裏7 学院で待つもの(オルガ視点)
オルガ視点です。
「たしか、2つ下の妹がいたよな?」
剣術の訓練の後、友人のジーンが話しかけてきた。
ジーン・ニールセン。侯爵家の次男で、騎士団に入りたいと言っていた。
僕とは剣術の講義が一緒で、2人一組の訓練では、時々組んでいる。
「いるけど、それがどうかした?」
「2つ下ってことは、この春、学院に入ってくるんだろ? 婚約者はいるのか?」
「いないけど。それが何?」
「とぼけるなよ。紹介してくれって頼んでるんじゃないか」
紹介ねえ。どうしたものかな。
「紹介するのは、まあ構わないけど、やめておいた方がいいと思うな」
「なぜ?」
「妹は、なんていうか夢見がちなところがあってね。運命の人っていうのに憧れてるんだよ。
偶然出会う運命の人と恋をしたいって。まあ、女の子らしいと言えば、らしいのかもしれないけど」
「だから?」
「例えば、僕が君を紹介したとするだろ。
『彼は僕の友人で、ジーンっていうんだ。騎士を目指してて、剣術の講義で一緒なんだ』ってとこかな?
そうすると、妹の中では、君は僕の友人という肩書きになる。
その後、君が食事に誘おうが、買い物に誘おうが、僕抜きで出掛けることはないだろう。
兄の友人というのは、兄を介してしか会わない相手なんだよ。
たしかに僕の友人ということになれば、余計な警戒はしないだろうけど、その後の進展もない。
どうも、幼い頃に読んだ物語か何かの影響らしいんだけど、“運命の人に巡り会う”ってことに、妙に拘っていてね。
おまけに、うちの両親も両方の祖父母も、政略結婚と言いながらも仲睦まじいものだから」
「不世出の才媛と婚約者が腕組んで歩いてたって話は聞いたことがあるが、あんな噂、どこまで本当かわからないじゃないか」
「僕もそう思ってたんだけどね、妹が言うには、本当のことらしいよ。
まあ、ことの真偽はともかく、妹がそれを真実だと思ってるってことの方が重要かな」
「それは、確かに夢見がちと言えるかもしれんが、貴族の令嬢がそんなことを言っていて大丈夫なのか?」
「実のところ、妹に婚約者がいないのは、その辺が理由でね。
なにしろ、僕の両親は幼なじみで、政略とはいえ本人達も喜んで婚約してたらしくて。
母にそんな話を聞かされてたものだから、単なる政略結婚の話を持って行くと、見向きもしないんだ。
だから、僕が君を紹介すると、最初から対象外にされると思う」
「しかし、偶然会った院生など、警戒されて話もできんだろう」
「それは、たしかに。
じゃあさ、君が自分で妹と知り合った後に、僕が紹介するって形にしたらどうだい?
それなら、警戒されなくてすむんじゃないかな」
「ふむ。偶然知り合った相手が、兄の友人だったという形にするわけか。
なるほど、上手くいきそうに思えるな」
「うまくいくかどうかは、君次第だけど、目はあると思うよ。
まあ、第一印象が悪くならないように知り合ってくれないと、紹介してあげられないけどね」
「そのくらいは、自分で何とかするさ。
だが、その後、ちゃんと紹介してくれよ」
「うまくいく保証は、しないからね」
「そこまでは求めんよ」
ジーンが立ち去った後、僕は考えた。
ジーンは、どうしてマリーに紹介を、なんて言ったんだろう。
遠目にでも見た後なら、顔が好みだとか、色々な理由も出てくるだろうけど、見たこともない相手なのに。
マリーは、年に一度は王都に来るけど、その時に見たとも思えない。
それ以外の理由でマリーが領地を出ることはないし…。
ジーンは、手当たり次第ってタイプでもないしなあ。
考えると、キリがない。
とりあえず、うっかり手伝うと、他の人にも頼まれるようになるからなぁ。
今後は、この手の話は断るようにしよう。
次回、8話「学院入学」は、通常どおり24日午前零時頃更新です。