『合宿』 その七
「折角の合宿ですもの、個別のシャワールームではなくてみんなでお風呂に入りましょう」
夕食後シャリーさんの提案があり、みんなで大浴場にやってきた。
「ひょー!! 貸し切りだー!!」
白亜の大浴場をアンさんが生まれたままの姿で駆ける。そう、この別荘の大浴場は駆けられるだけの広さがあるのだ。
「すっごく広いよ~」
「ここに比べたらうちのお風呂なんて小鳥の水浴び場みたいなもんだね」
浴槽はわたし達六人がくつろぐどころか、少しばかり泳いだって全く問題ないくらいに広い。その傍らに鎮座するいかつく吠える獅子の彫像は、口から絶え間なくお湯をげろげろと吐き出している。アンさんはその上に跨って、突撃の号令みたいなことをしてはしゃいでいる。もちろん全裸で。同性しかおらず、湯気と謎の光で肝心な所は隠れているといえ、よくもまぁ人前で恥じらいなく裸をおっぴろげられるものだ。わたしにはとても真似出来ない。
それにしても、彼女の胸は二次性徴が訪れていないのかと思えるほど質素だった。下手したら、わたしより小さいのではなかろうか。身近に年上の質素仲間がいると思うと、わたしの質素の下に隠れた小さな心は少しだけ満たされた。
大浴場とはいえ流石にシャワーはパーテーションで区切られ、カーテンを締めてしまえば中が見えないようになっていた。小瓶に入ったシャンプーやボディーソープは、きっとこれだけの量でわたしが普段使っているものより値が張るに違いない。中身を手に取ってみるとそこはかとなく高級な香りがするから間違いない。
わたしが浴槽に一番のりかと思ったら、獅子の口元で滝行ごっこしているアンさんと隅っこでぼーっとしているモニカ先生が居た。アンさんに絡まれたくないので、モニカ先生の近くに行く。お湯は少し熱かった。長く入ってるとのぼせてしまうかもしれない。
先生は眼鏡を外しているからか、いまいち目の焦点が定まっていない。会釈をするといきなり眉間に深いシワを寄せて、悪魔のような形相でこっちを睨んできた。
「はうっ! す、すみません!」
「あ、アルケイナムさんですか。ら、裸眼でこの湯気だと人の顔がほとんど判別できないもので、眉間にシワが寄っちゃいました。お、怒ってるわけじゃないですよ」
「あぁ、そうなんですか……怖かった……」
「ううっ、や、やっぱり、眼鏡かけてたほうがいいですね。と、取ってきます」
浴槽から出てまるで真っ暗闇の中に居るみたいな危なっかしい足取りで、モニカ先生は脱衣所へ向かった。目が悪いって大変だ。わたしも決して目に優しいとは言い難い生活習慣だから、そのうち他人事ではなくなるかもしれない。
モニカ先生が脱衣所の扉に手を掛けたのを見て一安心したところで、メグちゃんがやってきた。
「はわぁ……極楽とはまさにこのことか。なぁ、ユリィ」
「……まさしくその通りだねぇ」
今まで聞いたことの無いふにゃっとした声と、いつもの仏頂面からかけ離れたとろけ顔。なんだこのかわいい生き物は。でも、指摘するとメグちゃんは恥ずかしがって顔を隠してしまうだろうから、やめておこう。
「お隣よろしいかしら、ユリィちゃん」
「お邪魔しま〜す」
結わえた髪でできたお団子を頭にのせたショコラちゃんとシャリーさんが、ほぼ同時に現れた。ロングヘアだとお風呂に浸かる時いちいち結わえなきゃいけないから大変だ。適当に一つ結びするだけで済むわたしは、そこのところ楽だ。
「まだ一日目だというのに、疲れましたわねぇ」
「ですね〜。今日はぐっすり眠れそうです〜」
のんびりと雑談する二人の目の前にはお尻が二つ浮いている。いや、お尻に見えるくらい、二人の胸が大きいのだ。こうしてほぼ生の状態で見るのは初めてだけど、その量感の圧倒的なこと。どっちかというと、シャリーさんのほうが若干大きいだろうか。持てる者二人の成分がお湯に染み出して、持たざる者であるわたしの成長を促進……してくれたらなぁ。
「なんでみんなバスタオル巻いてんの?」
獅子の吐くお湯で滝行ごっこするのに飽きたらしいアンさんが、平泳ぎでこっちに来た。全く髪を結っていないから、彼女の背後でその長髪が水の動きに合わせて波打っている。
「逆に聞きますけど、アンはどうしてバスタオルを巻いてないんですの」
「バスタオル巻いてると動きにくいじゃん!! それに、同性しかいないんだから隠す必要性を感じない!!」
ざばあっ、と勢いよく立ち上がってアンさんはふんぞり返った。湯気や謎の光が大活躍だ。それらはまるで意思を持っているかのように、大事な所を隠している。
「同性同士でもマナーというものがありますわよ。そして、髪を結い上げるのもマナーですわ。ほら、一旦上がりなさい、わたくしが結ってさしあげますわ」
「えー、結ってくれるなら最初から言ってよー」
「普通は自分でやるものですわよ」
二人は一旦浴槽から出てシャワーブースへと向かった。シャリーさんのバスタオルがぴったりとくっついてシルエットがあらわになった豊かなお尻、上気した薄桃色のむっちりした太もも。実に良いものだ。
「なんだかんだ言いながら、シャリーさんってアンさんのお世話してるよね」
「そうだね〜。全然似てないけど姉妹みたいだよね〜」
「あの二人は幼馴染だからな。昔からあんな感じだったんだろう」
「えっ、そうなの? 初耳だよ。メグちゃんなんで知ってるの?」
「私は中学の時シャリー先輩と共に生徒会に所属していたからな。そこでアン先輩の話はよく聞いていた」
「へぇ、そうだったんだ」
「しかし、高校で件のアン先輩に出会うとは思ってもみなかったな。話で聞いたよりも、五割増しくらいで奇矯な人だよ……って、あれ、大丈夫なのか」
メグちゃんの視線の先では、眼鏡を真っ白に曇らせたモニカ先生が手を突き出してよちよちと歩いていた。
「ちょっと行ってくる」
心優しき第一発見者のメグちゃんが介助に向かった。わたしはただ、その後ろ姿を見送った。バスタオル越しの小ぶりで引き締まったお尻、美しい生脚の流線。眼福だ。
「うふふ〜、やっぱり誰かとお風呂に入るのはいいね〜」
「えっ、ショコラちゃんもこの良さがわかるの?」
「ん〜? 私、実家にいる時は毎日妹とお風呂に入ってたから、よ〜くわかるよ〜」
なんということか。同性という立場を利用して女子の身体を堪能して愉悦に浸る、こんな業の深い趣味を彼女が隠していたとは。しかも実妹を相手に毎日ということは、日々の微かな成長を余す事なく目に焼き付けてきたということだろう。わたしなんて足元にも及ばぬ上級者だったようだ。今日までそんな素振りを毛ほども見せなかった彼女が、このめくるめく湯けむり美少女万華鏡を目の当たりにして、ついに本性を表したのか。
……うん、ないな。おおかた、みんなでお風呂に入って賑やかなのがいい、と言っているのだろう。妹さんとお風呂で団欒する微笑ましい実家時代を思い出したのだろう。彼女の性格的に絶対こっちだ。
けれどわたしは、先だっての眼福とお湯の熱さで頭に血がのぼって気分が高揚している。このテンションに身を委ね、ふわふわボディ鑑賞会を執り行うのだ。あわよくばいつも触らせてくれないお腹を撫で回してやるのだ。
「そっかー、妹ちゃんとお風呂かー。じー……」
「そうそう〜、って、どこ見てるの〜!」
「うぇっへっへっへ、いい肌してるねー。減るもんじゃなしもっとじっくり見せておくれよー」
「ちょっと〜、やめてよ〜」
あぁ、桃のようなおっぱいが腕で隠されてしまった。でもこれはこれで扇情的ですてき。
「ユリィちゃん!」
背後で誰かが勢いよく湯船に入ってきた。声と首元に押し付けられたもにょんとした熱い塊でシャリーさんだということが解る。お腹に手を回され、がっちりホールドされてしまった。
「どうしてわたくしにはそういう積極的なアタックをしかけてくれないんですの! わたくしはいつでも貴女を受け入れる準備は万端だといいますのに!」
「その、シャリーさんはこうして勝手にくっついてきてくれるから、わざわざわたしから行く必要性がないというか……」
「なるほど、つまりユリィちゃんはわたくしの事を受け入れてくださるのですわね!」
「別にそういうわけじゃ、うひっ、どこ触ってるんですか! あひいっ」
バスタオル越しにお腹を撫で回され、へその周囲を指でくるくるとなぞったりへその穴に指を軽く入れたり出したりしてくる。なんていやらしすぎる手つきか。
「ショコラちゃん、はぁはぁ、わたくしがユリィちゃんを押さえますから、ふんすふんす、今の内にお逃げなさい! はぁはぁ」
「わ、わかりました〜」
渡りに舟とばかりにショコラちゃんが逃げ出す。ふんふんはぁはぁと息を荒くしたシャリーさんは、お腹だけでなく内ももにまで侵略してきた。この人、ショコラちゃんを救うという大義名分に託けてわたしをなぐさみものにする気だ。
「ひえっ、そこはほんとにダメですよ! 不健全です! 検閲に引っかかります! だ、誰か助けて!」
「ショコラ、サウナ行かないか?」
「うん、行く行く〜」
「あたしも行くー!! モニカちゃん、どっちがずっと入ってられるか勝負しよ!!」
「あう、ひ、引っ張らないでくださいー」
助けを乞うもむなしく、みんなサウナに行ってしまった。サウナの扉の閉まる音が無情にも浴場内にこだまする。
「わたしも行く! ちょっとみんな、置いてかないでよー!」
「うふふふふ、ふふふ、ふ、二人っきりになっちゃいましたわね。恨むなら、わたくしのリビドーを喚起させる自らの愛くるしさを恨んでくださいな。もしゃもしゃ。おほーっ! 美味ですわ!」
牛が草を食むみたいにわたしのポニーテールがもしゃられている!
「そんな、暴論にもほどがありますよ! 離してくださいっ! あと、髪をもしゃるのやめてください!」
「大丈夫、全てコトが終わったあとわたくしがおぐしを丹念に洗って差し上げますわ」
「コトって、なにをする気なんですかぁ」
「怯えなくていいですわよ。こんなこともあろうかとイメトレはばっちりですの。怖がらないで、わたくしにすべてを委ねてくださいまし……うふふふふふっ」
「ヒイッ……いーやー! あっ、あっ、ああぁぁっ?!」
今思い出すだけでも、恐ろしいほどのまさぐりテクニックだった。けれど、本当にダメな所は避けてくれたあたり、彼女にはまだ人の心が残っていたのかもしれない。




