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奇蹟の少女と運命の相手  作者: 鷹羽飛鳥
王立研究所
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裏39-1 子爵夫人(ネイクミット視点)

 アイン様が登用試験に無事合格し、ほっとしていた頃、突然あたしはゼフィラス公爵邸に呼び出された。

 この邸宅にお呼ばれされたことは何度もあるけど、公爵様に呼ばれるのは初めてだ。

 ミルティ様のお話では、あたしに登用試験を受けないよう言ってきた方の背後には公爵様がいらっしゃったらしいから、ここに呼ばれたということは、あたしの配属先が決まったってことだろう。

 公爵様に呼ばれたってことは、あたしの配属先は研究所なのかも。




 初めて応接室に通されると、そこには、ミルティ様のお父様…ゼフィラス公爵様がいらっしゃった。

 勧められるままソファに座ったけど、研究所に入れるかもなんて期待は、予想外の言葉で砕け散った。


 「ネイクミット・ティーバ、君はアイン・ヒートルース子爵家子息の婚約者で間違いないね?」


 「は、はい」

 なんだろう。もしかして、アイン様と同じ部署にはなれないってことなのかな。


 「まず、アイン・ヒートルースは、研究所に配属となる。本人には後日伝えるが、これは決定だ」


 「は、はい。ありがとうございます」

 これは…あたしは違うってことなんだ。


 「そして、ネイクミット・ティーバ。君には、王立学院で登用試験を目指す院生を専門に指導する特別講師となってもらう。

  今回新設される役職で前例がないから、多少苦労することにはなるだろうが、頑張ってもらいたい」


 講師!? 学院で!? 王城には上がれない…官吏になれないの?


 「あ、あの…わ、私…は…官吏にはなれない…ということでしょうか?」


 「いや、学院の講師も官吏であることに変わりはない。

  そして、アイン・ヒートルースの任官と同時に、陛下から君との婚姻が宣言され、子爵に叙されることになっている。

  つまり、君にはヒートルース子爵夫人の立場で学院に赴任してもらうことになる。

  このことも、後日、アイン・ヒートルースに伝える。

  今日の話はこれだけだ」


 いきなりのことで頭がついていけない。

 ええと、アイン様が研究所に配属されて、あたしが学院で先生になって、え? 同時に結婚? 陛下から宣言? 子爵夫人って…


 何が何だかわからなくて混乱して、ふと気が付くと、ミルティ様が隣に座ってらした。

 「あ…ミルティ様!? あの、公爵様は!? あたし、ご挨拶もしないで…」

 ますます混乱したあたしを、ミルティ様は隣からきゅっと抱き締めてくださった。


 「ネイク、落ち着いて。

  急な話だから、驚くなって言う方が無理なの。混乱するのも仕方ないわ。

  ゆっくりと飲み込めばいいのよ。

  いい? ネイクにはピンとこないかもしれないけど、要するに勉強会のメンバーのほとんどを官吏に合格させたネイクの指導力が評価されたのよ。

  だから、ネイクには学院で講師になってほしいんですって。

  でね、学院じゃ、主に貴族を相手にすることになるだろうから、平民だと舐められるかもしれない。

  だから、ネイクを貴族にしたい。

  でも女は爵位を持てないから、すぐにアイン・ヒートルースと結婚して子爵夫人になれ、って、そういう話なのよ」


 アイン様と結婚して、子爵夫人? それって、アイン様が子爵になるってこと?

 まだ、王城で働いてもいないのに?

 アイン様は、2人で爵位を掴もうって…それなのに、あたしのために爵位だなんて、アイン様はどう思うだろう…。


 「アイン様は…どう思うでしょう…」


 「アイン・ヒートルースは素直に喜ぶわよ。そういう男だから。

  あのね、ネイク。今回の叙爵は、勉強会のメンバーのほとんどが合格したことを評価されたのよ。

  勉強会を主催したのは誰? 運営したのは?

  わかる? 手柄はあなただけのものじゃない。アイン・ヒートルースも貢献してる。

  アイン・ヒートルースはね、ネイクが功績を挙げられるように、自分もそこに一枚噛めるように、ちゃんと考えて動いてきたのよ。

  予想以上の成果で、予想外の早さで目的が達成されたけど、それを喜びこそすれ、戸惑ったり、ましてや怒ることなんてあり得ない。

  あなたの夫は、そういう男よ」


 「ミルティ様…、そうでしょうか?」


 「そうよ。自分の夫を信じなさい。

  勉強会を企画した時に、そういうことを言ってなかった?」


 企画した時…アイン様は、「こういう会を主催したとなれば、俺達の統率力・企画力を学院にアピールできる」と言ってた。

 そうか、勉強会の成功には、アイン様の統率力や企画力も含まれてるんだ。

 アイン様は、最初からこういう評価を受ける可能性を考えてたんだ…。


 「はい…。言ってました」


 「ね。だから、大丈夫。ネイクは胸を張って、『やりました、子爵です!』って報告すればいいのよ」


 「はい…はい。ありがとう、ございます…」


 ミルティ様のお陰で、あたしはようやく落ち着くことができた。

 アイン様は、喜んでくれるんだ。

 ふと気が付くと、マリー様も部屋にいらして、やさしく微笑んでいた。


 「ネイク、あなたの正装は、私にプレゼントさせてくれるかしら?」


 「あら、お姉様、私を除け者にしないでくださいね」


 「じゃあ、2人で、ね。

  ネイク、今度採寸させてね」


 正装をプレゼント?

 「あ、あの、正装って?」


 「任官式で叙爵と婚姻となると、それなりの服装がいるもの。

  陛下の前に出て恥ずかしくない衣装を作ってあげるわね」


 「大丈夫。我が公爵家(うち)は、前からあなたの後見に付いているんだから」


 にっこり笑いながら気の遠くなるようなことを仰るお2人に、あたしは倒れそうだった。




 翌日、アイン様にこの話をすると、ミルティ様の仰ったとおり、アイン様は喜んでくれた。


 「すごいぞネイク! まさかこんなに早く爵位を得られるとは思わなかった。

  思っていた以上の合格率だったからな、それなりに評価されるとは思っていたが、そうか、学院で…。

  いいかネイク、お前はそれだけの価値がある存在なんだ。

  胸を張れ。でないと教え子に舐められるぞ」


 よかった。アイン様、嬉しそう。




 あれから、何回か公爵邸に通って、正装を作っていただいた。

 なんだか申し訳ないけど、マリー様もミルティ様も、とても楽しそうに準備してくださるので、辞退することもできない。

 そして、遂に任官式の日を迎えた。

 あたしは王城に上がるわけじゃないから、一番最後に呼ばれることになってる。

 叙爵の件もあって、一番初めはアイン様だ。

 陛下の横にいらっしゃる方が、1人ずつ名前と配属先を告げていく。


 「アイン・ヒートルース、王立研究所庶務を命ずる」


 「はっ!」


 「ディワイター・キューレル、────」


 「────」

 「────」

 「トゥーリー・オークール、────」

 「────」

 「────」

 …

 あたし以外の全員が終わったところで、再びアイン様が呼ばれた。


 「アイン・ヒートルース、ネイクミット・ティーバ、前へ」


 アイン様とあたしが一歩前に出ると、陛下が


 「王の名において、アイン・ヒートルースとネイクミット・ティーバの婚姻を認める。

  そして、ネイクミット・ヒートルースを王立学院登用試験対策専門講師に任ずる。

  また、ネイクミット・ヒートルースの功績を讃え、アイン・ヒートルースに子爵位と屋敷を与える。


  ネイクミット・ヒートルース、此度の成果、見事であった。

  以後も励むように」


 「は、はい、全力を尽くします」


 陛下直々のお言葉をいただけるなんて。それも、こんなに褒めていただいて。

 返事ができたのが不思議なくらいで、どうやって帰ったのかも覚えていない。

 気が付くと、あたしは、知らない部屋で知らない侍女に着替えさせられていた。

 マリー様のお屋敷ほどの人数じゃないけど、侍女がいて、あたしを「奥様」と呼んでくる。

 そこらのレストランより遙かに豪勢な食事が並び、お風呂では侍女に体を洗われて、あたしの常識は砕けてしまいそうだ。

 以前から、ミルティ様のお屋敷にお呼ばれするたびに、使用人に対する物言いとか態度について説明されていたのは、もしかしてこのためだったんじゃないだろうか。

 この辺の先読みについては、ミルティ様はマリー様さえ上回る。

 マリー様がそういうところに興味をお持ちでないこともあるんだろうけど、こういう方面でミルティ様の予想は外れたことがない。

 とはいえ、平民のあたしがいきなり貴族になって「奥様」なんて呼ばれても、まともに返事なんかできないよ。




 侍女の人達の怒濤の勢いに流されて、気が付けば、あたしは寝室でベッドに腰掛けていた。

 えっと…これって、初夜ってやつだよね。

 あたし、本当にアイン様と結婚したんだ…。

 1人でしみじみ噛みしめていたら、アイン様が寝室に入ってきた。

 そうだ! アイン様はこのことをどう思ってるんだろう。

 立ち上がってアイン様を迎えたけど、アイン様はあたしにまた座るよう促した。


 「ネイク、お前には感謝している。

  お前となら、きっと爵位を掴めると思ってはいたが、まさか王城に上がる前に子爵になれるとは思わなかった。

  勉強会にしても、あれだけの人数を合格させられたのは、紛れもなくお前の力だ。

  自信を持て。

  お前が平民だったと侮る奴もいるだろう。

  だが、お前は公爵令嬢姉妹を友人に持つ子爵夫人だ。

  まだ何の実績もなく爵位も継いでいないガキ共よりも立場はずっと上なんだ。

  陛下は、お前の功績を讃えて俺に爵位をくださった。

  お前を笑った奴は、陛下を笑った不届き者だ。

  それを忘れるな。誇りを持て。

  何より、お前は俺の自慢の妻なんだからな。

  これからも、よろしく頼む」


 「アイン様…一生、お側におります」


 こうして、あたしはアイン様の妻になった。

 当然というか、ネイクの屋敷も使用人も、カトレアの計画に従いガーベラスが用意したものです。

 王国の重要人物であるネイクを様々な脅威から守るため、使用人の中に護衛や影が混じっています。さすがにセリィの侯爵邸ほどではありませんが。


 なお、アンリ様主催「秋の恋」企画に参加するため更新を1回お休みして、次回更新は11月4日(土曜)午前零時とします。

 秋の恋は、11月3日にアップする予定…したいなあ、と思っております。まだ書き上がってませんが、よろしければそちらも読んでやってください。ハッピーエンドの甘甘ラブストーリーになる予定です。まだ書き上がってませんが(しつこい)。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アイン、最初からずーっとこの調子で、本当にブレなかったね。初志貫徹。頑張ったよ。 ネイクもよかったね。夢が叶いました♡ 100話の区切りで慶事♪ 10代子爵若夫婦の前途に幸あれ!!
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