『七不思議』 その二
「あ、あの、私の一存でそんなに色んな鍵は、貸し出せないです」
モニカ先生は眉を下げて困り顔で言った。この、くるくるした金髪の彼女は、我が錬金術部の顧問でもある。
「えー!! なんでー!!」
「な、なんでと言われましても、決まりですから」
丸眼鏡の奥で自信無さげな青い瞳が、きょろきょろと何かを探すように忙しなく動いている。たぶん、他の教員に助けを求めようとしているのだろう。あいにく、第二職員室の中は閑散としていて、彼女の救援要請に気付いた人は今のところ居ない。
「モニカちゃんのケチ!!」
「け、ケチって……だって、仕方ないじゃないですか。私だって、錬金術部の活動に、協力したいです。でも、まだ二年目の下っ端には、できる事に限界があるんです」
モニカ先生はしょぼんとしていた。気弱で優しい彼女は、生徒たちに親しまれていて、気安く『モニカちゃん』呼びしたりタメ口で喋る生徒もいる。これは親愛からくるもので、彼女がなめられている証左ではない。たぶん。
「こら、アン、先生にも事情があるのに、ケチと言ってはいけませんわよ。すみませんモニカ先生、アンがとんだご無礼を」
「い、いえ、無礼だなんて。私が役立たずなのが、いけないんです」
「役立たずなんて、とんでもないですわ。そうですわね、逆に、モニカ先生の権限で貸し出していただける鍵は、どこの鍵か、教えてくださいますか?」
「わ、私が貸し出しできるのは、社会科資料室の鍵ですね」
「社会科資料室に、七不思議なんてない!! つまり、借りても役に立たない!! はぁーあ、いきなり今日の活動が頓挫しそうだよ」
「うぅっ、す、すみません、私の力不足で……」
モニカ先生は今にも泣きそうな顔できょろきょろしている。
「アン、あまりモニカ先生をいじめちゃダメですわよ。……けれど、体育館や音楽室に入れないとなると、七不思議の調査ができませんわね。困りましたわ」
「このあふれる調査へのやる気を、どこにぶつければいいんだー!!」
「どうした、錬金術部? 困りごとか?」
挙動不審なモニカ先生に気づいてくれたのか、はたまたアンさんが騒ぎ散らすのを聞いていられなかったのか、男の年嵩の先生が声をかけてきた。
「体育館と音楽室、それから美術室の鍵をお借りしたいのですけれど」
「ほう、なんのために?」
「錬金術部の活動です!!」
「ふむ……よし、ここは俺が責任を負って貸し出すことにしよう」
「ほんとですか!! やったー!!」
「ただし、一つ条件がある。モニカ先生、この子たちが鍵を返却するまでの間、目を離さず監督していてください。一応、念のために」
「あ、は、はい。わかりました」
「ありがとうございますわ」
「分かっているとは思うが、備品にいたずらしたり壊したりしないようにな」
「はーい!! 先生、早く鍵、貸してください!!」
「そう焦るな。今取ってくる」
男の先生は鍵を取りに職員室の奥へと分け入った。
「モニカちゃん、この学校の七不思議って知ってる?」
「な、七不思議なんて、知らないです。知りたくもないです。そ、そういうのは苦手なんです」
モニカ先生はぷるぷる震えている。先生には悪いけど、その様子は怯える小型犬に見えた。
「ふーん……にししっ」
アンさんは悪い顔をしていた。モニカ先生を標的にしているのは明白だ。人をからかうことが大好きな彼女にとって、びびりなモニカ先生は最高のカモなのだ。
「ほら、鍵だぞ」
「ありがとうございます!! よし、モニカちゃん、行くよ!!」
「えっ、ま、待って――」
半ば鍵をひったくり、座っていたモニカ先生の手を取り強引に引きずって、アンさんは職員室から出て行ってしまった。
「アン! はぁ、もう……申し訳ありません、不躾な子で。鍵を貸していただき、ありがとうございますわ」
「ははっ、副部長も大変だな。あんまり遅くなるなよ」
「はい。重ね重ねありがとうございます。では、失礼いたします」
「失礼します」
わたしとシャリーさんは職員室を後にした。
職員室の入り口で待っていたメグちゃんとショコラちゃんは、困惑した顔をしていた。
「あぁ、シャリーさん。ついさっき、アン先輩がモニカ先生を引っ張って行ってしまったのですが」
「あの子は気が早くてかないませんわね。わたくしたちも追いかけましょう。さぁ、行きますわよ。七不思議の調査に出発ですわ!」
「れっつご〜、ですね〜」




