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『エンゲフリュスタ家の人々』 その一

 合宿から帰ってきて数日後のこと。二人でのんべんだらりとしている最中、ふとショコラちゃんが、実家に帰省しなきゃいけない、とこぼした。


「さすがに長期休暇くらいは実家に帰らないと〜。妹も寂しがってるし〜」


 実家暮らしのわたしには実家に帰る、という概念がいまいちピンと来ない。


「そうだ〜。もしよかったらユリィちゃんも来る〜?」

「え? ショコラちゃんの家に? でも、迷惑じゃないかな」

「全然迷惑じゃないよ〜、家族みんな歓迎してくれるよ~」

「そうかな……何日くらいの予定なの?」

「うんとね~、二週間くらいは向こうに居ようかと思うんだけど~」

「結構長いね」

「長期休暇だし~」

「失礼します、そろそろお昼ごはんの時間ですよ」


 お玉を持ったシュリちゃんが部屋に入ってきた。のんべんだらりとしているうちに、お昼になっていたようだ。


「あ〜、シュリさん、ちょっとご相談があるんです~」

「なんでしょうか」

「私、そろそろ実家に帰ろうと思うんですけど~、ユリィちゃんもつれてっていいですか~?」


 シュリちゃんがじろりとこっちを見た。何となく彼女の言わんとしていることが雰囲気で伝わってくる。


「連れ出す分には全然構いませんよ。ただし、夏休みの課題をちゃんとやらせるなら、ですけどね」

「それはもちろん、ね〜?」

「……うん」

「たぶん二つ返事で許可はくれるかと思いますが、一応マリィとお父さんにも一声かけてくださいね。あとそれから……」


 シュリちゃんが何か言いかけて口を閉じ、もごもごしてから、また口を開いた。


「トロイによろしくお伝えください」

「トロイ君にですか~? 分かりました~」

「トロイ? 誰?」

「私のお母さんの“弟子”だよ~」


 ショコラちゃんのお母さんの“弟子”、そういえばけっこう前にシュリちゃんと彼について話をしたことがあるような気がする。あの時はどういう話をしていたんだっけ。


「ささ、お昼ご飯が冷めてしまいますよ。早く下に降りてきてください」


 シュリちゃんはそそくさと部屋から出ていった。去り際、ちらりと見えた彼女の頬は少しだけ赤らんでいた。


 お昼ご飯を食べた後、作業場に居るお母さんにショコラちゃんの家に行くことを伝えた。シュリちゃんの言ったとおり、お母さんは二つ返事で了承してくれた。


「そうだ、あっちに行くならついでに、ショコラちゃんのお母さんに渡してほしいものがあるんだけど……えーっと、どこにやったかな」


 ごちゃごちゃとした混沌の極みの作業台が、お母さんの手でさらに撹拌されていく。作業台に捜し物はなかったのか、お母さんは背後の本やら紙やらがうず高く積まれたエリアに手を突っ込んでかき回す。そこにもなかったようで、今度は錬金術に使う大小の素材が散乱している机の上をひっくり返しはじめた。


「あったあった。これ、よろしくね」


 お母さんから手渡されたのは、いたって普通の便箋だった。なんだかよくわからない茶色いシミがついているのを除いては、だけど。


「うえ、このシミなに?」

「大丈夫、有害なものじゃないから。錬金術師の手紙なんて作業の合間に書くもんだから、ちょっとくらい薬液のシミがついてたって誰も気にしないよ」

「えぇ……てか、手紙なんて私じゃなくて郵便局に持ってけばいいじゃん」

「細かい事は気にしない! お父さんには私から言っておくからね」

「わかったよ。じゃ、仕事頑張ってね」


 作業場から出たところで、レジ前で怠そうにして本を読んでいたクラーラさんと目が合った。


「ショコラちゃんの実家に行くんだってね……楽しんできなよ……」

「うん。しばらく手伝いできないけど、よろしくね」

「大丈夫だよ、シュリが頑張るから……」

「何を言っているのですか! あなたも頑張るのですよ!」


 せっせと品出し作業をしていたシュリちゃんが不服そうに声を上げる。


「はいはい……お土産、よろしくね……」

「お土産かぁ、なんでもいい?」

「できれば甘いやつでよろしく……」

「りょーかい」


 そういえば、レイ君にはショコラちゃんの帰省についていくことを言ったほうがいいだろうか。……まぁ、彼が顔を出した時に誰か伝えてくれるだろう。わざわざいうほどでもないか。

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