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55 引越準備

 「そうなのよ、見付けたの。

  ミルティの言うとおりだったわ。

  本当の恋というものは、とても強い気持ちなのね。

  今なら、ネイクが学院に入るためにどれだけの情熱を傾けたのかわかるわ。

  学院に入ることが絶対条件なんだから、どんな努力だってできるわよね」


 「そうですか。

  マリー様にも、とうとう運命の人が現れたんですね。

  ミルティ様もきっとお喜びになると思います。

  今回の一報で、随分気を揉んでらしたので。

  あ…すみません。

  大切なお祖母様を亡くされたばかりのマリー様に、こんなことを…」




 無事クロードと婚約した私のところへ、領地から帰ってきたネイクが訪ねてきました。

 ネイクは、自宅に戻ってアインさんからおばあちゃまの訃報を知らされて、仮喪が明けるのを待って駆け付けてくれたのです。

 そして、どれほど落ち込んでいるかと思った私が、嬉しそうにクロードとの婚約の話をしたので、驚いているのでしょう。

 確かに、ついこの前まで、私が恋をすることになるなんて、私自身、思ってみませんでした。


 「あの、それで、お相手の方というのは、どんな方なのですか?」


 「クロードといって、私が幼い頃に護身術の基礎を教えてくれた人なの」


 「護身術…ですか? マリー様が?」


 「ええ、と言っても、主に誘拐されないための対処法なの。

  上手な逃げ方と言った方がいいかもしれないわ」


 「逃げ方…ですか」


 「そう。刃物を見ても足をすくませないように慣れるとか、ね」


 「ああ、なるほど…。

  でも、どうしてその方と再会を?」


 「実は、その後もずっと私の護衛をしてくれていたのですって。

  影ながら見守ってくれていたんだけど、おばあさまが亡くなって沈んでいる私を慰めるために姿を見せたの。

  抱き留められて、涙を拭いてもらって、すごく安らげて、思ったの。この人に、ずっと傍にいてほしいって。

  クロードは、本当はずっと隠れて護り続けてくれるつもりだったらしいんだけど、私がおばあさまのお葬式に出られるよう励ますために、仕方なく姿を見せてくれたのよ」


 「マリー様にも秘密で護衛なさってたんですか?」


 「今までも、時折、懐かしい気配を感じたことはあったのだけれど、クロードがいるとは思ってなかったの。

  今は、クロードの気配がわかるようになったわ。もっとも、それでクロードを探してしまうと、隠れて護衛している意味がなくなるからってことで、探さない約束をしているんだけど」


 「隠れている護衛の方の気配がわかるんですか?

  それって、すごいことなのではありませんか?」


 「クロードだからわかるのよ。

  気配を感じるとね、すごく安心するの。クロードが護ってくれていたら、何が起きても絶対大丈夫だって思えるの」


 「すごいんですね」


 「そうよ、クロードはすごいの」


 「いえ、私が言ったのは、マリー様のことです。

  プロの護衛の方の気配を感じられるなんて、すごいことではありませんか」


 「ああ、そうなのかしら。

  でも、クロードの気配だから」


 「マリー様がそんな風に仰るようになるなんて、想像もつきませんでした。

  本当に、ミルティ様の仰ってたとおりです。

  ミルティ様の目は、未来を見通せるのかもしれませんね」


 「そうね、私自身も想像もできなかったわ。

  人を好きになるって不思議ね」


 本当に、以前殿下に対して抱いた気持ちとは、全然違います。

 こんなにも狂おしく誰かを求める気持ちがあるなんて。


 「私のことはともかく、ミルティは元気だった?」


 せっかくネイクが来てくれたのだし、ミルティの様子も聞きたいところです。


 「ミルティ様は、だいぶお腹が大きくなっていました。

  赤ちゃんができてから、お顔の方が少し膨れてきたんだそうで、ほっぺたがパンパンになっていました。

  早馬が来るまでは、本当に幸せいっぱいというご様子でしたよ」


 「そう。幸せそうでよかったわ。

  せっかく楽しかったのに、悪いことをしたわね」


 「見ていて、本当に羨ましくなるほどお幸せそうでした。

  マリー様もご結婚されたら、きっとすぐに赤ちゃんがおできになりますよ」


 赤ちゃん。私もいつか、クロードの赤ちゃんを産むのね。

 きっと可愛いわね。

 「そうね。おばあさまの喪が明けたらすぐにも結婚するつもりではあるけれど」


 ああ、そうでした。

 ネイクは実績を十分に挙げるまで、赤ちゃんを作るわけにはいかないんですね。

 それなのにミルティを祝福してくれるんですから、本当にいい子です。




 ネイクが帰った後、クロードを呼び出しました。

 元々クロードが私の護衛に付いていることはルージュも知らなかったそうなのですが、今回私と婚約したことで、ある程度公になりました。

 もちろん、影のクロードとしてではなく、騎士クロード・ガードナー子爵としてですが。

 そういったこともあって、屋敷の中で傍にいてもらえるようになりました。

 表向きの話もできるので、クロードも滅多に断ってきません。


 「そろそろアイーダにもあなたのことを教えようと思うのです」

と言うと、クロードは

 「俺は秘書殿とは面識があるんだが、いいのか?」

と答えました。

 はっきり口にしたわけではありませんが、クロードはアイーダの好意には気付いていたでしょうね。

 全く気にしていなかったようでもありますが。


 「だからです。

  私は、あなたを誰にも譲る気はありません。

  はっきりさせておくべきでしょう。

  幸いというか、私はアイーダからガードナー子爵の話を聞いたことはありませんから」


 「おいおい、怖いことを言うなあ」


 おばあちゃまがいない今、私が侯爵邸(この屋敷)に居続けることはできません。

 仮喪が明けた以上、私は公爵邸に戻る必要がありますから、護衛体制の強化が必須なのです。

 そういう意味もあって、クロードはできるだけ私の近くにいるということになりますから、秘書であるアイーダには、状況を把握していてもらわなければなりません。

 ならば、下手なごまかしは無意味でしょう。

 正面切って、私の婚約者クロード・ガードナーとして紹介しましょう。

 今朝、「転生令嬢は修道院に行きたい(連載版)」の後日談をアップしています。

 本作52話「私じゃない」の裏側を描いていますので、見てやってください。

 かなり切ないお話になっていると自負しております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] はー、アイーダ、哀れだー。 好きな人が上司の婚約者!! いくら身分違いったってさー。 でも、一応、アイーダのことを覚えてただけマシでしょうか。 [気になる点] このマリーのはしゃぎぶり…
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