第四話:ベストカップル
『小梅ちゃんて、河野の知り合い?』
小梅が席に着くと、隣の席の少女が話しかけていた。
『えっと、温ちゃん・・じゃなくて河野君とは幼馴染なの。』
小梅は小さめの声でたどたどしく答えた。
『かわいい〜。おんちゃんだって。温だから温ちゃんなんだ。』
『あたし、小藤 美里。よろしくね。』
きれいな子だなと小梅は思った。憧れのサラサラの黒髪ロングに長い睫毛。唇はピンク色。
『美人だなあ・・。』
うっかり、声に出してしまった。
『え?あたし?やだ、小梅ったら正直者。』
美里は、照れもせず、小梅の肩をバシッとたたいた。
『美里〜、小梅ちゃんいじめんなよ。』
後ろの席からふくよかな少年が声を掛けてきた。ぺしゃんこの鼻に、笑うと目尻が下がる。いかにも気のよさそうな顔だ。
『なによ、保こそ馴れ馴れしいんじゃない。小梅ちゃんなんて。』
美里は、声の主に負けじと言い返す。
『いいじゃん、別に。お前こそ、怪力なんだか気をつけろよ。あ、俺、向井 保ってゆーんだ。よろしく。』
『よろしく、向井くん。』
『保でいいわよ、こんな太っちょ。』
美里は冷たく言い放った。
『ひどいな。それが彼氏に対する言い草?』
保はまんまるの頬をさらに脹らませた。
『ふん、何度でも言ってやるわよ。太っちょ。太っちょ。はあ、こんな太っちょが彼氏なんて。』
美里は、わざとらしくため息をついた。でも、なんだか楽しそうだ。
『え?彼氏?』
ちょっとまって。小梅は耳を疑った。か、彼氏?
もう一度、美里と保を見比べる。美女と野獣っていっても間違えではない組み合わせ。
『ほら、小梅だって驚いてるじゃん。まあ、一応、彼氏の保です。』
美里は少し照れくさそうに、彼氏と言った。
赤くなった美里を見て、小梅はなんだかうれしくなった。
ちょっと驚いたけど・・・。
『すてきな彼だね。お似合いのカップルだよ。』
小梅は正直に思ったことを言った。
『小梅ちゃん、最高!良かったな、美里。良い友達が出来て。』
『あんたもでしょ、保。』
美里と保の息の合ったかけあいの後、小梅は口を開いた。
『よろしく、ベストカップルさん!』
*
『小梅、ちょっと来て。』
休み時間に入ると、すぐ温がやって来た。
小梅は、頷くと温の後に続いて教室を出た。
久しぶりに温ちゃんの背中は、前より大きく見える。
背伸びたな、温ちゃん。小梅は、痛みだした胸を手で押さえた。
『なんで、東京にいるの?』
階段の横の人目につかない所に来ると、温はくるりと小梅に向き直って言った。
『うん。一月におじいちゃんが死んじゃったのは聞いてるよね。』
『知ってるよ。くも膜下出血だったっけ。』
『そう、お父さん、おじいちゃんが死んじゃってから元気なくなっちゃって。そしたら、ちょうどお父さんの東京本社への移動の話がきてたの。
お母さんが環境変えようって提案して、東京には、さーちゃんもいるし、ちょうどいいかなって言って。おじいちゃんの土地も全部売っちゃったの。』
土地を売ることに決めた日を思い出して、涙が滲んできた。おじいちゃんがかわいそうだって、雪江と何度も言い争った。
『小梅。お前、あそこの家にいたかったんじゃ・・。』
小梅の震える声に気づいて、温は言いかけた。
『もう、いいの。ふっ切れたし。制服かわいいし。それに、今お父さんすっごく元気なの。本社に来て、バリバリ仕事してるみたいで、忙しくて悲しいこと考える暇ないみたい。』
小梅は、笑ってみせた。
『小梅・・。さーちゃんに先週会ったときは何にも言ってなかったのに。』
『ああ、それは驚かせたかったから黙っててもらったの。温ちゃんのびっくりする顔みたかったし。』
『うん、すごくびっくりした。でも、うれしいよ。やっぱり、お前が一番気が合うし。』
『さーちゃんへの近道だしね。』
小梅は付け加えた。
『まーな・・・って、うるせ−よ。』
憎まれ口が心地よく小梅の耳に響いた。