『七不思議』 その一
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「今日は、七不思議の真偽を調査するための計画を練るよ!!」
紅茶をすすり、ほっと一息入れたところで、アンさんが急に立ち上がった。
「えっ、ほんとにやるんですか?」
この間七不思議の話をした時は、冗談めかして調査しようかなんて言っていたのだけど、まさか本当にやる気だったとは。
「あったりまえだよ!! 七不思議が、あたしたちを呼んでいるっ!!」
息巻いてアンさんは言う。これはなにか裏がありそうな気がする。
「シャリーさん、アンさん、なにか読みましたか?」
右隣のシャリーさんに耳打ちする。
「そう言われてみると、今朝、オカルト研究会の子に本を返していましたわ。たぶん、その本になにか書かれていたのですわ」
「こら、そこ!! 言いたいことがあるならはっきり言いたまえ!!」
アンさんは、ひそひそと話をするわたし達をびしりと指差した。
「た、たまえ?」
「なんですの、その喋りかたは」
「雰囲気だよ、ふ・ん・い・き!! んー、こほん……あたしは今、“世界のフシギ研究家”ヨハン・D・ベルクマン教授に、ひじょーに感銘を受けている!! 彼いわく『この世の珍妙奇天烈摩訶不思議には、必ず現実的な答えが存在する』!! 本校に伝わる七不思議にも、答えは必ずあって、それを解き明かせば、あたしたちは一躍学校の話題の的だ!! 錬金術部の名前が売れて、部費をたんまりもらえるという寸法である!! どうだ、諸君、心が踊るだろう!!」
手を振り上げ、アンさんは熱弁する。形から入るタイプの彼女は、何かに影響を受けるとすぐ喋りかたや仕草を真似る。
「はぁ、そうですか」
「わ〜、なんだかわくわくしちゃいます〜」
「でしょでしょ!? ショコラはわかってるなぁ。よし、ショコラを第一助手に任命しよう!!」
アンさんは高らかな宣言とともにショコラちゃんをびしりと指差した。
「わ〜い、第一助手だ〜」
ショコラちゃんは両手を挙げて歓ぶ。彼女は意外とこういうノリが好きなのだ。
「……アン先輩、その話は出来すぎではないですか? そもそも――」
「発言をする時はちゃんと手を挙げたまえ!!」
今度はメグちゃんがびしりと指差される。
「む……はい」
反論せずにちゃんとアンさんの指示通りにするメグちゃんは、本当に素直だと思う。
「はい、メグ助教授」
「じょ、助教授? ……えー、学校生活に不慣れで、学校に関する噂には興味津々であるはずの私たち一年生の周りでは、しかしながら七不思議なんてこれっぽっちも話題に挙がりません。それならば、二年生や三年生になるとなおさらそんなもの話題に挙がらないのでは? 七不思議なんて、みんなどうでもいいのではないですか。そんな七不思議の解決を望む生徒がどれほど居るでしょうか? よしんば居たとしても、七不思議の解決は部費を増額してもらえるほどの案件ですか? わたしにはそうは思えないのですが」
さすがメグちゃん、勢いだけのアンさんの言葉を真面目に捉えて分析してしっかり反論を組み立てている。
「ちっちっち、わかってないですぞ、メグ助教授。ロマンですよ、ロマン!! これはお金のためにやるわけじゃなくて、ロマンのためにやるのですぞ!!」
「さっきと言っていることが違いますよ」
「細けぇこたぁいいんだよ!! とにかく、七不思議の調査をするったらするんだから!!」
アンさんは勢いで押し切った。勢いそのままに、にわかに席を外し、タタミの上に置いてある自分のかばんを漁って、なにかが書かれた紙を持ってきた。
「ほら見て!! 校内七不思議地図作ったの!!」
両手で持って突き出されたそれには、新校舎の見取り図が描いてあった。
「珍しく授業に集中していると思ったら、そんなのを書いていたんですの」
「んっふふー、どうよ、すごいでしょー?! あともう三枚あるんだよ。旧校舎の見取り図と、時計塔とポプラ並木描いたの!!」
その満面の笑みは、工作が巧くできて得々とする子供のようだった。
「上手ですね〜。こういう地図があると、がぜんやる気が出てきちゃいます〜」
「だよね!! さすが第一助手!! さぁみんな、さっそく計画を練ろう!!」
「……まぁ、目的無くだべっているだけよりはマシか」
「そうだね。学校を歩き回る機会なんてそう無いし、こういうのもいいかも」
みんなでタタミの敷いてあるところに集まって、アンさん作の四枚の地図を囲んで座った。地図はどれもわかりやすく、きれいに描けている。特に時計塔の絵は完成度が高く、誇張や簡略化された部分はあれどよく描けている。地図には七不思議の起きる場所、時間帯、概要が赤ペンでこまごまと書かれていた。オカルト研究会の人から根掘り葉掘り聞いたのだそうだ。
わたしたち五人は頭を突き合わせて七不思議地図とにらめっこする。アンさんの発案当初は興味なさげにしていたシャリーさんもメグちゃんも、今は食い入るように地図を見ている。
「まず、どこから行こっか?」
「新校舎から回って、旧校舎に帰ってくるルートはどうでしょうか〜」
「第一助手の言うとおり、あたしも新校舎からがいいと思うね」
「ルートはともかくとして、放課後の音楽室は合唱部が使っているのではなくて? それに、体育館もどこか運動部が使っているはずですわ」
「土曜の午後からでいいんじゃない? だいたい、どこの部活も土曜の午後には帰るでしょ」
「しかし、土曜は部活が終わったら音楽室や体育館は施錠されてしまうのではないでしょうか」
「そこはモニカちゃんにお願いして鍵を開けてもらえばいいんだよ。錬金術部の活動のためとかなんとか言って理由でっちあげれば、他の先生も納得してくれるでしょ」
「そう簡単にいくんですか?」
「だいじょーぶ、なんとかなるって!! ユリィは心配性だなぁ。えーっと、じゃあ、七不思議の調査は、今週の土曜の午後一時から。で、新校舎からポプラ並木に行って、旧校舎に行ってから、最後に時計塔を調査するってことで!!」
かくして、今週の土曜日に、我ら錬金術部は七不思議の調査をすることにあいなった。




