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『合宿』 その十


 そういうわけでわたしは今、桃源郷の只中にいる。右を見ればシャリーさんの特盛おっぱい。左を見ればメグちゃんのムダのない肢体。昨日のお風呂の時はタオルを巻いていたために隠れていた胴体もあらわになって、より一層肌色面積が多くなっている。

 水着というのは不思議なものだ。布面積は下着と同然なのに、なぜか「水着だから」と思うと羞恥がかなり薄まるのだから。あのショコラちゃんですら、いつもは絶対に見せてくれない、ふにっとしてそうなお腹をさらけ出しているのだ。どさくさにまぎれてふにふにしてやりたい衝動が湧き起こる。

 

「やっぱお風呂だと浅くて泳ぎを教えるのにはイマイチだよねぇ」


 獅子の頭上で足をぶらぶらさせながら、この場で唯一お風呂の時より肌色面積が少なくなったアンさんが言った。彼女はボーダー柄の囚人服みたいな水着だった。みんな普通にオシャレな水着を買っていたのに、一人だけネタに走った結果だ。

 いざお風呂で泳ぎの特訓をしようとしたものの、やっぱりお風呂はお風呂なので水深が浅く、教わる側も教える側もなにかと不都合があった。さてどうするかと悩み、とりあえずみんなでお風呂の縁に座って足だけ浸けてるのが現状だ。


「仕方ないですわ。また日を改めてプールなりなんなり行けばいいのですわ」

「まーそれもそうか」

「プールなんてフレイヤにあるんですか〜?」

「わたくしの家の近所に屋内プールがありますわ。会員制で、来るのはお金持ちの方ばかりですけど」

「そういうプールだと泳いだりはしゃいだりするのは気が引けますね。私の知ってるプールはジムに併設されてるんですけど、ガチ勢ばかりであそこもちょっとなぁ」

「あたし達の需要にマッチしたプールはないもんかね……あっ、そうだ!! ユリィのお母さんが錬金術でバーンとプール創ればいいんだよ!!」

「錬金術をなんだと思ってるんですか……無理です」

「お母さんに聞いてみなきゃわかんないだろー!! ユリィ、ケータイで通話かけて今すぐ聞いてよ!!」

「お母さんは仕事中です。そんなくだらないことでいちいち通話してたらシュリちゃんに怒られちゃいます」

「お母さんに怒られるんじゃないんだな」

「うちはお母さんもお父さんも甘々だから、シュリちゃんが代わりに厳しくしてくるんだよね……」

「ふーん。……あーあ、せっかく水着買ったのに、これじゃあ着る場所ないじゃーん」


 みんな唸って黙り込んでしまった。わたしとしては正直泳ぐ練習なんかしたくないから、ちょうどいいプールなんてなければないで万々歳なんだけど。


「あ、あの、皆さん、が、学校のプールなら、夏休み中で水泳部の活動時間外だったら、い、一般生徒にも開放されていますけど」


 無理矢理買わされたパレオ付きの水着が板に付いているモニカ先生が口を開いた。彼女は着痩せするタイプだったらしく、割とボインちゃんだった。


「マジ? 初耳なんだけど」

「あ、あんまり人が来られても監視が大変なので、大々的には宣伝しないらしいんです、だ、だから、割と知らない生徒が多いんですよね」

「学校のプールだったら手軽で気兼ねなく使えるから申し分ないよね〜」

「他の生徒の目――特に男子の目がちょっと気になりますけど、ユリィちゃんのためなら、このシャルロッテ、面識のない殿方に肌を見られるのもやぶさかではありませんわ」

「そんな大仰な。でも、シャリーさんが水着で居たら確かに大騒ぎになりそうですね」

「水泳の授業なんて男女別だから、男子はシャリーの水着姿なんてまずお目にかかれないからねー。一瞬で噂が広まってプールサイドに人だかりができそうだよ。ま、そんときの人払いはあたしとモニカちゃんに任せな!! ふしだらな欲塗れの猿共を片っ端からちぎっては投げして追い払ってやんよ!!」

「えぇ、わ、私もちぎっては投げしないといけないんですか?」

「顧問だもん、当然だよ!!」

「はうぅ、で、できるかな……」

「……ちぎっては投げはともかく、あんまり人が来ると練習にも支障が出る。なるべく人が居ない時間帯を狙ってプールに入ったほうがいいかもしれんな」

「あの、なんかプールで泳ぐ練習する前提で話進んでるような……わたし、あんまり気乗りしないんですけど」

「何故ですの? せっかくこんなに可愛い水着を買ったのに、ここで足湯するだけじゃ勿体無いですわよ。うふふ」


 つつ、とシャリーさんの人差し指が水着の布越しにわたしの脇腹を撫でた。わたしは水着なんて何でも良かったから、シャリーさんが選んだワンピースタイプの水着を着ている。おそらく彼女はこれをしたいがためにこの水着を買ってくれたのだろう。さっきからちょくちょくわたしの脇腹を指でなぞってはキマった顔をしているのだから、間違いない。


「うひっ……泳げなくても別に困らないですし」

「乗ってる船が沈んだらどーすんのさ」

「そもそも船に乗らないです」

「子供が水路で溺れてたらどーすんの」

「泳げる人に代わりに助けてもらいます」

「泳げないと水泳の授業の評点悪くなるよ!! 放課後に水泳部から微笑ましい目で見られながら居残り練習する羽目になるんだよ!!」

「うっ、そ、それは……くぅっ……それは、嫌です」

「でしょ!! だから泳ぐ練習は大事なの!!」

「そうそう、何事も練習は大事だよ〜、私は泳ぐの得意だからユリィちゃんに頑張って泳ぎ方教えちゃうよ〜、一緒に頑張ろうね〜」

「はぁ……練習って例えば何するの?」

「はじめは私の腕に掴まってバタ足するところからかな〜」


 手を掴んでバタ足……その光景を想起した瞬間、ビビっときた。練習中なら、偶然を装って合法的にショコラちゃんのほぼ生おっぱいや生お腹に顔を埋められるのでは? おいおい、わたしは天才か? 


「まぁ、どうせ泳げなきゃ授業乗り越えられないからね、頑張ってみるよ」


 興奮に上ずりそうになる声を抑えて、つとめて自然な感じで言う。


「やっとやる気になったか、私も微力ながら教えてやるから頑張ろうな」


 普段絶対に触れることができないメグちゃんのあんなところやこんなところにもタッチできる機会だ。利用しない手はないだろう。


「うん、頑張るよ」


 わたしは下心がバレないようにつとめて爽やかに答えた。 

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