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『箒の乗り方』 その六

 その後紆余曲折を経て、みんなと遜色ないくらい飛べるようになった。箒を股に強打して悶絶するわたしは、もう、どこを探してもいない。

 そして、待ちに待ったお出かけ当日。天気は快晴、千切れた綿飴みたいな雲が、青い空のキャンバスをまばらに飛んでいる。お出かけ日和だ。わたしはショコラちゃんと共に、意気揚々と箒に乗って家を出た。

 道行く人は皆、わたし達を見上げている。なぜか、歓声を挙げている男性が多い。若い女子二人が肩を並べて空を飛ぶ様子は、華があるのだろうか。ちょっぴり気分がいい。


「ショコラちゃん、わたしたち注目の的だよ」

「なんでだろうね〜。ちょっと恥ずかしいよ〜」

「ふふっ、やっと街の人たちが、わたしのオトナの魅力に気づいたのかな?」

「うふっ」

「ちょ、鼻で笑わないで」

「笑ってないよ〜、うふふふっ」

「いやいや、明らかに笑ってるし!」


 ぴーひょろろ、と甲高い鳴き声がこだました。空を仰ぎ見ると、五月晴れのただ中を一羽のトビが旋回している。そんなことはないはずなのに、どうにもその様子が、自分のことおちょくっているように見えた。


「むぅ、トビまでわたしのことバカにしてる」

「私はバカにしてないよ〜」

「じゃあなんで笑ったの」

「ユリィちゃんがかわいいからだよ〜」

「なんでそうなるの」

「ユリィちゃんは小さいからいいんだよ〜。オトナの魅力なんて余計なものはいらないの〜」

「なにそれ」

「うふふ〜、なんだろね〜?」


 はぐらかされてしまった。もうこれ以上押したところで、彼女はのらりくらりとかわすだろう。腑に落ちないけれど、この話題はもうこれでおしまいだ。


「二人ともおはよう」

「おはよ」

「おはよ〜」


 いつもの橋の袂でメグちゃんと合流した。メグちゃんは目の下にクマができていて、目が充血している。楽しみで寝られなかったのだろうか。でも、そこを突っ込むとすねてしまうので、言葉は心の中にしまっておく。


「ユリィ、いくら暖かくなってきたとはいえ、そんなに短いスカートだと、肌寒くないのか?」

「ニーハイ履いてるし大丈夫だよ」

「そんなもんなのか? 私はスカート履かないからなぁ。よく解らん」

「メグちゃんスカート履けばいいのに。絶対似合うと思うけど」

「うーむ、スカートって股が無防備な気がして落ち着かないから、苦手なんだよな」

「そうなんだ〜。私は逆に、メグちゃんみたいな、ピッチリしたパンツスタイルが苦手だな〜」

「ショコラちゃんお尻大きいから座った時破けちゃうもんね」

「そうそう〜……って、そんなことないよ〜。やめてよ〜」


 くだらない話に花を咲かせながら、わたし達は一路学校を目指した。

 集合場所の校門前には、なぜかシャリーさんしか居なかった。アンさんがちょっと遅れると連絡を入れてきて以来、携帯通信結晶ケータイにかけても出ないのだそうだ。


「かわいらしいスカートですわね、ユリィちゃん。……あの、一つ気になったもので、つかぬことを伺いますけれど……その下は、何を履いていますの?」


 ふと、シャリーさんが変なことを聞いてきた。いつものセクハラ紛いの発言ではないことは、真面目な表情でわかった。


「え? 下着だけですけど、それがなにか?」

「え〜! 下着だけだったの〜?!」

「う、うん」

「ああっ、やっぱり! なんてことですの!」


 ショコラちゃんは口に手を当て、シャリーさんは頭を抱えて体をわなわなと震わす。二人ともどうしてそんなに驚くのだろうか。取り立てることもない、普通のことなのに。


「ユリィ……多分だが、そのスカート丈だと、飛んだとき下から丸見えなんじゃないのか?」


 メグちゃんは渋い顔で言った。そして、わたしは恐ろしい事実を理解した。

 今までの通行人は皆、わたしの下着に注目していたのだ。下着を見せびらかして飛んでいる痴女が居たら、わたしだって呆気にとられて見てしまうだろう。みんなで飛ぶことが楽しみすぎて、女子として当たり前に注意すべきことを失念していた。そう、男性が歓声をあげていたのは――

 理解した途端、恥ずかしさで顔が熱くなって、脚の力が抜けてしまい、地面にへたり込んでしまう。泣きそうな顔を、手のひらで覆って隠す。


「うーっ……いろんな人に見られた……もうお嫁に行けないぃ……」

「ユリィちゃん、どんなことがあろうとも、わたくしがお嫁として迎えてあげますから、そこは安心してくださいな! それよりも、これ以上ユリィちゃんのあられもない姿を衆目に晒さぬよう、スパッツを買いに行きますわよ!」


 シャリーさんに付き添ってもらって、学校の近所の服屋さんでスパッツを買った。お店の厚意で更衣室を借してもらい、早速そこで履いた。これでもう、下着がもろ見えで飛ぶ痴女はいなくなった。

 けれど、確かに痴女は存在していて、勘違いして調子に乗ったドヤ顔で、パンモロしながら街を飛び回っていたのだ。今日その場に居合わせた人(主に男性)はしかと、わたしの縞パンを目に焼き付けただろう。


 わたしの縞パンに関する記憶だけ、目撃者全員からうまいこと消えてほしい。いや、消えなきゃダメだ。消えてしかるべきだ。はい、今消えた。もうわたしの縞パンを覚えている人は、この地上に存在しなくなった。これで一安心。

 そんな愚にもつかないことでも妄想していないと、このやるせなさを、抑えることができない。

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