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『テスト』


 ☆


 今日を合わせると、学期末の試験まで、ちょうど残り一週間だ。殆どの部活が休みになる中、それでもわたし達錬金術部は活動をしている。

 でも、いつもみたいにちゃらんぽらんな活動をしているわけでない。わたし達は、『勉強会』という名目で部室に集まっている。しかもこれが、思いの外真面目なのだ。


 円卓を部室の片隅に追いやり、代わりに机を円形に並べ、みんなの学習スペースをしっかりと確保。さらには、『一つ、勉強に関する会話とそれに伴うある程度の私語以外喋るの禁止。二つ、気分転換やトイレ(五分以内に済ますこと)、教え合う目的以外で席を立つ事も禁止』という、自由奔放を地で行く我が部活において厳しすぎるルールまである。


 いつも賑やかな部室だけど、今日はとても静かだ。みんなちゃんと、ルールを守っている。かりかりと紙に鉛筆を走らせる音と、たまに誰かが本をめくる音だけが響く。

 何より驚くべきなのは、あのアンさんまで、小難しい顔をして教科書とにらめっこしているのだ。普段から勉強嫌いなことを公言している彼女なら平気でサボりそうなのに。


(ユリィちゃん、ここ、わかんないんだけど〜)

 ショコラちゃんが問題集と一緒に身体を近づけて来た。

(ん? ……『あの出来事』が、何を指しているか、ね。ふむふむ……ここに書いてあるけど、この人は『あの出来事』を『恐ろしい』って、思ってるんだよね。つまり?)

(……なるほど〜。そういうことなんだ〜。教えてくれてありがと〜)

(どういたしまして)


 こういうふうに、自力じゃわからないところはお互いにヒントを出し合って、解決する。偶然にも、わたし達一年生三人組は得意科目がみんな違うから、教え合うことができる。素晴らしい連係プレーだ。


(メグちゃんここ教えて)

(最期は宴の途中配下に刺されて死んだ奴だ。『天地人は全て余の為にある』とかいう横暴な言葉で有名な)

(あぁ、『ナイトハルト一世』かぁ。ありがとう)

(前教えたとこだろ)

(ごめん忘れてた)

(はぁ……次は忘れるなよ)

(はーい)


 さて、わたし達はこれでいいとして、先輩二人はどうしているかというと。

 アンさんは問題集を一切開かず、ずうっと教科書を穴が空きそうなくらい凝視している。シャリーさんは黙々と、ほとんど詰まることなく問題集のページを捲っている。二人は教え合いなんて一切していない。


 シャリーさんは、わたしに関すること以外は真面目だし、成績優秀らしいから一人でも大丈夫なのだろう。

 問題はアンさんだ。彼女のクラスでの実態は、シャリーさんから聞いている。授業中に隠れて遊ぶのは当たり前、居眠りの常習犯で、トイレに行って授業が終わるまで帰ってこない時すらある、不真面目の権化だと。そんな彼女が、ただ教科書を小難しい顔で読んでいるだけで、本当に理解できているのだろうか。


 ――なんて、わたしは他人の心配をしていられるほど優秀な人間ではない。教科書の文言や問題文が、けっこうな頻度で難解な呪文のように感じてしまうのだ。このままの調子だと、補習になってしまう可能性だってある。

 とにかく、目の前に迫ってきている『テスト』をいかにして乗り切るか。この一週間はそれだけを念頭において、やるしかない。


(メグちゃん、ここなんだけど)

(そこは……って、昨日習ったとこだろ……はぁ……)


 こんな感じで一週間はあっという間に過ぎ去って、いよいよ、テスト本番を迎えることになった。

 テストのことはあまり思い出したくないので割愛しよう。

 テストの結果が出揃うと、学校中が悲喜こもごもに満たされる。そんな中、玄関ホールの掲示板には、人だかりができていた。各学年の成績優秀者上位三十名の名前が貼り出されているのだ。


「ミーナすごいじゃん、学年八位とか!」

「いやぁ、マグレだよマグレ。部活も忙しかったし、勉強会も参加しなかったしさ。ほんと、全然勉強できなかったんだよ?」

「マグレで八位とれるわけないじゃん! めっちゃ勉強してんのに三十位以内にも入れない私に謝れー!」

「あははっ、ごめんごめん」

「むー、気持ちがこもってない!」

「はいはい。すみませんでしたー。ほら、後ろがつかえてるから行くよ」

「ぶー! アイスおごれー!」

「なんでそうなるかなぁ……」


 掲示板の前でいちゃついていた女生徒二人が去って行った。どこの誰かは知らないけど、仲睦まじいことだ。

 人だかりの後ろに並び、機会をうかがうこと数分、やっと人がはけてきたところに滑り込み、掲示板と相対する。


「どれ……おぉ、ショコラは学年で十四位か。すごいじゃないか」

「え〜、たまたまだよ〜」


 どうしてこう、成績上位者はたまたまとかマグレとか言うのだ。偶然でこのランキング内に入れるのなら、解らない選択式問題は数字を書いた鉛筆を転がして回答を求めたわたしだって、入れるはずではないのか。

 当然のごとく、一年生のランキング内にわたしの名前は載っていなかった。別に悲しくはない。予期できたことだから。むしろ、ヘタに名前が晒されなくてホッとしてるくらいだ。


「ねぇ、見て見て〜、シャリーさん学年三位だって〜」

「おぉ、流石だな。……ん? 私の見間違いか? 十五位の所に『アンネ・オイレンシュピーゲル』と書いてあるんだが」

「見間違いじゃないよっ!!」


 どこから来たのか、わたしとメグちゃんの間からにゆっとアンさんの顔が飛び出した。


「うわっ! びっくりした!」

「アン先輩?!」

「あんな勉強法でよくもまぁ、毎回成績優秀者になれますわねぇ」


 シャリーさんもいつの間にか背後に立っていて、わたしの肩に手を置く。頭にやわこくて重たい何かが乗っかる。


「最低限の努力で結果さえ出せれば、それでいいじゃん。あたし、めんどくさいの嫌いだもーん」

「アンさん凄いですね〜。教科書読むだけでテスト対策できるなんて〜」

「たまにいるよな、無駄に要領がいい人間って」

「無駄とはなんだ無駄とはー!! 無駄が無いからこそこうして結果出してるんだよーん。メグのほうこそ、『無駄』が多いから三十位以内にも入れないんじゃないのー?」

「ぐぬぬ……くそっ、何も言い返せない……」

「アン、いたずらに人を挑発するのはおやめなさい。ささ、後がつかえてますわ。みんな、部室に行きますわよ」


 確かに、わたし達の背後には結構な人だかりができている。ここは、さっさと退散したほうが良さそうだ。


「……錬金術部……な?」

「シャリーさん……」


 退散する折、男子のひそひそ話す声が聞こえた。おおかた、わたしの頭の上に乗っかりっぱなしのおっぱいの話でもしているのだろう。男子はみんなおっぱいが好きなのだ。

 ちくしょう。学力もおっぱいも無いわたしは、どうすりゃいいのだ。神様は不公平だ。

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