ。

 少しほっとした。

 僕が公爵家のご令嬢に邪な気持ちを持っているなんて疑われたら、身の破滅だもの。

 「自分の立場はよくわかっています。

  クラリス様の姉君にご迷惑をお掛けするようなことはしません」

と言ったら、

 「そう。わかっているならいいわ。

  いずれ、お姉様にも紹介してあげる」

と笑った。

 こんなに楽しそうにしているクラリス様は初めてかもしれない。




 僕がしがない官僚子爵家の三男に過ぎないことは、僕自身が一番よくわかってる。

 今は、どういうわけかクラリス様に可愛がってもらっているけど、一時的なものでしかないってことも。

 いずれ王妃となる方にご紹介なんてしてもらわなくていいけど、せっかくクラリス様の機嫌がいいのに水を差すかもしれないことはできなかった。

 初めてクラリス様の笑顔を見ることができたんだし。

 次回は5月2日午後10時に更新します。

 明日は、企画参加の短編「眼鏡に誓う」をアップします。よろしければそちらもご覧ください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんとなーく近づいてきたねー。 かわいいクラリスも見えてきたぞ。 これはマーカスの変化♪
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