『お菓子パーティー』 その六
水を飲んで落ち着いたショコラちゃんに訊ねたところ、わたしに抱きついてきた辺りから記憶が不鮮明なのだそうだ。抱きついたことを、夢の中の出来事だとすら思っていた。記憶に無い部分の顛末を教えてあげると、赤面してブランケットを被ってしまった。しばらくブランケットの中で身悶えた後、毛布からおそるおそる目だけを出した。その目にはうるうると涙をにじませていた。
「はぅ〜……覚えてないよ〜……ユリィちゃんごめんなさい〜」
「あはは、別に謝らなくていいよ。悪いのはお酒なんだから」
「そうですわ、気に病むことはありませんわ。これからお酒に注意すればいいのですわ」
シャリーさんはショコラちゃんの頭を優しく撫でた。
「……んーとね、ごめん、ショコラ。これからはお酒とか入ったお菓子は持ってこないからね。あと、ショコラはかなりお酒に弱いみたいだから、気をつけてね」
後ろ手を組んでばつが悪そうにしているけど、自分の否は認め、ちゃんと謝って相手を気遣う。こういうところがあるから、アンさんは憎めないのだ。
「はい〜。これから気をつけます〜」
「……あ、それと……はい、これ。今日の余ったお菓子。みんなはもう充分食べたから遠慮しないでね」
円卓の上に置いてあったちっちゃい紙袋を取ってきて、ショコラちゃんに渡した。
「わ〜、わざわざ包んでくれてありがとうございます〜」
「ん。ショコラが寝てる間に食べちゃおうかと思ったけど、みんな同じくらい食べないと不公平だからね。にひっ」
憎まれ口を叩き、アンさんは照れ笑いを浮かべた。
帰り道、メグちゃんと橋の袂で別れて、ショコラちゃんと二人きりになる。空は既に暗くなっていた。足元の水路を、まっ黒いインクみたいな水が流れてゆく。飴玉みたいな月が、水面にでんと居座っている。
「今日はユリィちゃんに迷惑かけちゃったね〜。ごめんね〜」
飾りっけのない欄干に腕を置いてその上に顎をのせ、水面に映った揺れる飴玉を眺めながら、ショコラちゃんは言った。
「いいよいいよ。酔っ払っちゃったんだから、仕方ないよ」
「うん、ありがと〜……」
わたしも彼女の隣で同じ姿勢を取る。
しばらく、会話も無く二人で水面を眺める。
ちりんちりんちりん、遠くで路面列車のベルの音がした。
にゃー、どこかで猫が鳴いた。
ぽちゃん、魚が跳ねて水面にさざなみが立った。
ゆらゆらとインクが光を反射しながら揺れる。
静寂。
あぁ、メモしたいけどメモするものが手元にないや。でも、カバンからメモ帳を取り出すのも無粋なくらい、静謐な均衡が保たれた、ある種神聖な、不思議な雰囲気。このままで、ずっとここでぼんやりしていたいと思えた。
「……帰ろっか」
「そうだね〜。私お腹ぺこぺこ〜」
「あはは、そうだね。お菓子食べたはずなのにお腹ぺこぺこだよ」
この時間を永遠に堪能したいけれど、明日も学校だから、遅くならないうちに帰らなくてはいけない。学生の辛いところだ。晩ご飯についてあれこれ話をしながら、わたし達は家路を歩む。




