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『お菓子パーティー』 その四

「あー、面白かった!!」

「ふぅ、メグちゃんには申し訳ないですけれど、貴重なものを見させていただきましたわ」


 二人とも目元を拭いながら言う。かく言うわたしも目元に涙が溜まっていたので拭う。


「気の毒だったけど、面白かったね、ショコラちゃん。……あれ? ショコラちゃん?」


 返事がない。隣をうかがうと、彼女はうつむいていた。お腹いっぱいになって寝てしまったのだろうか。


「ショコラちゃん? 寝てるの?」

「なに? 部活中に居眠り?」

「ショコラちゃんらしい、マイペースここに極まれりですわね」

「……」


 みんなが注目するなか、彼女は身じろぎせず、ぶつぶつなにか呟いている。けれど、声が小さくて全然聞こえない。


「なに? 聞こえないよ」

「ん〜、ユリィちゃ〜ん」


 急にショコラちゃんがもたれかかってきた。人前で彼女からくっついてくることなんて珍しいから、困惑してしまう。


「わわっ、どしたの急に」  

「タタミまで連れてって〜」

「え? ……まぁ、いいけど」

「ショコラちゃん、どうしましたの?」

「具合悪いの?」

「タタミがいいんです〜」


 要領を得ない返答に、先輩二人は戸惑っていた。


「とりあえず立って」

「えへへ〜」


 立つ時もずっと寄りかかってくるものだから、立ちにくくて仕方なかった。歩くときも体重を預けてくるものだから、歩きにくくて仕方なかった。そんな苦労を経て、やっとこさ彼女をタタミのところまで引きずって来た。


「はい、タタミだよ」

「ありがと〜」


 視界がぶれ、背中を強かに打つ。衝撃で視界がかすむ。視界のかすみがおさまると、天井が見えた。え? なにが起きたの? あ、ショコラちゃんがわたしの上にのしかかってる。え?


「ちょっと二人とも?!」

「なんてことですの!」


 先輩二人の声で我に返って、ショコラちゃんと倒れてしまったのだと理解した。彼女はわたしに覆いかぶさるような体勢になっていた。わたしの腹の上に腰を下ろし、ふとももで腰付近をがっちり挟んできている。おまけに腕も押さえつけられていて、完璧に身動きが取れない。


「えへへ〜。転んじゃったね〜」


 笑う彼女の顔は、影になっているせいもあってか、いつもと違って、危ない妖しさを含んでいた。この体勢、この悪そうな感じ、明らかにわざと転んだのだ。けど、なんで。


「二人とも、怪我はありませんか?!」

「ユリィ潰さないようにするなんて、ショコラやるじゃん」


 ショコラちゃんで見えないけど、二人がそばまで来たようだ。


「あ、怪我はないですよ。大丈夫です。ほら、二人が心配してるよ。立たなきゃ……くうっ……ふぬぬ……」


 動かない。どんなに力を入れても、岩のようにびくともしない。自分のもやしっ子加減を痛感する。


「ショコラ、どうしたの? どいてやらないとユリィが立てないじゃん」

「イヤです〜。ユリィちゃんは私のなんですから〜」


 ショコラちゃんがわたしの体を包み込むように密着してきた。これほど全身で彼女の感触を味わったことは、今までなかった。こんなに、幸せな感覚だったなんて。このまま眠ってもいい……って、騙されてはいけない。こんなことをするショコラちゃんは、はっきり言って異常だ。このままでは、彼女の血肉として取り込まれてしまう。


「ななな、なんという絡み! うらやま……けしからんですわ! というか、そもそも、ユリィちゃんはわたくしのものですわ!」


 わたしは誰のものでもないけれど、反論している余裕なんてない。


「はぁ〜……ユリィちゃんあったかいよ〜」


 生暖かい吐息が耳の穴にぬるりと入って来る。


「うひぃっ」

「くうっ、ショコラちゃん、そこを代わってくださいまし!」

「ダメですよ〜。くんくん……あぁ〜、いい匂い〜」

「ふわぁぁぁっ! わたくしもユリィちゃんに抱きついてくんかくんかしたいですわぁぁあ!」


 シャリーさんの魂からの叫びも意に介さず、ショコラちゃんはもそもそとわたしの体をまさぐってくる。


「うふふ〜、ユリィちゃ〜ん……むにゃ……」

「ひうっ……」


 つつ、と鎖骨のあたりを指が這う。未だかつてないこそばゆさに、変な声が出てしまった。

 ずし、とのしかかる重みが増した。あぁ、わたしはもうダメだ。このまま、彼女の一部として生きてゆくことになるのだ。


「なにこれ、こんなの、ショコラじゃないよ……」

「わたくしだってまだこっそりとしか指を這わせたことのない『聖域デコルテ』をッ! ぐうぅぅっ……これ以上は、さすがに看過できませんわ! アン! ショコラちゃんを引き剥がしますわよ!」

「お、おう!! 合点だ!!」


 取り込まれるのを阻止するがごとく、わたしとショコラちゃんの体の間に二人の手が差し込まれた。


「これ以上ユリィちゃんの純潔を弄ぶなら、いくらショコラちゃんであろうと、このシャリー容赦せん、ですわ!」

「今ならまだ間に合う!! 諦めて自首するんだ!!」


 わたし一人じゃにっちもさっちもいかなかったショコラちゃんの体が、いとも簡単にごろんとひっくり返った。


「ぷはぁ……ありがとうございます。助かりました」

「ユリィちゃん! 苦しかったでしょう! もう大丈夫ですわよ!」


 シャリーさんがわたしを抱き起こし、胸に顔を埋めさせた。


「むぎゅ。シャリーさん、苦しいです……」

「くんくん、あらやだ、はすはす、わたくしったら、ぺろぺろ、つい」

「ヒイッ! ぺろぺろはホントに勘弁してください!」

「はぁ、やれやれだね。……てか、ショコラ、あんた急にユリィ襲ったりして、どうしちゃったのさ!!」

「むにゃむにゃ……もう、食べられないよ〜……えへへ〜……Zzz……」

「って、寝てるし!! マイペースにしたって限度があるでしょ!!」


 アンさんのツッコミが部室内にこだまする。それから間をおかずに、不機嫌な顔のメグちゃんが帰ってきた。アンさんを視界に捉えるや、なにか文句を言いたげに口を開いたけど、異様な雰囲気を察したのか、口をつぐんで駆け寄ってきた。


「どうしたんですか、みんな集まって。しかも、ショコラは寝てるし」


 メグちゃんにショコラちゃんの暴走の話をした。けれど、彼女は半信半疑だった。普段のショコラちゃんとかけ離れたその行為は、実際その目で見なかったら、胡散臭く思うのもやむなしだ。わたしだって、未だに信じられないのだから。

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