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古い掌編集  作者: あずま八重
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33.雨宿り(2011.06.24作 / 恋愛)

 ザァザァと雨が降る。

 傘もささずにこれ以上打たれ続けていては、間違いなく風邪をひく。けれど、それでも今は雨に濡れていたかった。


『好きな人ができた』

 ……ウソ。

『もう、終わりにしたい』

 ウソだ。

『別れよう』

 そんなの――


 悲しくなんかない。ただ、虚しいだけ。このまま消えてしまえたならどんなに救われるか……。

 そんなことを止めどなく考えていたら、ふいに身を打つ雨がやんだ。ナナメに落ちていた顔を上げると、紺色の傘が視界に入る。元を辿って左を振り返れば、少し戸惑ったような表情の男性と目が合った。


「ええと……すぐそこの喫茶店で店主やってます」


 そう言って、彼は爽やかで人なつっこい笑みを浮かべる。


「よければ温かい飲み物でも。それが嫌なら、せめてこのタオルを」


 三十前半くらいだろうか。雨天には少し不釣り合いな焼けた肌に、パーマのかかった黒い短髪が似合っている。視線を落とせば、七分丈の白いワイシャツから伸びる腕の先に傘と同じ色のタオルがあった。

 温かい心遣いに、傘の下でも雨が降る。けれど、その雫に宿るものの名を――私はまだ知らない。


(2011.06.24作)

■作品メモ

 なかなか良い出来。などと自画自賛してみる。投稿した先(創作系グループ)はとっくに活気が下火気味だったけど、震災以降に賑わうことが一度も無かったのがちょっぴり……淋しいし悲しかったなぁ。

 この店長、実は当時メインで書き進めてたお話の脇役だったんだけど、「失恋OLとオッサンの合挽き(not誤字)って、なんか萌えるよね」と思ってご出演いただいたのよね。

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