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奇蹟の少女と運命の相手  作者: 鷹羽飛鳥
王立研究所
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裏48ー2 次の一手(テザルト王視点)

 リクエストの多かったテザルト王国側の視点です。

 「ガルデンの王が死んだか…。

  弔使を送れ。護衛のほかに文官として5~6人影を付けろ。

  堂々と王城に放り込む、またとない機会だ」


 ガルデン王国国王ギルビス・フォア・ガルデンが死んだ。

 まったく長生きしてくれたものだ。

 ようやく代替わりか。

 これで少しは隙が増えてくれるといいのだがな。




 隣国ガルデン王国は、元々は我がテザルト王国より少しばかり国力がある程度の国だった。

 戦力的にはそう大した差がないとは言え、いざ戦となれば、確実に負ける。

 百数十年前には、国境の土地を削り取るべく争いもしたが、結局、山脈を境に、それ以上攻め込めない状態で固定されている。

 広大な国土を持ちながら、その多くを不毛の大地とする我が国は、地力(じりき)に乏しい。

 鉱山を持ってはいても、肝腎の食糧を輸入に頼っている以上、国力を上げることは難しいのだ。

 それでも、ガルデン側の国力が上がらなかったのなら、バランスが狂うことはなかった。

 ある時、突然、ガルデンの食糧生産力が大きく上がった。

 ガルデンに王立研究所ができた頃だ。

 第3王子サイサリスが開発したアライモとやらが、直轄領で栽培されるようになった。驚くべきことに、それは新規に開拓した荒野(・・)で栽培されているという。

 先代の王、我が父は、ガルデン王国内に送り込んでいる影共を通じて、食糧として市中に流れているものをいくつか入手した。見た目は何の変哲もないイモだが、食べてみれば、同じイモとは思えないシロモノだったという。

 ガルデン王国内でもそうは手に入らない品だというが、イモなのだから、植えれば増えるだろう。多少効率が悪いのは仕方ない、そう考え、手に入れた数個のイモを早速栽培させてみたところ、確かに増えたが、1年掛かって10倍に増える程度だったそうだ。それでは、量産にこぎ着けるまでに3~4年掛かってしまう。

 種芋を我が国に持ち込むのも難儀な中、それでも数年がかりである程度増やすことができた。

 種芋がある程度増えたところで、今度は荒れ地にも植えてみた。

 平地と同じくらいよく育つ。

 素晴らしい。これがあれば、我が国の食糧事情も改善される。そう考えた父は、この技術をなんとしても取り込もうと考えた。

 報告では、そのイモはサイサリス王子とどこぞの貴族令嬢との共同開発だとのことだった。

 普通に考えれば、王子はお飾りで、部下の成果を自分のものとして吹聴しているところだが、サイサリスの植物好きは我が国においても有名で、本当にサイサリスの成果かもしれないという疑惑を払拭できなかった。

 サイサリスが、この成果をもって公爵家を興し、研究所に君臨したという話もあった。

 だが、本当にそれほどの成果を上げたのならば玉座に手を伸ばすところなのに、敢えて研究所にいる、というところが怪しい。

 まるで、今後も何か研究すると言っているかのようだ。

 対して、令嬢の方は、どこぞに嫁いだきり表舞台から消えたという。




 父は、それをどう見るべきか悩んだ。

 本当に王子が作り、令嬢が消えただけなのか、令嬢が作り、姿を隠した──表舞台から消されたのか。

 常識的には、貴族令嬢が農作物に興味を持つこと自体あり得ない。それなのに共同研究者に名を連ねるということは、実際に令嬢が関わっていると考える方が自然だ。場合によっては、王子が手柄を横取りするために令嬢を亡き者にしたという可能性もある。

 もう少し情報が欲しいが、なにしろ件の令嬢は王立学院を卒業するとすぐに嫁いだそうだから、情報が入らない。学院内部には影を送り込むのも難しいのだ。

 それでも、令嬢が「不世出の才媛」と呼ばれる天才だったことはわかった。ジェラード侯爵家という、農業と酪農が盛んなところに嫁いだことも。

 令嬢が開発した可能性は高い。父は、王子に研究を売ったのだと読んだ。

 そして、父はジェラード侯爵領に影を送り込んでみた。可能ならば令嬢を攫ってくるようにと命じて。侯爵家の嫁くらいなら、攫うのもそう難しくはあるまい。

 もしそやつが開発したというなら、田舎に引っ込んで使わなくなったその頭脳、我がテザルトのために役立ててもらおう。そう思ってのことだった。




 ジェラード侯爵領の調査が終わらないうちに、研究所が新しい作物を発表した。

 今度はイモではないので、作物そのものから増やすことができない。

 こうなると、王子が自力で作っている可能性が高い。

 嫁いでいった女が作る可能性は低かろう。とはいえ、せっかく調査を命じたのだから、結果を待つことにはしたが。




 そして、送り込んだ影は帰ってこなかった。

 ジェラード侯爵領も、王都もだ。

 王都はわかる。研究所の警備が厳しいのは当然だ。だが、なぜ侯爵領の方でも行方不明になるのか? それは、女の方も関係しているからだ。父はそう考えた。




 潜り込ませた影は1人として戻らない。何人もの優秀な影を送り込んだにもかかわらず、誰1人としてだ。やがてジェラード侯爵領は、我が国諜報部で「奈落への穴」と呼ばれるようになった。

 父は、やむを得ず、潜り込ませず搦め手を使う方向に切り換えた。

 国境を守るザーカイン侯爵とセズール侯爵を懐柔し、こちらの手の者をガルデン王国内に少しずつ入り込ませると共に、ガルデンの貴族を抱き込んでいく。

 迂遠な方法だが、そんなやり方をせざるを得ない。

 ことは、この国の行く末が掛かっているのだ、多少時間が掛かろうとも手に入れなくては。




 俺が即位した時、これらの話を先代の王から引き継いだ。

 妄執、と言ってもいいかもしれない。

 本来なら、多少不利な条件を飲んででも食糧増産の秘策を買い取るべきだったのだろう。

 だが、永年に亘る小競り合いの歴史と、最初に影を潜り込ませた浅慮が、それを許さなかった。

 もはや闇に潜み、こそ泥のように盗むしか方法はない。

 こちらの王が代替わりしたからといって、前王のしでかしたことがなかったことにはならないのだ。




 順調に影をガルデン国内に送り込みながらも碌な情報もつかめないまま十数年。

 掴んだものといえば、せいぜいかつての王子の共同研究者は、「不世出の才媛」と呼ばれる天才だったということくらいだ。

 令嬢が関わっていたことなど、侯爵領に送り込んだ影が戻らない時点でわかっていたことだ。

 ようやく貴族関係で流れる噂を手に入れられるようになった。

 件の天才が産んだ息子ノアジール・ジェラードが学院に入ったとか。


 ようやく伝手を得た貴族の娘が学院にいるというので、接近させた。

 「不世出の才媛」の息子ということで、注目を浴びてはいるが、好意的とはいえない視線を受けているようなので接近しやすいと踏んだのだが、まったく相手にされなかったという。

 そして、ノアジールは飛び級したが、植物学ではなかったそうだ。


 だが、ノアジールが卒業すると、すぐに例の王子の娘を娶った。

 たかが侯爵の嫡男に公爵家を興したばかりの王子が娘を嫁がせる…それほどに縁を結びたいわけだ。

 そして、さらに十数年。

 ようやく王立学院内部の情報を多少なりと入手できるようになり、驚くべき情報を得た。

 現在、「不世出の才媛」の孫娘が同様の成績を取って「奇蹟の再来」と呼ばれており、公爵家に養女に入るという噂もあるというのだ。

 これは、完全に後継者だ。

 「奇蹟の再来」の教えを受けた平民の娘もまた成績が上がったという。

 平民でありながら「奇蹟の再来」の側に侍り、大層可愛がられているとか。

 ならば、その娘を人質に、「奇蹟の再来」とやらを連れてくればいい。

 年齢的なことを考えれば、50間際の「不世出の才媛」より13歳の孫娘の方が利用価値が高いだろう。


 そう考え、影の情報網を駆使して子爵家の小僧を籠絡して手駒にできた。

 動かせるだけの影を動かしての誘拐作戦だったが、見事に失敗。ようやく王城内に潜り込ませた駒も、そのほとんどを失う結果となってしまった。

 ガルデン王国内での諜報網を再構築するにはまだまだ時間が掛かる。

 だが、僅かに残った影からの報告では、研究所が今度は織物にも手を出すとか。

 これ以上国力に差が付けば、逆に侵略を受けることになる。

 かつて我らテザルトから散々攻め込んだのだ。恨みを晴らすとばかりに侵略されれば我が国は滅ぼされかねない。

 とにかくガルデンの力を削がなければならん。

 そして、あわよくば食糧増産の秘密を手に入れるのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] はー。姑息だなあ。 自分の国で独自に何か生み出そうとは思わないのか!? 愚王だと民が不幸だねー。
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