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奇蹟の少女と運命の相手  作者: 鷹羽飛鳥
王立研究所
123/161

47 ミルティの結婚

 遂にミルティが卒業・結婚です。

 当然というか、あの人も卒業・就職です。

 もうじき研究所に入って3度目の春を迎えます。

 そして、遂にこの日がやってきました。

 1週間後、ミルティがお兄様に嫁ぐのです。

 ミルティが王都を去ってしまうのは悲しいですが、幼い頃から夢見てきたお兄様との結婚という夢を叶えたのですもの、祝福してあげなければなりませんね。

 お義父様にお願いして、ネイクも一緒に領地に連れて行くことにしました。

 おばあちゃまは、今年の春も寝込んでしまいましたから、屋敷で養生していただきます。

 無理をしたら、病状が悪化しかねないのですもの。


 輿入れするミルティは、一足早く領地に向かうことになるので、出発前に私の屋敷に挨拶に来てくれました。


 「お姉様、領地でお待ちしています。

  形の上で義姉になっても、私はお姉様の妹のミルティですから」


 そう言い残して馬車に乗り込んだミルティの顔は、本当に晴れやかでした。

 3日後、私とネイクも馬車で領地を目指して出発です。

 お義父様のお許しを得て栽培した七色のバラの蕾で作った花束も一緒です。

 お祖父様の遺した資料で作った七色のバラ。

 ミルティのために咲かせたいとお願いしたら、お義父様は許してくださいました。

 これから滅多に会えなくなる可愛い妹の晴れの日を、お祖母様やおばあちゃま、お母様が嫁ぐ時に持っていたという七色のバラの花束で祝福したい。そんな私の想いを、お義父様は容れてくれたのでした。




 初めてのネイクとの遠出になりました。

 「学院の方で1年過ごしたわけだけど、どう?」


 「幸い、皆さん受け入れてくださったようで、講義自体は順調です。

  私が受け持っているのは、4年生以下で、2,3年生が主体なので、今年のところは任用試験を受けた院生はいませんが、来年が怖いです」


 あまり気負わずに微笑むネイクにホッとしました。

 アインさんとの生活も幸せそうだし、よかったです。




 領地に着き、お父様とお母様にネイクを紹介して、すっかりもぬけの殻になった研究室の跡地を見て、領地に戻らなかった3年という時間の長さをしみじみと噛みしめました。

 ここが、私の始まりの場所。

 今、王都で私が研究しているのは、ここでのおばあちゃまとの日々があったからこそ。

 私は、もうここへは戻ってこないけれど、ここで培ったものが私の根幹であることは忘れません。

 さようなら、思い出の場所。ここでのことは、忘れません。




 ミルティの結婚式当日。

 「おめでとう、ミルティ。幸せにね」

 「おめでとうございます、ミルティさま」


 「ありがとう、お姉様、ネイク。

  今日この日があるのは、2人のお陰だわ。

  ネイクの幸せと、お姉様が早く運命の人に出会えることを願っています」


 そう言ってくれるのは嬉しいけれど、私が運命の人に出会うのは無理だと思います。


 「ありがとう、ミルティ。でも、それは少し難しそうよ」


 けれど、ミルティは、自信たっぷりの笑顔で言い切りました。


 「お姉様は、まだ運命の人に会えていないから、自信が持てないのですわ。

  もし、この人が運命の人だ、と思ったら、きっとお姉様はどんなことをしてもその人と結ばれます。

  だって、お姉様にもゼフィラスの血が流れているんですもの。

  相手が誰であろうと、どんな障害が立ち塞がっていようと、そんなものは関係ありませんわ。

  全てをねじ伏せて、必ず運命の人と結ばれるに決まってます。

  4年前、私とオルガが結ばれる未来を予想していたのは、私だけでした。

  お姉様が協力してくれなければ、今日という日は来なかったでしょう。

  でも、今日は来たのです。

  お姉様にも、その日はきっと来ます。

  私の予想は当たりますわよ」


 少しおどけた様子でミルティは言いました。

 不思議と、そうやって自信たっぷりに宣言されると、そんなものかなと思えてきます。

 私にも、いつか運命の人が現れる…本当にそうなったら、どんなに素晴らしいでしょう。

 けれど、私がその人と結婚するために全てをねじ伏せるなどということがあり得るのでしょうか。

 どうにも想像がつきません。

 確かに、お祖母様ならば、お祖父様のためなら何でもした、と素直に思えます。

 でも、私は…。

 アーシアン殿下に恋をした時のことを思えば、相手が誰であれ諦められるのではないかと思えます。

 運命の人が相手なら、違うのでしょうか。

 …そうであってほしいとは思いますけれど。


 七色のバラの花束を携えたミルティは本当に綺麗で、幸せそうな笑顔でした。

 その姿を私の隣で見つめるネイクも、アインさんと結婚してからというもの、幸せいっぱいといった様相です。

 お父様とお母様、おじいさまとおばあちゃまも、幸せそうでした。

 お祖母様は、あまり気持ちを表に出さない方でしたが、それでもお祖父様と共にあることを望んでいたのは間違いありません。

 なんとなく煮え切らない思いを抱えたまま、私は久しぶりの領地を後にしました。




 そして。

 アーシアン殿下が入所してきました。

 とりあえず役職はありませんが、殿下は飛び級なさっていますから、最初から研究室が与えられています。

 残念ながら、学院在学中には研究を完成できなかったようですが、それでも4年間のデータはかなりのものになるでしょう。

 私が2年研究した分と情報交換すれば、新たな進展も望めるかもしれません。

 以前、殿下が仰っていた共同研究とは少し違いますが、結果的に同じようなことになりましたね。

 あの頃は、私が殿下と同じものを研究することになるとは、思いもしませんでした。

 殿下の研究は殿下のもの。私が手を出すべきものではありませんから。

 けれど、お義父様から紅花の研究を命じられて。

 織機の改良にも手を付けた今、紅花の量産によって得られる成果を考えたら、殿下に遠慮する意味がなくなってしまいました。

 我ながら、現金なものです。




 殿下が挨拶に見えました。

 少し大人っぽくなったようです。


 「ローズマリー嬢、お久しぶりですね。

  これからよろしくお願いします。

  僕の研究データをまとめたものを持ってきました。あなたの資料と交換して、発展させましょう」


 …大人っぽくなったのは、外見だけだったようです。


 「殿下。確かにあなたは王家の方ですが、研究所(ここ)では研究員の1人なのです。

  私のことは、次席と役職でお呼びください。

  他の方への示しが付きません。

  では、こちらが私の方の資料です。後で目を通してください」


 殿下が下がられた後で、殿下の研究資料を読んで驚きました。

 4年間、何をやっていたのですか!?

 毎年同じような組み合わせで失敗して、これでは進展するわけがないではありませんか。

 どうしてもっと貪欲に色々な組み合わせを試さないのでしょう。

 確かに、これは私が試していない組み合わせですから、役に立たないということはありませんが…。

 私1人で研究した方がいいかもしれませんね。

 2年の間に見違えるようになったパスールと比較されて、評価が落ちてしまったアーシアンでした。

 アーシアン自身も、それなりの研究をしているのですが、なまじ同じテーマであるだけに、マリーの眼鏡には適わなかったようです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うっわー、マリー厳しいっ!! アーシアン哀れ。 でもね、まだ挽回できる……と思うけど、マリーの場合は「また好きに」は難しそう。 パスールとも進展ないし、パスールが押してくる感じもない…
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