20.死者の街(2009.01.28作)
――夜が呼ぶ。だから、僕は夜の街をさまよっていた。
昼間の喧騒が幻だったとでも言うように静まり返るこの街には、〝死者の〟という形容がよく似合っていた。なにしろ、ヒトの息遣いすら感じられないのだから。
赤みを帯びた満月が、酷く不気味な光を街に浴びせる。けれど、そんなものは至極どうでもよくて、僕はただただ、この静かな街を眺めていた。
「――素敵な街でしょう?」
ふいに聞こえたその問いかけを、僕は呆けた頭のまま無視をする。声の主は視界に居ないが、後ろの、さほど遠くない位置にいるようだ。
無反応の僕がおかしかったのか、男とも女ともつかない若い声は含み笑いをこぼして続けた。
「ボクが作ったんですよ」
その言葉の真意は分からない。だが、背筋が薄ら寒くなる響きが混じっていたのは確かだった。
僕は半ば衝動的に後ろを振り返る。すると――
「やぁ、〝ボク〟だった人。……いや、もうヒトですらないのか」
そう言って、目の前の〝僕に成り代わった悪魔〟がせせら笑った。
――死者が呼ぶ。だから今もまだ、僕は死者の街をさまよっている。
(2009.01.28作)
■作品メモ
「500文字小説大会」という企画の第一弾用に書いたもの。描きたいテーマが曖昧で、書いた本人としてはビリビリ破りたい部類の出来。投票結果によれば、2票いただいて6位だとか……なぜ2票も。
ちなみに、同企画に出したもう一作『親友』は、ちゃっかり1位をゲット。