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『箒の乗り方』 その三


 ☆


「ユリィ、危ないことはしないでくださいよ」


 すっ転んだ翌日、シュリちゃんが特別コーチとして、練習を見守ってくれることになった……というか、危ないことをしないよう監視されることになった。


「はーい。そういえば、シュリちゃんって箒乗れるの?」


 わたしの質問に彼女はにやりと、不敵な笑みを浮かべた。


「ふふっ、こう見えてシュリは箒に乗るのが得意なのですよ。なんなら、見せてあげましょうか」

「見せて見せて」

「では、箒を」


 箒を手渡すと、彼女は慣れたような手つきで箒を浮かせ、それに飛び乗った。


「わ〜、すご〜い! 両手離し飛びだ〜!」


 なんと、箒から両手を離して、結構な速さで飛び回っている。尻尾でバランスをとっているのだろうか、忙しなく尻尾が動いていた。


「驚くのはまだ早いのですよ!」


 今度は箒をしっかりと握り、逆さになってみたり、くるくるときりもみ回転してみたり、アクロバティックに裏庭を飛び回る。人には危ないことをするなと言っていたくせに、危なっかしいことこの上ない。


「わ〜! 天地逆転につむじ風だ〜!」


 この危なっかしい飛び方に、そんな名前が付いているのか。箒乗りの世界も奥が深い。

 一通り曲芸飛びが終わり、ドヤ顔で耳をぴんと立て、シュリちゃんはわたしたちの前に降りてきた。


「まぁ、こんなところですかね」

「シュリさんすごいですね〜」

「ふふん、もっと褒めるがよいのです」

「でも、全然お手本にならないよ」

「あくまでデモンストレーションなのです。極めればここまでできるという希望を持って、練習に臨んでください」

「そこまで極める気ないんだけど」

「と、も、か、く、です。ほら、危なくないよう、まずは低空で浮くところからなのですよ」


 箒を受け取ってまたぐ。昨日の記憶がよぎって、冷や汗が出た。なんだか股間がきゅっとする。


「ユリィ、黙ってても飛べないですよ」

「わ、わかってるよ。……うー」


 もじもじしているわたしを見かねたのか、ショコラちゃんがわたしの手にそっと手を添えてきた。


「大丈夫だよ〜。もし転んでも、マリィさんからお薬貰ってきたから、すぐお薬塗ってあげられるよ〜」

「……あはは、ありがとう。まぁ、薬のお世話にならないように、頑張るよ」

「ファイトだよ〜」

「落ち着いてやれば、必ず飛べますよ!」


 二人の声援を受け、腹を括る。わたしは飛ぶんだ。

 目を閉じて、箒に魔力を込める。緩やかにわたしを押し上げる力。自分の足元にも、魔力を込める。押し上げる力に合わせて、体が浮いていく感じ。イメージだ。わたしは、箒に乗って、浮いている。足が土を踏む感触が、徐々に薄れ、ついにはなくなる。

 おそるおそる目を開けたら、わずかではあるものの、地面から完全に体が浮いているのを確認できた。


「や……やったぁ! 浮いたよ! ねぇ、浮いた浮いた!」


 ただちょこっと浮いているだけでも、わたしには初めての体験だ。気持ちが昂ぶる。


「わ〜、いい感じだよ〜」

「そのまま低空を維持するのですよ」

「う、浮いたんだから、もうイケるよね?!」


 そう、浮くだけじゃ話にならない。最終的には、飛び回れるようにならないといけないのだ。このままの勢いで、一気に飛んでみせる。


「焦りは禁物ですよ!」

「ゆっくりだよ〜!」


 二人は心配しすぎだ。浮けたのだから、飛ぶのだって造作もないはず。

 とりあえず、前進だ。くん、と箒が先行する。一拍遅れて体が引っ張られる。やった、できた。なんだ、案外簡単じゃないか。


「あははっ、進んだ進んだ!」

「ユリィ、とりあえず止まるのです!」

「へーきへーき!」


 箒は緩やかに加速していく。裏庭は狭いし、そろそろ反転しよう。


「……あれ?」


 生け垣がどんどん迫って来ている。このまま進むと衝突は免れない。けれど、箒が言うことをきかない。

 曲がれ曲がれ曲がれ! 箒はぐんぐんと生け垣に向かって加速する。止まれ止まれ止まれ止まれ! やばい、ぶつかる!


「ユリィ!」

「危な〜い!」

「ひっ!」


 反射的に目をつむって体を固くする。葉っぱの激しく擦れる音と枝の折れる音が耳元で響き、枝葉が鞭のようにべしべし体を叩く。


「いたたた……」


 死ぬかと思った。生け垣が緩衝材になって、衝突の勢いを受け止めてくれたようで、上半身を生け垣に突っ込むだけで済んだ。おそらく今のわたしは、生け垣から下半身だけを突き出した間抜けな格好になっているだろう。


「大丈夫ですか?!」

「ユリィちゃ〜ん!」


 二人の駆け寄ってくる足音が聞こえた。痴態を晒すのが、この二人でよかった。アンさんが居たらバカにされるだろうし、シャリーさんが居たらわたしのかわいいお尻の危険が危ない。


「あはは、失敗しちゃったよ……よいしょ、っと」


 いつまでもお尻をぷりぷりさせているわけにはいかないので、生け垣から脱出する。その不可抗力で、また、べきべきと枝が折れた。恩人(この場合、恩植物って言うべきかな?)である所の、生け垣さんを再三にわたって傷つけてしまった。申し訳ない。


「怪我はない〜?!」


 怪我と呼べる怪我はない。ちょっとばかり、手の甲や頬といった、肌が露出していた箇所を擦りむいた程度だ。


「大丈夫。ちょっと擦りむいちゃったくらいだから」

「擦りむいちゃったの〜? ちょっと見せて〜、お薬塗ってあげるから〜」


 ショコラちゃんは軟膏の蓋を開け中身を指で掬い取って、怪我した箇所に塗ってくれた。相変わらず軟膏の効果はてきめんで、傷がみるみるうちに塞がっていった。さすがお母さん、いい仕事をしている。


「まったく、無茶しないでくださいよ! ……まぁ、なんにせよ、大きな怪我がなくてよかったです」

「たはは……ごめんなさい」

「まぁ、前には進めたわけですし、この調子ならすぐ飛べるようになりますよ。調子に乗らなければ、ですけどね」

「焦らず頑張ろうね〜」


 その後、調子に乗らず二人の指導をきちんと受けた。そうして、日が傾く前には、ゆっくりながらも真っ直ぐ飛べるようにはなった。

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