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奇蹟の少女と運命の相手  作者: 鷹羽飛鳥
王立研究所
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裏47 夢に見た再会(アーシアン視点)

 長かった。本当に長かった。

 今日、僕はようやくマリー嬢に再会できる。

 この日をどんなに待ちわびたか。

 研究所に入れば、僕とマリー嬢は研究者同士、それも同じ紅花の研究をしている者同士だ。

 研究資料の交換もできるし、打ち合わせだって必要だ。

 さすがにいつでもってわけにはいかないだろうけど、学院時代と比べたって頻繁に会えるだろう。

 できれば、紅花の研究を僕だけの力で完成させて、鳴り物入りで研究所入りをしたかったんだけど。

 まぁ、その分、マリー嬢と資料の交換とかできるわけだから、得したと思えばいいか。

 僕の4年間の成長を見たら、マリー嬢はなんて言うだろう。

 もうミルティは嫁いでいったわけだし、僕に婚約者の類がいないことははっきりしてるんだ。

 僕から告白してはいけないというルールは変わらないけど、それでも学院時代よりは遥かに自由に動ける。

 僕達は、対等な研究者同士なんだから!

 と思ったのに、すぐには会えなかった。

 会うのには、所長(叔父上)の許可がいるんだって。




 ようやくマリー嬢との面会許可が下りた日、まとめた資料を持って早速マリー嬢の研究室を訪ねた。

 「ローズマリー嬢、お久しぶりですね。

  これからよろしくお願いします。

  僕の研究データをまとめたものを持ってきました。あなたの資料と交換して、発展させましょう」


 久しぶりの再会の喜びも露わに挨拶した僕に対し、マリー嬢の挨拶は信じられないくらい冷たいものだった。


 「殿下。確かにあなたは王家の方ですが、研究所(ここ)では研究員の1人なのです。

  私のことは、次席と役職でお呼びください。

  他の方への示しが付きません。

  では、こちらが私の方の資料です。後で目を通してください」


 え…後で? 僕の資料は机の上に置かれたままだし、僕はこの資料を自分の部屋で見なきゃいけないの? お互いここで読んで意見交換とかはしないの?


 「では殿下。申しわけありませんが、次席はお忙しいお体ですので、お引き取り願います」


 ものすごく冷たい秘書の一言で、僕は部屋から追い出された。

 追い出されたこと自体は仕方ない。

 秘書の立場としては、マリー嬢が会見終了の合図を出した以上、従うしかないんだし。

 でも、マリー嬢のあの態度はないんじゃないかな。

 仮にも、ほとんど3年ぶりの再会だったのに、あんなに事務的な対応しなくてもいいじゃないか。




 もやもやした気持ちを振り払うため、僕は所長室に向かった。


 「で? 何が不満ですかな?」


 叔父上から勧められてソファに座り、さっきのマリー嬢の態度についてぼやくと、叔父上は笑ってそう言った。

 不満? そうか、不満か。

 僕は、予想と違って冷たくあしらわれたことを不満に思ってるんだ。


 「もう師匠と教え子じゃない、同じ研究員になったのに、あれはないんじゃないかと思うんですが」


 でも、叔父上の言葉もまた冷たいものだった。


 「そんな気持ちでいるから、冷たくあしらわれたのですよ。

  まず、殿下は大きな勘違いをしておられる。

  殿下は、研究所の職員になりました。

  ということは、生来の身分ではなく、研究所の序列に従わねばならぬのです。

  まあ、マリーは私に対して父娘として接しますがね、それも2人だけの時に限ります。

  マリーは、そういった立場については、よくわかっていますから。

  殿下は、社交は学ばれておりませんかな?

  マリーは、ここの植物学部門の次席研究員、殿下は飛び級の分優遇されてはおりますが、あくまで一般の研究員。

  対等な立場ではありません。

  私の屋敷でマリーの教えを受けていた頃、あなたは王太子殿下の第2王子、マリーは侯爵令嬢であり、教え子と言ってもあなたの方が身分が上でした。


  ですが、殿下は研究所に入り研究員となった。

  飛び級した才能を評価して、個室や個人の温室を与えてはおりますが、あなたは一介の研究員に過ぎないのです。

  片やマリーは次席研究員です。

  直接の部下でこそありませんが、明確にあなたは下の立場です。

  加えて、殿下はいずれどこかに婿入りする身、マリーは公爵家跡取りです。王子という身分は、何の意味も持ちません。

  身内だからと言って、呼ばれもせぬのに勝手に所長室を訪ねてくるのは、これっきりに願います。

  私は所長、あなたの上司です。

  そういった節度をわきまえないと、いずれマリーに口も利いてもらえなくなりますよ」


 「叔父上? 節度って…」


 どういうことだろう? 研究所に入ったら、マリー嬢と対等の立場で接することができると思ってたのに。


 「殿下。

  マリーは、既に学院で1つ、ここで1つ、新種を完成させているのですよ。

  ここで完成させた小麦は、叔母上…ジェラード首席研究員との共同研究ではありますがね。

  あなたも、学院で紅花の研究を完成していれば、それなりの立場でここに入ってこられた。そうすれば、マリーとも対等に近い関係で接することができたかもしれない。

  けれど、現実には、あなたは飛び級以外何の実績もない新人です。

  新種を完成させたマリーと対等など無理なのですよ」


 何の実績もない…

 「パスール殿は、どうなっていますか」


 「パスールなら、織物部門の首席研究員として頑張っていますよ」


 「首席!? どういうことですか!?」


 そんなの初耳だ。え? 首席って、マリー嬢のお祖母様のことじゃないの!?


 「現在、研究所には旧来の植物学部門と、新設の織物部門があります。

  パスールは、部門の立ち上げに大きな成果を上げてくれたのでね、

部門の統括を任せているのですよ。

  王国中を飛び回って、各地の織物産業の実情を調べ、機織りという作業に画期的な進歩をもたらそうとしている。

  現在は、新しい織機をマリーと共同開発中でね」


 共同開発…研究するような人じゃないはずなのに…

 「共同って、パスール殿は何をしてるんですか?」


 「マリーが提案した改良案を、実際に組み込ませるといった指揮命令が主な仕事だね。

  ここまで形にしたのは、パスールの努力だよ。

  成果に報いるのは、当然のことだ。

  君は、将来有望な新人だが、マリーが先に紅花を完成させてしまえば、成果を挙げるチャンスすら失う。

  そうなれば、ただの研究員になる可能性すらあるのだよ。

  それが嫌なら、こんなところで油を売っていないで、マリーから貰った資料を読み込んだ方がいいと思うがね?」


 叔父上の雰囲気が変わった。

 空気が固形になったみたいな、妙な重さを感じる。追い立てられるように、僕は所長室を後にした。




 部屋に戻って、マリー嬢から貰った資料を読んでみると、僕が4年間かかって超えられなかった壁をあっさりと乗り越えた成果が書かれていた。

 遥かに多角的に、一見何の役に立つのかと思うような品種とも掛け合わせて、思いもよらない次世代を生み出している。

 こんなに色々やってるんだ。

 どうやって選んだのかもわからない、なのに結果から見ると、狙っていたかのような組み合わせの数々。

 僕の資料なんかいらないじゃないか。

 マリー嬢は、たった2年でこれだけのことをやったのか。これが、二段飛び級した力。

 パスール殿は、研究室(ここ)で地位を得て、マリー嬢に接近してる。

 紅花を完成に持って行かないと、本当に置いていかれる。

 できることをやらないと。

 今僕にできることは、紅花の研究を進めることだけだ。

 アーシアン、フルぼっこです。

 まぁ、良くも悪くもこれくらいでは潰れない人ですので、まだまだ先があります。伸び代も。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 伸び代があるのはいいですねー。 まだ若いし、指導が必要なのかな。 そういう意味では、ここでガツンと砕けたのは良かったのかも。 頑張れ、殿下!!
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