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『箒の乗り方』 その二

 戻って来たショコラちゃんは、お母さんとシュリちゃんを従えていた。二人とも、仕事を放り出してきたようだ。

 部屋に担ぎ込まれて、ベッドにうつ伏せに寝かされる。そして背中が出るように服をめくられ、軟膏を塗られた。ひやっとして、べとついて、薬臭い。生傷の絶えなかった子供の頃を思い出す。さすがお母さんの軟膏は効果てきめんで、塗った途端波が引くように痛みが引いた。


「ほら、下も薬塗るから! 患部だして! 早く!」

「いやいや、ちょっと! あとは自分で出来るから! やめて!」


 お母さんがパンツまで脱がそうとしてきたのを、必死に押さえる。さすがにショコラちゃんの前で下半身すっぽんぽんになるのは恥ずかしすぎる。


「マリィ、ユリィだっていつまでも子供じゃないのです。背中じゃなかったら、一人で塗れるのです。あまり大したことなさそうですし、仕事に戻りましょう」

「あっ、ちょっとシュリちゃん! ユリィ、なにか異常感じたらすぐいうんだよ! 絶対だからねえぇぇぇ……」


 お母さんの手を引っ張って、シュリちゃんが部屋から退出した。


「あっ、じゃあ、私も部屋から出るね〜」


 空気を読んでショコラちゃんも部屋から出て行った。

 誰も居なくなった室内で、気兼ね無く服を脱いで患部に軟膏を塗ることができた。

 誰か様子を見に来るかと思って少しの間待っていたけど、誰も来る様子が無いので部屋から出てみたら、ショコラちゃんがすぐそこの壁に寄りかかって待っていた。彼女は眉を下げ、非常に申し訳無さそうだった。


「ごめんなさい〜、私がユリィちゃんを止めてれば〜」

「ショコラちゃんは気に病まなくてもいいよ。ただの打ち身だし、薬も塗ったから大丈夫」

「ほんと? ほんとに大丈夫なの〜?」

「うん。やっぱり、お母さんの薬はすごいや。もう全然、痛くない 」

「そっか〜。よかった〜」


 心底ほっとしたように、ショコラちゃんは胸をなで下ろした。心優しい彼女を心配させてしまって、心が痛む。


「はぁ、早く飛べるようにならないとなぁ。……うぅ、自信なくなってきた……ほんとにわたし、飛べるのかなぁ」


 そう、そもそも、わたしがなぜ飛ぶ練習を始めたかというと、それには海より深い訳があったのだ。それは遡ること、昨日のことで――


 ☆


「じゃあさ、箒乗って街散策しよーよ」


 たまには休日に錬金術部の活動をしようということで、なにをするか話し合っていた時、アンさんが提案した。


「あら、いいですわね。健康的ですわ」

「えぇっ、箒ですか」

「なに? もしかしてユリィ……箒乗れないの?」

「乗れないことないです! あの、ただ、乗った経験が無いだけで……」

「それ乗れないってことじゃん!!」

「あらあら、箒、乗れないんですの?」

「お二人は乗れるんですね……ていうか、もしかして、メグちゃんもショコラちゃんも、箒乗れるの?」

「あぁ、中等学校時代、私は箒通学だったからな。普通に乗れるぞ」


 メグちゃんは自信満々だった。


「私の実家は田舎だから、移動に箒必須だったよ〜」


 ショコラちゃんはこともなげだった。

 なんてこった。自分が乗れないものだから、世の中には結構箒に乗れない人が居るものだと思った。


「ええっ、じゃあ、乗れないのわたしだけなの」

「どうやらそうらしいな」

「箒に乗れないユリィちゃんも可愛いですけど……これから先、みんなでどこかに遊びに行く時、ユリィちゃんだけ箒に乗れないと、ちょっと不都合があるのは確かですわねぇ」 

「よし、じゃあ、箒で街散策は来週末にしようか。週明けから、ユリィ強化週間だ!! ユリィに箒の乗り方を教えてやろう!! どうせならみんなで飛びたいもんね」

「おおっ、特訓ってやつですね! いいですよ! おいユリィ、特訓だぞ!」


 なぜかメグちゃんが燃えている。元運動部の血が騒ぐのだろうか。


「あはは……でも、そんなすぐに乗れるようになるかなぁ」

「だいじょーぶ!! 物心ついた頃から箒乗りまわしてるあたしにまっかせなさーい!!」


 アンさんを信頼していないわけではないが、彼女は人のペースを考えないフシがある。まっさらのままで彼女から教わるのは、あまり好ましくない。


「わたくしも、微力ながら、お手伝いさせていただきますわ。そしてゆくゆくは、二人で空のランデブー! ユリィちゃん、頑張りましょうね!」


 きらきらと目を輝かせ、シャリーさんはぐっと拳を作ってみせた。


「よーし!! 来週一週間で、ユリィを飛翔地元最強まで鍛えるぞー!!」

『おー!』


 わたしはただ飛べればいいのだけど、みんなやたらにやる気を出している。困った。せめて今週の休みのうちに、飛べるレベルまでにはなっておかないと、めちゃくちゃしごかれるかもしれない。


「ユリィちゃん、明日お庭で、とりあえず箒の練習してみようよ〜」


 帰宅してから二人でごろごろしていた時、ショコラちゃんがふと言った。

 彼女なら、一から優しく教えてくれるだろう。今のわたしにはもってこいの教師役だ。


「うん、そうだね。ショコラちゃん、よろしく頼むよ」

「任せて〜。一日でユリィちゃんを飛べるようにしてあげるよ〜!」


 翌日の練習にて股間と背中を強打して心が折れそうになるのを、この時のわたしはまだ知らない。

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