03話 フラグ・エンペラー
ーー宿ーー
「はぁ〜、どうしたものか……」
先程の漆黒の騎士に渡された、錆びてる剣と500マネーを机に置き、木製の椅子の上で一人頭を抱えていた。
「一般傭兵並みのステータスに、使えない特殊スキル。武器さえマトモなら少しは戦えるかと思っていたが、まさか錆びた剣を渡して来るとは……」
机に置かれた錆びた剣の柄を握り、下腹の元まで持ってくる。
不要かと思う程に掠れている鞘を抜き、剣身を見てみる……。
「うん、やっぱ使えねぇわ、これ!見た感じ切れ味0だもん!剣と言うより鈍器だな、これは……」
鞘に収めるのが面倒で、右端に設置されてるベットの上に投げ捨てた。
ベットに刺さるかなー……って思っていたが、錆びすぎて貫通力が無く、ポフッと柔らかい音が聞こえたに過ぎなかった。
危ねぇ、仮に刺さってたら弁償させられてたかも。
『随分と気を落とされている様ですね』
「はぅまっち!?」
投げ捨てた筈の剣から、無機質な女性の声が聞こえた!?
驚き過ぎて萌え声出しちまったじゃねぇか! 一体なんだって言うんだ!!
『初めまして、私の名称は【フラグ・エンペラー】上条様の特殊スキルの根源たる精霊です』
自己紹介が終わると、錆びた剣の縁から淡い青色の光を放出し始めた。
光を放出し始めるとの同時に、錆びた剣は宙に浮かび、俺の元へと移動した。
「………」
うん、開いた口がふさがらないとは、まさにこの事だ。
『私共精霊は、人では目視できない為、こうして上条様の剣と融合した訳です。姿は見えなくとも、声は上条様に届くかと思われます』
「……つまり、俺の相棒って感じ?」
ようやく事態を理解し、声が出せるようになった。
にしても、まさかこの特殊スキルが精霊の力によるモノだとは……って、精霊ってイマイチ分からないけどさ
『平たく言えば、そういう事です。魔王を討伐するまでの期間、貴方に力を捧げましょう』
「力ってを捧げるって言われても、この力じゃ魔王なんて討伐出来ねぇよ!」
思わず口走ってしまった。
いや、だって仕方なくね?フラグ・エンペラーだぜ?確実に魔王に対抗出来るスキルじゃないぞ。
『この力、ですか。上条様は、この力について既にご存知でしたか?』
「そ、それは!分からないけどさ……フラグに関する能力だとは憶測出来る」
そう、俺はこの能力について詳しくない。黒ローブたんに魔力探知機でステータスを調べて貰ったが、【フラグ・エンペラー】という名前だけで、この能力は使えない!と思い込んでいる。
それに、ファイヤーやサンダーなどの初期スキルは兼ね備えているものの、俺はこの初期スキルについて何も知らない。
黒ローブたんに教えて貰った事は、この世界の通貨や、魔王軍に攻められ、人類が危機に陥っている。この2点のみだ。
『えぇ、その通りです。この力は生物、無機物などに取り付いているフラグを、自分の意思のまま操れる能力になります』
……つまり、どういう事だってばよ。
『上条様が元いた世界には、アニメやゲームなどと言った、サブカルチャーの文明があったと認識しています。間違いありませんか?』
「あぁ、間違いねぇよ」
何を隠そう、俺は隠れオタクだ! いや、隠しちゃってるけどさ!
深夜アニメは全て録画、全アニメ3話まで見た後に、見たいアニメの選考に入る!
などのオタクっぷりだ!
『アニメやゲームには、必ずと言っても良い程、《フラグ》というのが存在します。しかし、フラグというのはフィクションの世界でしか存在しないモノ。仮に「やったか!?」というセリフがあるとしましょう。アニメでは、必ずと言って良い程”やってません”。しかし、現実となると本当に”やっている”可能性が高いです』
……どうでもいいけど、無機物な声の割には良く話すな。
『しかし、このフラグ・エンペラーの能力を使えば、先程のフラグを”回収”する事が出来ます』
「あ〜、えーと、フラグ・エンペラーさん?申し訳ないけど分かりにくいわ」
『要するに!我が能力フラグ・エンペラーは、この世の全てのフラグを”回収”折る”発生させる”この3点を思うがままに使えこなせます!』
容姿が剣だから表情は読み取れないが、憤慨した様子で反時計回りに剣が回転している。だがしかし、フラグを使えこなせます!って言われても嬉しくないし、何より使いにくそう……。
「なぁ、やっぱこの能力、弱くね?」
『上条様! 我が能力を舐めてはいけませんよ?仮に不老不死、圧倒的な魔力を持つ敵がいても、上手くフラグを操れば死を与える事だって可能なのです!』
凄い能力なんだろうけど、俺はその事より、最初とキャラが変わっている事に興味がいってる。恐らく頑張ってキャラ作りしたんだろうな〜……。
『上条様のステータスがいくら最弱だとしても! 我が力さえあれば、どんな敵でも倒す事が可能!そう、魔王でさえもね…私達がコンビを組めば!【最弱最強の勇者】なんて!二つ名を貰っちゃうかも知れませんよ〜!?』
完全に作り込んだキャラが崩れ落ちた、錆びれた剣は宙に浮かびながら、猛スピードで時計回りに回転しまくっている。
『さぁ!フラグ・エンペラーが弱いスキルじゃない!って分かった事だし、さっさと寝て下さい!明日は記念すべき勇者様の式典式ですよ!おやすみなさーい!』