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超絶美女だから入学前にやっておくべきこと




 前世の記憶を思い出し、ウキウキ学園ライフへの野望に心を滾らせた後、早速私はそのために『最初にやるべきこと』について両親に相談した。


 繊細でお高そうな調度品で飾られた、中世のお城みたいなお邸――エグランテリア邸の広い食堂で家族揃っての食事中、機会を見計らってパンをちぎっていた手を止め、エグランテリア伯爵である父にお願いしてみた。



「お父様、私に護身術の先生を付けてくださいませんか?」

「ごふっ、げほげほ……。ご、護身術だって!?」

「剣術を習いたいとか、そういうつもりじゃなくて……、いえ、それもやってみたい気持ちはあるんですが……。とにかく、学園に入学するまでに、最低限の護身術を身に付けたいんですの」

「ローザ……」



 伯爵夫妻は顔を見合わせる。


 そりゃそーだ。

 蝶よ花よと育てた箱入り娘が、イキナリ「護身術を習わせろ」なんて言ったら、何言ってんだコイツってなるわよね。


 エグランテリア家は武家一族ってことはないので、子供には問答無用で剣術を叩きこむ……とか、そういう教育方針は無い。

 精々お兄様に、学園入学まで剣術指南の教師が付いていた程度。

 妹の私に至っては、読み書きと刺繍が出来ればいーやって感じだった。


 これまでの私は、見た目の割におとなしい少女で、気ままに読書したり刺繍したりと、絶賛引きこもりライフを満喫していたのだ。


 ……いや、それくらいしか家ですることもなかったんだけど。社交界デビューもまだだしね。



「良いじゃないですか。近年では女性騎士も増えてきていますし、可愛い妹の安全のためです。ローザがこんなお願い事するなんて初めてだし、僕は賛成ですよ」

「お兄様……」



 援護射撃してくれたのは、エグランテリア家嫡男で次期伯爵のアンソニー。


 前世のクソ生意気な弟と違って、イケメン長身で妹の私に優しくて、しかも頭良くて剣の腕もそこそこ立つという、絵に描いたような素敵なお兄ちゃんだ。


 彼もまた、私と同じで黄金色の髪に深い青の瞳。

 髪はお父様譲りで、瞳はお母様譲り。


 そんな血を分けたお兄様は、長い睫を揺らして、両親に見えないようにこっそりとウインクする。



 いやん、お兄様大好きーーー!!!



 私の方も嬉しくて頬を染めて笑いかけていると、援護射撃の効果か、エグランテリア伯爵である父も、護身術の先生を呼ぶと言ってくれたのだった。




***




 何故、急に私が護身術を習得しようと思ったのか。




 ――それは、この美しい伯爵令嬢の身を護るためだ。何としても。




 デブだった私は確実に必要じゃなかったけど、もしも痩せて人並みの体型を手にすることが出来たなら、真っ先にやりたかったことがこれだ。


 それなりに治安が良い国だったとはいえ、若い女性が夜道を歩けば、暴漢に襲われる危険のあった前世。

 この世界でだって、気を付けた方が良いに決まってる。


 元デブから超絶美女に転生なんて奇跡が起きたんだもの、この素晴らしい身体は護らなければならない。



 未婚の貴族女性は異性と二人っきりでいただけで怪しい目で見られてしまうという厳しい世界だし、外出時には護衛が付くので、護身術が必要な時点で手遅れ気味ではあるけれど……身に付けておくに越したことはない。


 私にはまだ婚約者もいないし、醜聞は真っ平御免である。



――そういえば、私の結婚ってどうなるのかしら?


 伯爵令嬢だから、いずれ政略結婚する可能性もあるけれど、とりあえず今のところは、恋愛結婚オッケーな雰囲気。

 この国の貴族はなかなか進んでいるらしくて、政略結婚と恋愛結婚の割合は半々くらいみたい。

 ウチの両親も恋愛結婚だしね。


 で、恋愛結婚するとなると、お相手は学園で出会った人というのが恐らく大半だろう。

 勿論、卒業して社交界に出てから結婚相手を探す人もいるだろうけど、学園なら問答無用で同年代の貴族子女が集まっているので、多分結婚相手を見つけるための場でもあるんだと思うのよ。


 学園が危険な場所じゃないのはわかってるけど、半分は思春期の盛りの付いた男なわけでしょ?


 ローザの身体つきは芸術品みたいで、それでいて肉感的だからね。

 もしも実力行使されそうになれば、いざというとき身を護るのは肉体言語だろう。


 お兄ちゃんも学園にいるけど、流石に付きっきりで見ているわけにもいかないだろうし、お相手が見つかるまでは、自分の身は自分で護るしかないのだ。

 反撃までする必要はないけど、せめて逃げる隙を作る程度にはなりたい。


 相手が力づくで来た時、複数に囲まれた時、隙を突かれた時……同じ学園に通う生徒を対象に考えるのは物騒だけど、色々なパターンを想定して、訓練しなければ。



 黒歴史時代は、実はちょっと体術みたいなのも興味があったから、もしこの身体が案外武術とかに向いているなら、某国の特殊部隊風格闘術みたいなのを習得してみたいなぁ……。


 でも運動するのは、今世でもあんまり得意じゃないかも。

 ……というか、考えただけで疲れる。


 これがお嬢様思考によるものなのか、おデブ思考によるものなのか……多分、両方かも。


 憧れは憧れってことかしら?



 いやいやいやいや、始める前から弱気はダメでしょ!


 とにかく、護身術を身に付けてから考えることにしよう。




***




 お父様が護身術取得の為に手配してくれたのは、この国では珍しい女性騎士だった。


 サーシャ・シャルドン騎士、二十三歳。

 この国では往き遅れ気味ではあるけど、皆の憧れの女性騎士様は「結婚して家に閉じこもるくらいなら、騎士として独身を貫いた方が良い」そうな。


 カッコ良すぎるでしょ!!

 私には真似できない生き方だ。



 転生しても尚、私の引きこもり気質は変わらない。

 社交なら夜会やらお茶会で充分だし、どこぞの夫人となればそれが仕事みたいなもんだ。私はそれがいい。


 キラキラした人生を送りたいと思いつつ、読書したり美しい庭を歩いたりという、邸での生活がやっぱり好きなのだった。



 願わくば、学園生活の間に、もっとやりたいことを見つけられますように。




 ともあれ、今は護身術だ。


 筋肉も付けた方が良いのかもしれないけど、このナイスなバディーを保ちたい。

 女性らしい柔らかな感触は、絶対必要よね!

 変に腕とか足とかに筋肉が付かないように注意しよう……腹筋割れてる令嬢にはなりたくないし。



 自分勝手な思いを抱きつつ、特訓の日々が始まったのだった。



 ちなみに、こっそりサーシャに見せてもらった彼女の腹筋は、ごつくないけど美しいシックスパックに割れていた。


 並大抵の努力ではこうはならないだろうから、筋肉を甘く見てゴメンナサイと謝ったけど、当然の悩みだろうと慰められてしまった。




***




 ――半年後。


 入学を間近に控えた私は、ある程度身を護れるくらいの護身術を身に付けた。



 腕やら肩やらを掴まれた時に抜ける方法。

 後ろから羽交い絞めされた時に抜ける方法。

 不意を突かれ身の危険を感じたときに、すぐ響き渡るような悲鳴を上げる方法。

 武器を向けられた時の咄嗟の対処法。

 押し倒された時に相手と距離をとるための方法。

 逃げるための間合いが取れないときに一撃入れるための方法。


 更には身体の自由が奪われた時の対処法に、縄抜け、ゴテゴテの正装でも全力ダッシュするための訓練、相手を転ばせたり出来そうなら捕える方法、等など。



 取り敢えず大きな声で助けを求めること、声が出ないなら大きな音を立てるにはどうするか、身の危険を感じてもどうにもできそうになければむしろ余計なことはせずに素直に従いつつ、隙を探しながら助けを待つこと、なんかが特に覚えておいてほしいと言われたことかな。



 簡単な組手も教えてもらったけど、この世界にシス○マはないらしい。

 ちょっとがっかり。



 それでもこれだけ覚えれば、ある程度は安心して学園生活が送れるはず!


 さあ、全力でウキウキ学生ライフを堪能してやるんだから!!




ブックマークに登録して下さった方、ありがとうございます。

嬉しくて心臓跳ねました。

いよいよ次回は、学園に入学する予定です。


2022/03/15、24 ちょこちょこと追記&修正しています。

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