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古い掌編集  作者: あずま八重
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31.ドライブのお供(2011.05.04作 / 文学)

『謳いたい歌があるんだ、今はまだ歌えないけど』


『創りたい世界があるんだ、今はまだ欠片もないけど』




 そんな出だしで始まる歌が、今の世の中では流行っているらしい。

 ラジオのパーソナリティには〝夢と希望を歌っている〟なんて紹介されていたが、俺に言わせれば人生における壁の厚さ・高さと、それに対して味わう苦い泥水のような挫折でいっぱいの酷くくだらないものにしか聞こえない。

 前方の信号が青に変わったのを目視してからブレーキを緩め、アクセルをじわりと踏み込む。車が加速するのに合わせて、流行歌も明るく軽快な曲調へと変わっていた。


 ――昔の自分を思い出させるから毛嫌いしてるだけじゃないの。


 そう彼女が言ったのは、いつのことだったろう? 憤慨するように口先をとがらせ発せられた文句のはずなのに、放られた側の俺の胸には日だまりのような温かさが湧いていたことだけは鮮明に覚えている。

 また信号の赤にたしなめられ、橋の上で車をとめる。曲は丁度サビにさしかかり、気付けば、車中から川面を眺める自分の口をついて出ていた。


(2011.05.04作)

■作品メモ

 『屋上ミサイル』を読み終わってひと休みしたらポンと冒頭のフレーズが浮かんで、勢いで書いたもの。

 恥ずかしいことにこの本、文庫化した2009年当初に買っていたくせに今の今(2011年)まで読まずに積んでたんだよ。……ああ、勿体ないことをした。

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