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お金持ち学園は堕落の園!?




 超つまんない新入生歓迎式の後は女子寮に案内されて、今日はもうすることはない。


 お兄ちゃんが生徒会メンバーだったこと以外は、特に何もなく。




 ……いや、あるわ。


 この部屋ってのが、もう……すんごいのよ!




 寮生活っていうから相部屋とか、よしんば一人部屋だったとしても、シングルベッドに机くらいだと思ってたのに。


 ここが『お貴族様の学園』だって失念してたわ。

 某魔法学校みたいな感じかなーと思ってたら、かなり違う。



 もう、全っ然、違う!



 校内も寮内も広くて明るくて、厳かというよりは、なんだかお上品で洗練された雰囲気。

 中庭には四季折々の花が楽しめる花園があるし、イカニモな感じの東屋とかがいたるところに設置されてる。


 実際、絵に描いたようなお茶会をしている方々を何組も見かけるし。

 さぞかし優雅なひと時を堪能できることでしょう。



 そして部屋! そう、この女子寮の私の部屋よ!



 伯爵家の私の部屋より少し狭いかなー程度だけど、それでも十二分に広い、女性らしい壁紙やら絨毯やらで飾られたお部屋。

 ごろんごろんしても全く落ちそうにないくらいに、大きくてふかふかなベッド。


 木目の美しい透かし彫りなんかが散りばめられた、勉強するのに向いてなさそうなお上品な机。

 椅子ももう……なんて言うのこれ? 当然ゴロゴロの付いたデスクチェアーなワケがなくて、背面や座面に分厚いクッションが張られたひじ掛け付きの、これまた美しい木目や色合いをしている木製の椅子。当然座り心地は抜群。


 クローゼットは? そうそう、着替えも出来るくらいにひろーいウォークイン。

 身支度できるように、これまた座面の広い椅子まで置かれちゃってるし。

 殆ど制服で過ごすっていうのに、なんでこんなに広くする必要があるわけ?


 大理石っぽい石で覆われたバスルームに、反対側の扉はなんと侍女の部屋まである。


 おっきな棚は本棚かと思ったら、茶器が一揃い仕舞ってあって、その横にはなんと簡易コンロ。

 しかも、魔力を込めると熱くなる『燃魔石』が置かれてるファンタジー仕様。


 これで部屋の中でお茶が淹れられるんだから、もちろん飲む場所だってある。

 目立たないけど、よく見れば花模様が刺繍された淡い色のソファーに、ローテーブル。

 何なら食事だって出来ちゃうダイニングセットまで、部屋の端っこに置かれてる。




 なんなんだッ、この堕落の園はァっっ!?!?




 何? 学園ライフを健全に送らせないための罠なの?


 ワンルームどころか1LDK? いや、侍女の部屋を入れたら2LDK……??


 どーりで廊下も長いし、部屋の間隔がやけに広いと思ったわよ。

 なんなら女子寮だけでバカデカい城みたいだし、もっとデカい校舎から歩いてきたら結構いい運動になるわよねっていう距離になるわけですよ。



 学費は如何ほどなのか、知りたくもない。

 てゆーか皆この豪華な部屋からわざわざ出るの? 授業以外にも?


 出るんだろうなぁ……。

 学園の建物群の背後には広大な森があって、乗馬だのピクニックだのし放題だし。

 シーズンには、狩猟なんかも解禁されるのかも。


 テニスコートっぽいのもあったし、建物が丸ごと一つ図書館になってるらしいし。

 チェスやらビリヤード、カードゲームなんかのための室内遊技場みたいなのもあるっぽい。



 王立学園、恐るべし。



 さて、そんな堕落の園――もとい、私がこれから五年間過ごす部屋では、早速お茶会が開催されている。


 ゲストは、親友のアリー。

 彼女の後ろにはガヴォット家の侍女。


 私の後ろにも、エグランテリア家侍女のエリーが控えている。



「――それにしても、ローザと同じクラスで良かったですの!」

「私も! 知らない方ばかりかもと、不安だったのよね」

「でも、第三王子とは違うクラスになってしまったんですの……」

「あら、アリーは玉の輿狙い?」

「そういうわけじゃないんですの。だって……とてもお美しいじゃない?」

「えっ、王子の顔知ってるの!?」



 今年入学した学園一年生の中には、この国の王子が一人紛れてる。

 それが第三王子のセロジネ様。


 兄君の第二王子も、上の学年にいるそうな。



「やだ、あんなに歓迎式で、皆の視線を集めていらっしゃったのに……。気付いていなかったんですの?」

「う、うん。ぜんっぜん」

「ローザったら……」



 呆れたような顔をされてしまった。


 いやだってさ、つまんなくて寝ちゃいそうだったから、目を開けてるのに必死だったというか、もう瞬きしない覚悟で檀上しか見てなかったというか……。



 そうよね、同じ学園内に王子がいたらそりゃ見るわ。



「どんな方?」

「それがもう素敵で! プラチナブロンドの御髪に、銀色の瞳でしょ? アンニュイな雰囲気を漂わせていて、それもまた魅力的! だったんですの!!」

「それは、見てなくて残念だわ」



 アリーのこの興奮っぷりからすると、勿論相当な美形なんだろうなー。


 私もいつか、こっそりと美しいご尊顔を拝めるくらいなら、許されるかしら?



「あぁん、もう! あの方と毎日机を並べて授業を受けられるなんて、同じクラスになった方が羨ましぃですの~~~!!」

「あら、それじゃ私より、王子と一緒の方が良かったのかしら」



 淑女っぽく控えめにじたばたするアリーに意地悪っぽく聞いてみると、一瞬ハッとして私を見る。



「もうローザったら、そんなわけないですの。貴女と一緒に過ごせる方が、ずっと素敵なの」



 ズッキューン!!!



 かっ、かかかかわうぃーーーー!!!

 なんだこの破壊力、鼻血出そう……。


 輝かんばかりの笑顔を浮かべるアリーは、超可愛いのであった。




 ……ふぅ、ちょっと落ち着こう。

 お茶でも飲んで一息。


 あら、このマドレーヌ美味しいわ。

 バターたっぷりなんだけどくどくないし、しっとりした舌触りで、時折レモンの香りがフッと鼻に抜けてくる。

 貝殻の形で可愛いしなー、軽い食感だから、いくらでも食べられそうだなー。



「ろっ、ローザ!? 食べすぎじゃありませんの?」

「んはっっ!!!! や、やってもうた……」



 アリーが家から持ってきた、ガヴォット家ご自慢のマドレーヌは聞いていた通り超美味しくて、香り高いお茶と一緒にバクバクと食べてしまっていた。



 これじゃあまた、デブまっしぐらじゃないのよーーー!!



「そんなに食べたら、お夕食が食べられなくなりますの」

「うぅ、アリーのお家のお菓子が、とっても美味しくて……手が止まらなかったのよ」

「また持ってきてもらいますから、ね?」



 いや、当分の間見せないで欲しい。

 多分また貪っちゃうから……。




***




 この学園の食事は、大抵寮か校舎の食堂で食べる。


 具合が悪かったり、一人で食べたいときなんかは部屋でも食べられるけど、基本朝食と夕食は女子寮・男子寮に分かれて、昼食は校舎の食堂で男女混じって食事するらしい。



 話しているうちに時間になったので、アリーと一緒に寮の食堂へ。

 取り敢えず……辿り着くまで、長くて広い廊下を腹筋に力入れたり大股で歩いてみたりしたけど、無意味だった。



 お楽しみの夕食は、『お好きな物をお好きなだけ』方式なんだけど、種類が凄い。


 甘いのしょっぱいのプレーンなのと、各種取り揃えられたパンに、それぞれ味付けやらソースに調理法が異なる肉魚がズラリ。

 サラダにスープにデザートに、味にうるさくて舌が肥えたお貴族様の為に、何なりと取り揃えてある。


 んで、酷いのが……このパンだの料理だのを、テーブルを回って勧めてくれる給仕さん。


 とんでもないおデブホイホイだわ。

 「じゃあ一口だけ……」なんてやっちゃいそうになる元デブを、心の中で叱咤しながら断ることの辛さよ!



 元デブなヒキニートが、再び堕落するのに充分な要素を取りそろえた、恐るべき学園。


 明日からは待ちに待った授業、そしてクラスメートとの邂逅……!!



 障害に負けずに、ウキウキ学園ライフにしてみせるんだからッ!




 というわけで、食べすぎた分腹筋してさっさと寝ます。

 明日から食事量には特に気をつけなきゃ。


 この美貌にニキビが出来た日にはもう、後悔がハンパ無さそうだし、夜更かしは美容の大敵らしいし?



 既に脳内はキラキラした学園生活が描かれちゃってるけど、どれも靄がかってる。

 経験がないから、妄想が追い付かない……。



 明日を楽しみにしながら、ふかふかベットで目を閉じたのだった。




2015/10/10 ごめんなさい、タイトルを『お金持ち学校~』から『お金持ち学園』に変えました。

2022/03/15、24 ちょこちょこと追記&修正しています。

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