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『合宿』 その一

 

 ☆


「へー、錬金術部にも合宿なんてあるんだな」

「合宿って言ってもねぇ。ただ夏休みの課題やって遊ぶだけのお泊り会みたいな感じだよ」

「最高かよ。僕達の合宿なんて、三泊四日で練習漬けなんだぞ」

「運動部と比べられてもね」


 あれ以来、レイ君がお店に来た時は普通に店先で世間話をしたり、部屋でお喋りをするようになった。ちなみに今は、部屋でお菓子を食べながら夏休みの過ごし方について駄弁っていたところだ。

 さすがに子供の頃のように毎日遊んだりはしないけど、今のわたし達には、これくらいの距離感で十分だと思う。

 ただ、ちょっと気がかりなことが一つ。


「ショコラちゃん? ちょっと、そんな見られると、なんか居心地悪いんだけど……」

「大丈夫だよ〜、続けて〜」

「ショコラさん? 何が大丈夫なんだい?」

「いえいえ〜、私にお構いなく、お二人はごゆるりとご歓談を〜」


 どうにもショコラちゃんは、わたしとレイ君の幼馴染的な関係性を眺めるのが気に入ってしまったようで。三人で普通に会話していても、ふとした拍子に夢みる少女の視線をわたし達に向けてきて、そのまま妄想世界へトリップしてしまうのだ。こうなってしまうと、彼女はなかなか現実に帰って来ない。しょうがないので、ショコラちゃん抜きでお喋りを再開する。


「レイ君達はいつ合宿なの?」

「僕達は来週から。はぁ、今からドキドキだよ」

「来週からかぁ、頑張ってね」

「おう。ユリィ達はいつからなんだ?」

「明日だよ」

「え? 明日?」

「うん、明日」

「準備とかしないくていいのか?」

「合宿っていっても旅行みたいなもんだし、今夜やればいいかなって」

「はー、気楽でいいな。何も考えなくていいなんて」


 ちょっとカチンときてしまった。何も考えていない訳じゃないのに。旅行みたいなわたし達の合宿にだって、懸念材料くらいある。

 

「いやいや、四日間、四六時中ずっとアンさんに振り回されるんだよ? そこをまず念頭に置いてよね」

「お、おう」

「それでいて、合宿で何をするか当日まで秘密なんだよ?! 振り回されることは確定しているのに、どんな内容で振り回されるかわからない恐怖! わたしはそれに震えながら、アンさんの考えの傾向から何をするか予測して必死に対策練ってるんだからね!」


 ちょっと話を盛り過ぎた。ほんとは、どうなるんだろうなー、って頭の片隅で心配してるくらいで、そこまで深く考えていない。

 

「あー、お前達もお前達で大変なんだな……なんかごめんな、気楽とか言って」


 あぁ、謝らないで。口から出まかせの話を真に受けないで。


「ま、まぁ、分かればいいよ、分かれば」

「ユリィちゃん、合宿のことそんなに真剣に考えてたんだね〜。私は何も考えてなかったよ〜」


 トリップタイムが終わったのか、ショコラちゃんが急に話に入ってきた。あごに手を当て真面目な表情だ。ちょっと、ややこしいことになりそうな予感がする。


「ユリィちゃんだけに不安な思いはさせられないよ〜! 私も一緒にアンさん対策練る〜!」


 あぁ、やっぱり。

 でも、よくよく考えてみてほしい。アンさんはその圧倒的行動力を以てして、常にわたし達の予想を凌駕して振り回してくる。彼女の行動力はもはや自然現象と同義。我々人間はその偉大なる力の前に無力だ。

 頭の弱いわたしとのほほん娘ショコラちゃんの二人が、頭をくっつけて対策をひり出したとて、ひとえに風の前の塵に同じではなかろうか。絶対そうだ。


「ユリィ、僕も対策練るの手伝うよ」


 まさかのレイ君の参戦である。『三人寄ればイェナの知恵の辞典を借りるも同じ』とはよく言うけれど、こんなしょーもないやる意義の無い対策会議のために、神様の知恵の辞典まで借りる必要性は皆無だ。


「わ〜、レイさんありがとうございます〜」

「任せてくれ、あいつとは一年間クラス一緒だったから、そこそこ役に立てるはずだよ」

「頼もしいです〜」


 いやー、実際、対策なんて練ってもしょうがないよ。当日になれば意外となんとかなるっしょ? それよりプリン食べようよ。……なんて、今更手の平を返すわけにもいかない。

 身から出た錆だ。言いだしっぺのわたしは、逃れられない。

 それが例えどんなに意味の無い議論であろうとも、友情を何よりも重んじるわたしは、みんなに合わせて議論するしかない。


「よし、じゃあ、早速考えるか、ユリィ!」

「アッ、ハイ。フタリトモガンバローネー」

「お〜!」


 そして、アンさん対策会議は開催された。わたしはなるべく、怪しまれない程度にさり気なく『やっぱり対策練るの無理じゃない?』という感じの論調を展開した。

 そうして導き出された答えは――

 一、遠巻きにしてなるべく関わらない。

 ニ、巻きこまれたら不運だったと割り切って身を委ねる。

 以上。


 あの突拍子も無いアンさんのありとあらゆる行動パターンを想定するなんて、土台無理な話なのだ。わたしのささやき戦術が功を奏したのか、二人はその事実に早く気づいてくれた。おかげで、すぐに話がまとまった。


「やっぱ考えるだけ無駄だよな。あいつは自然現象かなんかだと思うしかないよな」

「ですね〜。ユリィちゃん、気楽にいこうよ〜」

「そうだねー、あははー。出たとこ勝負って感じで、明日から四日間乗り切ろうかー」


 さて、明日からの四日間は本当にどうなるか解らない。けれど、どんな内容であれ、今までこういう青春的イベントを経験したことが無いわたしにとって、新鮮な体験になるのは間違いないだろう。

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