表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/64

『久しぶり』その六

「さて、暗くなる前に、僕は帰るよ」


 お皿の上のクッキーが七割くらいに減ったところで、レイ君はおもむろに立ち上がった。


「もう帰っちゃうんですか〜?」

「うん。ショコラさん、今日はありがとう。ユリィも、久しぶりに喋れて、楽しかったよ」

「わたしはレイ君にいじめられて精神ぼろぼろだよ」

「そんなこと言うなよ。じゃ、僕は行くよ。学校で会ったら、よろしくな」

「さよなら〜」

「……じゃあね」


 ずいぶんあっさりと、レイ君は部屋から出ていった。もう少し名残惜しくしてくれても、よかったのではないか。


「はー。なんか疲れた」


 もそもそとベッドに這い上がって、腰掛ける。わたしに続いてショコラちゃんもベッドに腰掛けてきたので、その太ももの上に頭を乗せ、寝転がる。彼女は静かにわたしの髪を撫でたり指にからめたりする。くすぐったい。


「レイさん帰っちゃったね〜」

「ふん、帰ってくれてホッとしたよ」

「ホントにそう思う〜?」

「うん」

「ふ〜ん」

「……なに?」

「なんでもないよ〜」


 ほっぺたをつんつんされる。


「やめて」


 手を払う。


「も〜、機嫌直して〜」


 また喉元をこしょこしょと撫でられる。


「ごろごろ……って、だからやめぃ! しゃーっ!」


 起き上がっておっぱいに猫パンチしてやろうと思ったら、手首を、がっ、と掴まれた。


「私に同じ技は二度も通用しないよ〜」

「なん……だと……」

「修行が足りないよ〜」

「……ふふっ」

「な、なにがおかしいの〜?」

「甘いよ、甘過ぎる、砂糖菓子のように甘いよショコラちゃん! 知ってる? 猫パンチってのは片手より両手の方が強いんだよ! 必殺! 邪王なんたらかんたら波あぁっ!」


 両手を振り上げ、ショコラちゃんのおっぱい目掛けて振り下ろす。――捉えた。

 けれど、確信とは裏腹に、わたしの両の手は空を切った。目前にあったはずの二つのお山は、紙一重でわたしの攻撃をかわしたのだ。


「ま、まさか、この技は、無から転じて生を拾う、深い哀しみを背負った者のみが会得できるという、あの技ッ!」

「なにそれ〜。……は〜、久しぶりに本気出して動いたら疲れた〜」


 ショコラちゃんは身をかわした体制から、そのまま仰向けに倒れ込んだ。


「隙有りっ」


 重力に引っ張られ少しとろけたおっぱいに狙いを定める。今度こそ、とった!


「だめ〜」


 彼女はさっと両腕で胸元をガードして、ころんと寝返りをうってうつ伏せになった。わたしの手は布団を掴むだけだった。


「なんでそんなに胸触りたがるの〜」

「そこにおっきな胸があるから」

「登山家みたいなこと言わないでよ〜」

「ショコラちゃんこそ、なんでそんなに触らせてくれないの。減るもんじゃなし」

「減るよ〜」

「減るんだ」

「ストレスがたまって牛乳の収穫量が減るの〜」

「あぁ、そっち……って、えぇ、牛乳出るの?!」

「嘘だよ〜」

「だよね! 一瞬、信じかけたよ……」

「ともかく、私、胸を触られるのは嫌なんです〜」

「そんな殺生なー……しょぼーん」

「そんなに残念がらないでよ〜。……むむぅ〜、しょうがないな〜」


 ゆるりと起き上がり、彼女は、ふわ、とわたしのことを柔らかく抱きしめてきた。ちょうどわたしの顔の位置に彼女のおっぱいがあって、すごくふかふかだ。


「むご」

「触られるのは嫌だけど、たまにこうしてあげるから〜。これで勘弁して〜」

「ふむぅ……ぷはっ、まぁ、こうしてくれるなら、勘弁したげる」


 谷間から顔を出して見上げると、すぐそこ、息のかかるところまで彼女の顔が近づいている。色白だけど、血色のいい、もちもちしてそうなほっぺた。優しげな垂れ目を縁取る長いまつ毛、その奥の翡翠色の瞳が淡くきらきらと輝く。いわゆるたぬき顔女子の中でも、上位に入る愛くるしさだ。


 こんな巨乳美少女とひとつ屋根の下で暮らし、あまつさえそのおっぱい様に顔を埋める許しを得るなんて、わたしが男性だったら総スカンを食らいそうなシチュエーションだ。女で良かった。


「ふふっ、こうしてると、ユリィちゃんホントに妹みたい〜」

「お姉さま! お慕い申し上げておりますわ!」

「うちの妹はそんなこと言わないよ〜。それじゃあシャリーさんみたいだよ〜」

「なんでだろ、わたしの中の妹像ってこんな感じなんだけど」

「歪んでるよ〜」

「端的に言わないでくださいまし、お姉さまのいけず」

「ちょっと〜、どさくさに紛れてお腹触らないで〜」

「もにもにしていて触り心地抜群ですわお姉さま」

「む〜、おいたする子にはお仕置きだよ〜!」


 ショコラちゃんがわたしを抱く腕に力を込め、わたしの胴体に、ぎゅうっ、と圧がかかる。彼女のおっぱいも、わたしの喉元から口にかけてを覆って、わたしを窒息させんと牙をむく。


「ぐえーっ! 苦しっ、中身出るぅ!」


 これで死ねたら本望の変態諸兄もいるだろうけど、生憎とわたしは変態ではないので、彼女の背中をタップしてギブアップの意思を示す。割とすぐに、彼女は離してくれた。


「はーっ、はーっ……ちょっと魂口から出た……」

「もうしないでよ〜。……は〜、疲れた〜、エネルギー補給しなきゃ〜」


 ショコラちゃんはベッドから降りて、クッキーを一つつまんだ。

 ぱたぱたと階段を上がってくる足音が聞こえる。シュリちゃんだ。


「ユリィ、レイの見送りくらいしたらどうですか。甲斐性なしですね」


 ドアを開けて開口一番に、そんなことを言われると、少しムッとしてしまう。


「ふん。そのうちまた来るんだから、見送りなんかしなくていいいでしょ」

「また遊びに来ると言っていたのですか?」

「言ってないけど、また来るでしょ」

「ふむ……まぁいいです。お茶とクッキーを下げに来ましたけど……クッキーがまだ余ってますね。捨てるのは勿体ないですから、全部食べちゃいましょう。ほら、ユリィも手伝ってください」

「んー」

「シュリさん、このクッキーすごく美味しいです〜」

「シュリが厳選したものですからね、当然です。あむっ……うにゃぁ、やはり美味しいですねぇ!」

「あむ……うーん、これならいくらでもいける」

「私ももう一枚食べる〜」


 わたしもショコラちゃんも、男の子の前では猫を被っていて、クッキーにがっつけなかった。けれど、女だけになった今、なにを気にする必要があるか。クッキーはものの数分で、皿の上から消失した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ