1 世界のナイショ
主人公が3歳児のため、ひらがな多めですが、何しろセリフが多いので、読みづらそうな部分は敢えて漢字にしています。
その点、ご了承ください。
マリーはね、いま3さい。
ほんとうはローズマリーっていう名前なんだけど、みんな「マリー」って呼ぶの。
だいすきなお兄ちゃまがお勉強でいそがしくなって、遊んでくれないから、つまんない。
それで、お母さまのところに行ったら、ご本を読んでくれたの。
お姫さまが王子さまと結婚してしあわせになるの。
でもね、マリーが
「王子さまといっしょにいると、しあわせになれる?」
って聞いたら、お母さまは
「それはわからないわねえ」
って言うの。
「お母様もね、マリーくらいの頃に王子様に会ったことがあるの。
でもね、王子様といても、ちっとも嬉しくなかったわ。
その後でお父様と会った時は、とっても幸せな気持ちになったの。
お母様は、王子様よりもお父様の方がずっと好きよ」
「お父さまは、王子さまよりもすごいの?」
「そうね。お母様にとっては、世界で一番素敵な人よ」
「おじいさまも、王子さまよりすごい?」
「王都にいらっしゃるお祖父様は、王子様だったのよ。
お祖母様と結婚する時に、王子様をやめてしまったけれど」
「王子さまをやめちゃっても、おばあさまは、おじいさまが好きだったの?」
「そうよ。お祖母様は、王子様じゃないお祖父様が好きなの。
お祖母様がお祖父様を好きになったのは、5歳の時だったそうよ。
お祖父様が、お祖母様の運命の人だったの。
おばあちゃまもね、10歳の時にお祖父様に会ったそうよ。
運命の人とはね、一緒にいるだけで幸せな気持ちになれるのよ」
「うんめいの人?」
「そう。いつ会うかわからないけれど、みんな、きっといつか会えるの。
そうすると、幸せになれるのよ。
いつか、マリーも運命の人に会えるわ」
「うんめいの人と会うと、幸せになれるの?
じゃあ、マリー、いい子にして待ってる」
マリーはいい子で待ってるのに、うんめいの人は、なかなか来てくれないの。
だから、お兄ちゃまに遊んでもらおうと思ってお部屋に行ったんだけど、先生って人がお部屋にいれてくれないの。
つまんなくて泣いてたら、おばあちゃまがお外につれてってくれた。
白いお花がいっぱい咲いてる畑で、マリーはちょうちょさんと遊んだの。
お花はきれいだし、ちょうちょさんはかわいいし、マリー、とっても楽しかった。
その後も、おばあちゃまは、ときどきマリーをお花畑につれていってくれたの。
ちょうちょさんはね、お花のみつをもらうかわりに、お花とお花を結婚させてくれるんだって。
そうすると、お花の子供の「実」っていうのができるんだって。
マリーが食べてるりんごも、お花の子供なんだって。
「お花は、うんめいの人には会わなくてもしあわせなの?」
っておばあちゃまに聞いたら、
「運命の人ってなあに?」
って言われちゃった。
おかしいなあ。
「おばあちゃまも、うんめいの人と結婚してしあわせになったんじゃないの?」
「あら、マリーったら、誰に聞いたのかしら?」
「お母さまが言ってたのよ」
「そうかあ…そうね、おばあちゃまの運命の人は、確かにおじいさまだわねえ。
…じゃあ、お花の運命の人、見に行ってみる?」
おばあちゃまが連れてきてくれたのは、屋根も壁もとうめいなお花畑だったの。
「この温室ではねえ、お花の運命の相手を探してるのよ」
「うんめいのあいて?」
「そう。お花は人じゃないから、運命の『人』じゃなくて『相手』。
お花はね、運命の相手に巡り会えると、すごい実ができるの。
でも、お花は自分では探せないから、おばあちゃまが探してあげるのよ」
「すごい実ってなぁに?」
「お花は、運命の相手と会えて幸せだと、おいしい幸せの実がなるのよ。
その幸せの実からは、新しい幸せの木が生えて、またお花が咲くの」
「しあわせだと、おいしい実がなるの?」
「そうよ。おばあちゃまは、幸せの実がなるようにお花のお手伝いをしてるの。
マリーもお手伝いしてみる?」
「うん!」
マリーはね、今は毎日、おばあちゃまと一緒にしあわせの実を作ってるの。
両手を使っても数えられないくらい、いっぱいいっぱいのお花の中から、うんめいのあいてを探すんだよ。
数の数え方は、この前おばあちゃまに教えてもらったけど、数えられないくらいいっぱいのお花なんだよ。
あとね、この前、たし算とひき算も教えてもらったんだよ。
さいしょはね、3たす2だったの。
マリーは、指を折って数えて、答えが5だってわかったんだよ。
おばあちゃまが、いっぱいほめてくれたの。
それでね、次は4たす2だったの。
これもね、両手を使ったら、6ってわかったんだよ。
でもね、その次はむずかしかったの。
8たす4だって。
指が足りないから、わからなかったの。
でもね、マリーはいっしょうけんめい考えたんだよ。
それでね、おばあちゃまに片手をかしてもらって、おばあちゃまの5本の指とマリーの3本の指で8を作ったら、12だってわかったの。
そしたらね、おばあちゃまは、すっごくおどろいて、マリーをいい子いい子しながら
「マリーはお利口さんねえ。
よく気がついたわねえ」
って、ほめてくれたの。
えっへん!
それでね、
「マリーはお利口さんだから、こんなやり方もわかるかもね」
って言って、もう1つのやりかたも教えてくれたの。
また、おばあちゃまの指を5本かりて、マリーの左手の指を3本折って8本にしたの。
「いーい? 8に、いくつ足したら10になるでしょう?」
立ってるのは…
「んと、2!」
「そうね。じゃあ、右手で4を数えて」
うん、4本折った。
「そしたら、右手の4本から2本を左手に移して、左手で10を作っちゃおうか」
右手の2本を立てて、左手を2本折って。
「それで、右手には、あと何本残ってるかな?」
えっと、右手で折ったまんまの指は…
「2!」
「そう。じゃあ、左手の10に右手の2を足したら?」
「12!」
「そう。よくわかったわね。マリーは、やっぱりお利口さんねえ」
そっか。まず10を作ればいいのね。
「それじゃあ、7足す4もわかるかしら?」
えっと、左手の指を2本折って、のこりは3本だから、右手の指を4本折ったところから3本立てて、1本だから…
「11!」
「すごい! もうやり方覚えちゃったね。
じゃあね、12から3引いたら?」
え? 3ひくの? 12は、10と2だから、右手の指を2本とも立てて、のこりは1,左手から1本立てて…
「9!」
「偉いわ! マリーは、本当にお利口さんね!」
おばあちゃまがマリーの頭をなでなでしてくれる。
とってもうれしい!
おばあちゃまに、いっぱい問題出してもらってるうちに、マリー、わかっちゃった。
1と9,2と8,3と7,4と6,5と5で、10になるの。
だから、指を折らなくてもわかるよ。
「8足す5は?」
8に2たすと10だから、5から2ひいて3、
「13!」
「え? マリー、今、5引く2だけ指を使ったわよね?」
「8と2をたすと10なのは、わかってるの!」
マリーが教えてあげたら、おばあちゃまは、すっごくすっごくうれしそうな顔になって、マリーをぎゅってして、すりすりしてくれたの。
胸がむずむずして、くすぐったくて、とっても気持ちいい。
「マリー、あなた、とってもすごいわ!
8と2が運命の相手だって、わかっちゃったのね!」
そうかぁ、うんめいのあいてだから、たすと10になるのね。
「マリーはね、今、世界のナイショを1つ見付けたのよ」
「せかいのナイショ?」
「そう。世界にはね、誰も知らないナイショがいっぱい隠れてるの。
お花の運命の相手も、ナイショの1つ。
おばあちゃまは、世界のどこかに隠れてるナイショを探してるのよ」
「マリーもナイショさがす!」
「そうね、マリーなら、きっといっぱいナイショを見付けられるわ。
世界のナイショはね、誰かに教えてもらうとナイショじゃなくなっちゃうの。
だから、自分で見付けなきゃいけないのよ」
「マリー、がんばる!」
「小っちゃなナイショは、あちこちに隠れてるからね。
おばあちゃまが、マリーに探し方のヒントを教えてあげるから、頑張って探してね」
「うん!」
マリーは、せかいのナイショをいっぱいみつけるの!
みつけると、胸がむずむずして、ふわってなって、とっても気持ちいいのよ。
遥彼方さまにいただきました(*^_^*)
今回の話は、前作「転生令嬢は修道院に行きたい(連載版)」最終話で触れているマリーの幼い頃のエピソードその1になります。
次回は、母親のドロシー視点です。
前作URL
http://ncode.syosetu.com/n7300dg/