『お菓子パーティー』 その三
「それではみなさん、手を組んでくださいな。……いただきます」
『いただきまーす!』
シャリーさんの合図で、お待ちかねのお菓子パーティが幕を開けた。
まず、メグちゃんのシュトレンを頬張る。しっとりしていて、アーモンドの香ばしさと柑橘系の爽やかな風味がいい感じ。
「う〜ん、おいひ〜!」
ショコラちゃんはほっぺに手を当て、ふにゃふにゃのとろけ顔になっている。ボンボンショコラを真っ先に食べているあたり、なかなか肝が座っている。
「むがあぁぁっ!」
その隣でメグちゃんが悲鳴をあげる。すわなにごとかとそちらを見ると、メグちゃんは口を抑えてぷるぷる震えていた。
「メグちゃん大丈夫〜?」
ショコラちゃんはクッキーを頬張りながらメグちゃんを心配している。
「メグが引っかかったー!! あはははっ!!」
「はずれを引いてしまったかわいそうなメグちゃんには、プチフールを一個進呈いたしますわー」
シャリーさんがフォークを器用に使って、メグちゃんのお皿の上にそっとプチフールをのせた。
「ふぁんふぇふふぁふぉへはー!(なんですかこれはー!)」
口を抑えたまま、メグちゃんが叫んだ。その目には涙が浮かんでいる。
「えっと、“死神の接吻”っていう激辛トウガラシソースとー、“苦渋辛酸草”の汁とー、あとね、イナゴの素揚げ!!」
楽しげにアンさんは言う。今までの罰ゲームの詰め合わせだった。恐ろしいことこの上ない。
「……うぐっ」
一度えずいて、メグちゃんは一目散に外へ駆け出した。たぶん、トイレで吐き出すのだろう。
「メグちゃん心配だな〜」
言いつつ、ショコラちゃんはコンペイトウをかじって紅茶をすする。
ともかく、メグちゃんの尊い犠牲により、はずれはもうないことがわかったので、わたしも安心してボンボンショコラを食べることができる。一つ摘み上げて口の中に放り込む。噛み砕くと、すーっとする苦い汁があふれてきた。
「……うっ、なにこれ……アンさん、このボンボンショコラ、なにが入ってるんですか?」
「えっと、確かウィスキーだったかな?」
「まじですか……」
「なに? ユリィ苦手なの?」
社会通念上お酒は成人してからとされているものの、我が国では飲酒に年齢制限はない。なので、こういうお菓子や料理等に含まれるアルコールも、子供が口にしても別段咎める人はいない。けれど、今までの人生で社会通念にのっとりお酒入りの食物を避けてきたわたしにとって、これは、刺激が強すぎる。
「あんまり好きじゃないかもです……」
「あははっ、ユリィはおこちゃまだなー」
「これおいしいのに〜」
ショコラちゃんはためらいなくもぐもぐ食べている。さすが好き嫌いなくなんでも食べる子だ。
「うー……ショコラちゃん、これあげるよ」
「わ〜い、ありがと〜」
残りのボンボンショコラを渡す。受け取ってすぐに口に運ぶあたり、けっこう気に入っている様子だ。
紅茶で口直しをしてからコンペイトウをかじる。優しい甘さで苦味が中和される。三粒目をかじっているところで、メグちゃんが帰ってきた。
「まったく、酷い目に遭った……」
「おかえりなさい。大変でしたわねぇ」
「はぁ、最悪ですよ、ほんと」
「あれ? メグ、歯の間になにか挟まってるよ」
「え? どこですか?」
「いーってしてみて!!」
アンさんに言われるがまま、メグちゃんは口をいーっとする。みんなの視線がその口元に注がれる。右下の糸切り歯と前歯の間に、黒くて細いなにかが挟まっていた。これは――イナゴの足だ。それを認識してしまった瞬間、吹き出しそうになったので、咄嗟に口を抑える。
「あははははっ!! め、メグ、歯のっ、間っ、あはははっ!!」
「ぷっ……だ、ダメですわよ、笑ったら、失礼ですわ……くっ、ふふっ」
腹を抱えて笑うアンさんと、口元に手を当て必死に笑いを堪えるシャリーさん。二人ともツボに入ったようだ。
「な、何がおかしいんですか!」
喋ると、ぴろぴろとイナゴの足が揺れる。その様を見て、わたしも我慢できずに吹き出してしまった。美人が台無しだ。
「ぴ、ぴろぴろーって……あはははっ!!」
「め、メグちゃん……ぷふっ、喋らないでくださいまし……く、ふふっ」
「うーっ!」
紅葉した葉っぱみたいに顔を真っ赤にして、メグちゃんはまた部室から駆け出していった。ハズレに当たったり笑いものになったり、今日は彼女にとって厄日かもしれない。




