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『錬金術部へようこそ』 その三

 ひとしきり続いた歓待ムードが落ち着き、しばらく当たり障りのない会話をしていると、部室のドアがノックされた。会話が中断され、みんなの視線がそちらに集まる。


「失礼します」


 来訪者の出で立ちは、一言で言うと“モデルさん”だ。すらりとした脚に黒のスキニージーンズがぴったりとくっついていている。さらにヒールの高いブーツを履いているものだから、とても脚が長く見える。黒いジャケットに白のシャツを合わせていて、そのシャツの襟元には、赤い玉を抱く蛇がいた。一年生だ。


「メグちゃん! お待ちしておりましたわ!」


 シャリーさんは来訪者に向かって、一目散に駆け寄った。


「シャリー先輩、本日は――」

「さぁさぁ、わたくしに挨拶は結構ですわ、どうぞ、こちらへ、おかけくださいな」


 手を引かれてきた来訪者は、事態が飲み込めないような顔で、わたしの隣の椅子に腰掛けた。座る時、栗色の前下りのショートボブが、さらりと揺れた。

 彼女には見覚えがあった。同じクラスの人だ。美人でスタイルが良くて、人を寄せ付けないようなオーラを放っていて――それがちょっとカッコいいと思って、印象に残っていた。まさかここで出会うとは。


「それではメグちゃん、皆様に自己紹介を!」

「……はい。私は“メグ・ヴィント・シュヴァイツァー”です。よろしくお願いします。……あの、シャリー先輩、ここは錬金術部、ですよね?」

「もちろんですわ」

「なんというか……個性的な、部室ですね」


 メグさんは部室内に視線を巡らせ、やっと言葉を選んだみたいに歯切れ悪く言った。


「うふふ、ありがとうございますわ」

「いい部室でしょー。ようこそ、我が城へ!! あたしは部長のアンだよ。うちのシャリーが昔世話になったみたいだね。よろしく!!」

「……よろしくお願いします」


 メグさんの表情は、胡散臭い人を見た時のそれだった。


「あれ〜、メグさんって確か、同じクラスだよね〜?」

「あら、そうなんですの?」

「……すみません、人の顔を覚えるのは苦手で」


 メグさんは、琥珀色の切れ長な目で、わたしとショコラちゃんを交互に見た。その目つきのせいか、威圧感が半端ない。


「そっか〜。じゃあ、改めて自己紹介するよ〜。私はショコラーデ・エンゲフリュスタだよ〜。ショコラって呼んでね〜。よろしく〜」


 ショコラちゃんが果敢にも自己紹介をした。わたしも自己紹介しなければいけない空気を、一瞬で察知する。


「わ、わたしは、ユリナルカ・アルケイナムです。どうぞよろしくお願いします」


 メグさんはわたしのことをじっと見ている。怖い。


「……よろしく」


 ぺこりとお辞儀された。掴みかかられるかと思って内心ビクビクしてたけど、そんなことはなかった。


「さぁ、お茶をどうぞ、メグちゃん」

「すみません。ありがとうございます」


 わたしの紅茶はそろそろ冷めた頃合いだろうから、口に含んでみる。だいぶ温くなっていたけど、これくらいでちょうどいい。


「メグちゃん、剣術部はもういいんですの?」

「剣術部は……諸事情により入らないことにしました」

「あら、そうなんですの? あっ……そう、でしたわね」

「じゃあさ、錬金術部に入ってくれるの?!」


 顔が曇ったシャリーさんとは対照的に、アンさんは晴れやかな笑顔だった。


「それはわかりません。錬金術部のことを、私はまだ何も知らないので、入部するか否かの判断材料がありませんから」

「えー、なんだー。……よし、じゃあ、質問タイムにしよ!! 錬金術部のこと、なんでも教えてあげる!!」

「あら、いいですわね。メグちゃんだけでなく、お二人も、なにか訊きたいことはありますかしら? 部活のこと、学校のこと、答えられる範囲でなんでもお答えしますわよ」


 訊きたいことは山ほどあるけど、何をどう訊くか精査しなければ。


「はい」


 わたしが悩む間に、メグさんはやたら姿勢よく、手を挙げた。


「はい、メグちゃんどうぞ」

「この部活は、何をしている部活なのですか?」


 一番訊きたかったことを、メグさんは口にした。アンさんにはぐらかされてしまったこの質問だけど、シャリーさんならきっと、真面目に答えてくれるだろう。


「あら……難しい質問ですわね。なんと言ったらいいか――」

「“賢者の石”の探求だよ‼」

「ちょっとアン、下らない嘘を吐かないでくださる? ……わたくしたちは、“賢者の石”の探求なんて、下らないことはしていませんわ。お茶を飲みながら、楽しくおしゃべりしたり遊んだりすることが、主な活動ですの。錬金術関連の活動は……殆どしておりませんわ。それを期待しているのなら、ごめんなさいね」


 期待はしていませんでしたとも。察していましたとも。けれど、改めて申し訳無さげに言われると、勝手に期待していたわたしのほうが悪いのではないか、という気さえしてくる。


「ということだ!! わかったか!! “賢者の石”の探求なんて、アホのすることだぞ!!」


 熱い手の平返しだ。どうしてアンさんがそんなに偉そうなのか、わたしにはわからない。


「え〜、“賢者の石”の探求、してないんですか〜? アンさん、さっきしてるって言ってたじゃないですか〜」

「アン……ショコラちゃんにまで適当な嘘を吐いたんですの?」

「いやー、あははっ。この二人がけっこう真面目に話聞いてくれるからさ、つい、ね?」

「まったく……さて、気を取り直して。他に質問はありますかしら?」

「は〜い」

「はい、ショコラちゃんどうぞ」

「どれくらいの頻度で活動してるんですか〜?」

「部長のあたしの気が向いたら!!」


 そんな気取った料理屋のサラダみたいに、気まぐれで部活をやられたら、部員としては迷惑極まりない。


「……アンが適当なのでわたくしがお答えしますわね。基本的に、学校のある日は部活もあります。諸事情により部活が休みになる場合は、ちゃんと連絡しますわ。それと、たまに休日も活動しますけど、それも事前に連絡しますわ。……これで伝わりましたかしら?」

「はい〜。ありがとうございます〜」


 シャリーさんの丁寧な説明に、ショコラちゃんも満足げだった。


「さて次の質問は……ユリィちゃん、何かありまして?」

「えっ! ……あー、あの……どうしたら、シャリーさんみたいに、背が高くなれるんですか?」


 指名されるとは思わず、頭の中で練っていた質問がすっ飛んでしまって、とんちんかんな質問をしてしまった。

 素っ頓狂な質問を投げかけられたシャリーさんは、一瞬きょとんとしてから、くすくすと笑った。


「ふふっ、なんでも答えると言ったからにはお答えしますわ。そうですわね……早く寝ること。あとはミルクをよく飲むこと、かしら?」

「そ、そうなんですね。参考になりますー、あはは」

「……でも、身長なんて、伸びないほうがいいですわよ。ユリィちゃんは、そのままのほうが可愛いですから。……うふふふふ」


 ぞくぞく、と背筋に悪寒が走る。シャリーさんの目つきが一瞬、獲物を前に舌なめずりする蛇のように鋭くなったような気がした。でも、今こちらに向けられてる優しい笑みからは、その痕跡は一切見当たらない。今のは、いったい。


「あたしだって毎日牛乳飲んでるんだけどなー。なんで伸びないかなー?」

「アンは夜更かしばかりしているからですわよ。この間だって、夜遅くに通話してきて、いい迷惑でしたわ」


 わたしのくだらない質問のせいで話題が脱線して、そこからは雑談タイムになってしまった。

 メグさんは話をふられない限り一言も喋らず、無言の間はちらちらとわたしを睨みつけてくる。質問タイムを潰してしまったことに、腹を立てているのだろうか。怖くって、きまずくって、まともにそちらを向くことができない。

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