49 紅花の見通し
新しい陛下も即位されて、いつもの日常が徐々に戻ってきました。
紅花と綿花、それに織機と、少しずつですが完成へと向かっています。
畑の方は、相変わらず私は顔を出さずにいるので、アイーダの報告任せということになるのですが。
秋になり、ようやく収穫です。
どうやら、綿花の方は、一応の完成を見たようです。
来年は実証実験に回してもいいかもしれません。
紅花の方も、無事第3世代ができました。
あとは、再現性の試験ができれば、基礎研究は終わりです。
綿花が終わりましたから、来年は何を始めましょうか。
織機の絡みで考えるなら、今度は藍に手を出してもいいかもしれませんね。
とりあえず、今回の第3世代の一部を使って染料を作って染め、新しい織機のテストに使ってみてもいいかもしれません。
私は、模様を新たに考えることはできませんから、既存の模様を織機で再現することを前提にやっています。
今回の紅花で染めた色で模様を入れた時、旧来の紅花で染めたものと比べてどう変わるのか、色落ちはどうかなど、実際に使う上での問題点なども洗い出さなければならないでしょう。何しろ、これは長い間、着て洗ってを繰り返すことになるわけですから。
大量に栽培できて、色が鮮やかであっても、洗ったらすぐ色落ちしたり、光に当たると褪色するということでは、実用になりません。
織機の改良による柄織物の大量生産と、そのための色糸の生産は、今回の研究では両輪となっています。
どちらが欠けても量産には繋がりません。
まあ、どちらかと言えば、織機の方がより重要ではあるのですが。
ある程度完成が近付いてきたので、オーリだけでなく別の人の意見も欲しいところではあるのですが、何分機密という、そう簡単に人手を増やせない事情がありますから。
去年には、アイーダを襲って書類を奪おうという輩もいたことですし。
基本、オーリにテストしてもらっているのですから、オーリの癖や好みがどうしても出てくることになります。
そういったことも踏まえて、パスールさんはなるべく変な癖のない人を選んでいるとか。
ならばオーリは安心なのでしょうけれど、やはり誰か別の人にも触ってほしいのですよね。
私の我が儘なのは、重々承知しているのですが…。
そんな話をしたら、パスールさんは、
「では、オーリの娘に使わせてみましょう」
と言いました。
オーリの娘は今15歳で、本来なら学校に通っている年齢なのですが、オーリの郷里では学校に通う人は少数派で、大抵は10歳を過ぎると畑仕事に駆り出されるのだそうです。
オーリ自身も、13歳で結婚したのだとか。
15歳となると、そろそろ嫁き遅れと言われかねないそうで、王都周辺の常識とは随分と違っているようです。
ともあれ、オーリはちょうど娘のアミィに機織りを教えようと思っていたところらしいので、それならとアミィの反応を見ることにしました。
教えているところを見られるのは、あまりいい気はしないでしょうが、そこでどういう反応が見られるのかが重要なので、我慢してもらうしかなさそうです。
そんなこんなで、オーリのところに通う毎日となったのですが、ある日、お義父様に呼び出されました。
今度は何でしょう? 思い当たることはないのですが。
「マリー、殿下も紅花の基礎研究が完成間近となった」
えっ? あの状態から、半年でですか!? いったいどうやって…。
「さすがに驚いているな。
タネを明かせば簡単なことだ。
お前の研究を下敷きに発展させたんだ。
ただ、多少は自分なりの独自の考えを入れたらしくてな、できあがった第3世代はマリーのものとは少し違うらしい。
細かいところは、来年は、マリーと殿下の共同で、それぞれの特性を調べると共に、更にいいものができないか試してみてくれ」
「わかりました」
お義父様の前を辞して屋敷に戻った後で、考えてみました。
殿下が、私の研究資料を基に、独自のものを作った?
確かに、利用するために資料を渡したわけですから基にするのは構いませんが、まさか渡してすぐに形にできるなんて。
そういう方向でのセンスはある、ということでしょうか。
それなら、研究所で生かしやすい能力と言えるでしょう。
殿下、見直しました。
それでは、来年の共同研究に向けて、打ち合わせをしなければいけませんね。
殿下がどんな風に考えてどんなものを作ったのか、見るのが楽しみです。
意外と、応用力はあるアーシアンでした。
そして、成果を挙げれば興味を示すのがマリーです。
こうして、アーシアンはマリーの近くにいる権利をもぎ取りました。
もちろん、裏もあるのですが。
2月28日は、「転生令嬢は修道院に行きたい(連載版)」にルーシュパスト視点でドロシーとの出会いを閑話としてアップしますので、更新を1回お休みします。