『エンゲフリュスタ家の人々』 そのニ
ローテンシュヴァルツの中心ブラウシュタインへは、特急列車でニ時間半ほどかかる。さらにブラウシュタインから列車を乗り継いで揺られること一時間半、やっとショコラちゃんの実家があるリンデンバウムに到着した。
ブラウシュタインの駅はフレイヤくらいの規模だったけど、リンデンバウムに向かうにつれて駅舎がどんどん小さくなっていった。
リンデンバウムの駅前はそこそこ栄えていたけど、列車を乗り継いで少し駅から離れると、沿線の民家の隙間が目立ちようになり、山や農地の緑が視界の大部分を占める、長閑な風景に変わっていった。合宿の時といい、最近田舎にばっかり行ってるよね――なんて言葉は飲み込んでおこう。
「ショコラちゃんの家まであとどれくらいかかる?」
「この列車の終点まで行ってそこから箒で家まで行くから〜、あと一時間くらいかな〜?」
「結構かかるね。てか、箒必要なの? わたし持ってきてないんだけど」
「妹とトロイ君が箒で迎えに来てくれるから〜、心配しなくてもいいよ〜」
「そうなんだ、後でお礼言わなきゃね。……うー、緊張してきたなぁ」
「なんで〜?」
「よく考えてみたら友達の家に泊まりに行くのって初めてだから」
「じゃあ私がユリィちゃんの初めてを貰っちゃったんだね〜、うふふ〜」
「その言い方だと語弊があるような……まぁいいか。それよりさ、妹さんってどんな感じの子なの?」
「うちの妹――名前はヴァニレって言うんだけど〜、しっかりものなんだけど甘えたがりなんだよね〜」
「ふぅん、何歳なの?」
「今年で十一歳だよ〜」
「あれ、じゃあ来年から中学生?」
「そだね〜。いつの間にかヴァニレもそんな年になったんだね〜」
「ふふっ、そのセリフ、お年寄りみたいだね」
「ふぉっふぉっふぉ〜、飯はまだかの〜」
「おばぁちゃん、お昼ご飯はさっきいっぱい食べたでしょ」
「そうじゃったかのぉ?」
「サンドイッチと菓子パンとチョコとミルクティー、ぜーんぶここに入ってるでしょ、忘れたとは言わせないよ」
「ちょっと〜、やめてよ〜」
私たちの声以外は列車の走行音しか聞こえないような閑散とした車内できゃっきゃしているうちに、終点の駅に到着した。終点まで乗っていたのはわたし達だけだった。
駅舎はだいぶ、というかかなりこぢんまりしていた。合宿の時に降りた駅よりも小さいかもしれない。
「お姉ちゃん!」
改札をくぐり抜けるやいなや、甲高い声とともにわたしより小さい女の子が駆け寄ってきた。癖のある長い赤毛は、ショコラちゃんとそっくりだ。
「わ〜、ヴァニレ久しぶり〜」
ショコラちゃんは腕を広げて待ち構え、胸に飛び込んできたヴァニレちゃんを抱擁した。顔が胸に殆ど埋まっているけど、息は苦しくないのだろうか。
ヴァニレちゃんは胸の中で近況報告をまくし立て、ショコラちゃんはうんうんとそれに相槌を打つ。わたしの入る余地なんてありゃしない。
「遠路はるばるようこそおいでくださいました、ユリナルカさん」
姉妹の再開シーンの一歩後ろで微妙に居心地悪くしているわたしのもとに、垂れ耳で茶髪の犬型亜人が柔和な笑顔で歩み寄ってきた。彼がトロイ君なのだろう。
「はい、これからお世話になります」
「そんなにかしこまらなくてもいいですよ。ほら、ヴァニレ、ユリナルカさんに挨拶は?」
ショコラちゃんの胸の中にいるヴァニレちゃんは、わたしをじいっと見て、さっきまでの元気はどこへやら、蚊の鳴くような声で挨拶した。彼女の翡翠色の瞳には、私に対する警戒の色がにじみ出ていた。
「ヴァニレ〜、ちゃんと挨拶しなよ〜」
「……したもん」
ヴァニレちゃんはふてくされた様子だった。彼女にわたしは歓迎されていないみたいだ。
「すみませんユリナルカさん、ヴァニレはちょっと人見知りなのもので」
「あ、いえ、大丈夫ですよ、あはは……」
「ともかく、二人とも今日は長旅で疲れたでしょう。……といっても家まで少し距離がありますので、もうひと踏ん張りしてもらうことになりますがね」




