裏50-1 ミルティ様のご懐妊(ネイクミット視点)
マリー様から、珍しく呼び出された。
普通は、あたしの方からお伺いを立てる感じでお邪魔するんだけど。
一見冷たい対応のようだけど、そうじゃない。あたしが立場上、なかなか体が空かないから、気を遣わないよう「来られる時は連絡してちょうだい」と言われてるんだ。
この春、あたしの初めての生徒が卒業した。
今回の卒業生の中に、生徒は4人。
一応、4人とも登用試験に合格したけど、受験するご本人方より、私の方が緊張してしまった。自分が受験する方が、よっぽど落ち着いてられるよ。
あたしに課せられた役目は、才能ある官吏を王城に送ることと、平民で優秀な子を学院に合格させることの2つ。
それができると見込まれたからこそ、あたし達は子爵位を与えられたんだから。
成果を挙げ続けなければ、存在意義を問われることになる。
この2年、あたしは生徒を教える傍ら、休日も学院受験を目指す子供達を指導するという生活をしてきた。
忙しかったけど、商人の次女でしかないあたしが貴族の奥様に収まっているんだから、文句なんかあるはずがない。
今の生活で暇を持て余すなんてことになったりしたら、逆に辛いんじゃないかと思うし。
当然というか、あたし達夫婦をやっかむ人は多いし、成り上がりと蔑む人だっている。
マリー様のお家、というかゼフィラス公爵家が後ろ盾になってくださっているから、面と向かって言ってくる人はいないけど、不満を感じてる人が多いのは当たり前と言えば当たり前だ。
だからこそ、あたしは実績を挙げなきゃならない。
2~3年実績を積めば、一応足場が固まるだろうっていうのがアインの見立てだ。それまでは全力で走り続ける。それが今の目標。
実は、マリー様にお呼ばれした理由には、心当たりがある。
ミルティ様から昨日届いた手紙のことだろう。
当然、マリー様のところにも行っている…というより、普通に考えれば、あたしのところに来たのより詳しいのが行ってるはずだ。三重の意味で義姉妹なんだから。
公爵邸に着くと、すぐ客間に通された。
やってきたマリー様は、開口一番
「ネイクのところにも行ってるでしょう?」
と、封筒をひらひらさせた。
やっぱりそうだ。
「はい、昨日。
おめでとうございます」
「ありがとう。
きっとネイクのところに行ったのもそうだと思うけれど、ミルティのはしゃぎっぷりが思い浮かぶわ。
本当は、あなたには少し辛い知らせなのではないかと思うのだけど、祝福してあげてほしいの」
ああ、どうして呼び出されたのか、やっとわかった。
マリー様は、あたしを心配してくださったんだ。
「大丈夫です。
羨ましいとは思いますが、私もミルティ様のご懐妊を喜んでいますから」
あたしが笑って答えると、マリー様は安心したような顔をした。
マリー様は、まだ子供を作れないあたしが、ミルティ様のご懐妊を知って羨んだり辛い思いをしたりするんじゃないかと心配してくださったんだ。
まあ、2~3年経ったって、あたしはまだ22歳だから、遅すぎるってことはないし。
もちろん、子供が欲しいと思うことはあるけど、本来なら爵位を得るまで子供は作れなかっただろうから、焦ったって始まらないよね。
兄さんのところのナイルスや、姉さんのところのアールスなんか見てると可愛いし、やっぱり子供が欲しいとは思っちゃうけど。
姉さんは、4か月になる息子のアールスを連れて、時々うちに来てくれる。
形としては、嫁ぎ先の商会の御用聞きってことなんだけど、あたしが喜ぶからわざわざ自分で来てくれるんだと思う。
アールスは、はいはいができるようになって、あっちこっちに冒険しに行くから、見ていて楽しい。
大きな目にぷくぷくと丸いほっぺ、口からヨダレ掛けにでろんと垂れてるヨダレと、どこを取っても元気な男の子だ。
同じ男の子でも、兄さんのところのナイルスは、もう少し大人しかったから、やっぱり1人1人違うんだなあって思う。
まだ4か月のアールスと、4歳のナイルスを比べるわけにはいかないけど、ナイルスは4か月くらいの頃も大人しかった気がする。
姉さんも小さい頃は活発だったから、似たのかも。
姉さんは何も言ってこないけど、アールスが大きくなったら、勉強見てあげてもいいかもしれない。
アールスが学院を目指すなら、だけど。
次回、裏50-2話は、以前からお約束していたアリス視点になりますが、14日はホワイトデー企画として、「転生令嬢は修道院に行きたい(連載版)」に閑話をアップします。
裏49話「共同研究(ガーベラス視点)」でも少し語られているドロシーの愚痴がテーマです。
そちらもお読みいただけると嬉しいです。