56 七色のバラを手に
遂にマリーの結婚です。
ようやくこの日が来ました。
クロードと結ばれる日が。
喪が明けるのが夏なので、折角ですから私の誕生日に結婚することにして、七色のバラも育てました。
おばあちゃまも、お祖母様も、お母様も、お義母様も、みんなこの七色のバラの花束を手に嫁ぎました。
私は嫁ぐわけではありませんが、やはり結婚するに当たり、この花束を持っていたかったのです。
領地があるわけでも、王子様と結婚するわけでもないので、仰々しい式ではありませんが、クロードと結婚できる今日この日を、私は1年間ずっと待っていました。
「王の名において、ローズマリー・ゼフィラスとクロード・ガードナーの婚姻を認める」
陛下の宣言を受けて、晴れて私達は夫婦になりました。
おばあちゃま、私もちゃんと運命の人と結ばれました! 私を一番に見てくれる私だけの騎士。私にとっても一番大切な人です。
いつかおばあちゃまが言っていたとおり、私も私の人生を幸せに生きられそうです。
王国のために政略結婚することになっても仕方がないと思っていた時期もありましたが、今となっては、どうしてそんな風に思えたのかわかりません。
クロード以外の人と結婚なんて、できるわけがないのに。
今、私は、寝室のベッドで、クロードが来るのを待っています。
この部屋は、お祖父様とお祖母様の部屋だったところを改装したもの。
本来なら、公爵であるお義父様が移ってくるべきなのですが、お義母様が住み慣れた部屋を離れたがらなかったため、私達の部屋にすることにしたそうです。
侯爵邸での私の部屋のように特殊な造りに直したそうですけれど、クロードが一緒にいてくれるんですもの、何があったって危険なんかあるわけがありません。
閨のことも、ネイクやミルティから聞いています。
クロード、早く来てくれないかしら。
空気が優しくなりました。
どうやらクロードが来たようです。
どうして気配を消しているのでしょう?
「クロード? どうしたの?」
声を掛けてみると、クロードが姿を見せました。なぜか苦笑いしています。
「まったく、敵わねえな。
これでもわかっちまうか」
「私がクロードをわからないわけがないわ」
何を言われたのかわからないまま答えると、クロードは軽く両手を挙げました。
「今、俺が消してた気配に気付けんのは、国中探してもお嬢様だけだろうよ」
「愛する夫の気配だもの、気付けないわけがないわ。
それとクロード、もう夫婦になったのだから“お嬢様”はやめてよ。
昔からの呼び名だったから“お嬢様”と呼ばれるのも好きだけれど、あなたは私の旦那様になったのだもの、これからは“マリー”と呼んでほしいの」
「~あのな、おじょ」「マリーよ」
「あ~、もう!」
クロードは、ガシガシと頭をかきむしりました。
そんなに困ることではないでしょうに。
「本当に、俺でいいのか?」
その言葉も何度目でしょう。
そんなに私の気持ちは信じられないのでしょうか。
「あなたがいいのです。
早く私をあなたの妻にしてください。
あなたの赤ちゃんを産みたいわ。お願いよクロード」
「そんなにいいもんとも限んねえぞ。
痛えらしいし、血も出るし」
「だからこそ、よ。
私に傷を付けてもいいのは、クロードだけなの。
私にあなたを刻みつけてほしいの」
「後戻りできねえぞ」
「後悔するような理由はないわ。
いいかげん、私の気持ちを信じてほしいのだけど」
「わかったよ。ったく。困ったおじょ」「マリー」
「…覚悟しろよ、マリー」
痛みに幸せを感じる…ミルティやネイクから聞いていたとおりでした。
なんか肉食系な感じがしますが、まあ、マリーですから。
マリーはマリーなりに、色々と思うところがあったんです。
次回更新は、5月9日(水)午前零時、ネイク視点による裏56話となります。