幕間 第二王子の叫び
ローザの兄、アンソニー視点です。
※2021/12/14 ローザの名前をファレスが思いっきり間違えていたので、修正しました。
「クソっ、お前の妹がクロシェットの私室に呼ばれて、あまつさえお茶会だと!? 会ったばかりだというのに、早すぎる! 俺だって入ったこと無いのに……! 会って数日の小娘が招かれるなんて、一体どうなってるんだ!?」
そう言って拳をドンと生徒会室の机に打ちつけ、慟哭しているのは我が国の第二王子殿下であり友人のファレスだ。
休日の真昼間に苛立った様子で髪をかきあげ「俺も呼ばれたい……婚約者だぞ!?」と嘆く様子は、普段の王族然とした雰囲気を欠片ほども感じさせないが、残念ながら彼の婚約者がいないときは意外とこんなもので――近くにいる者だけが知る一面というやつだ。
僕、アンソニー・リューヌ・エグランテリアは、ここアマディエ王国の伯爵家嫡男で、はじめのうちは第二王子殿下と同じクラスとはいえ、あまり関わることは無いだろうと思っていたのだけど、何故か入学時から気に入られたらしく、なんだかんだと共に過ごしていくうちに今では数年来の友人でありながら彼の側近のような立場になってしまっていた。
どうしてこうなった? と考えてしまう日もたまにあるけれど、意外と馬が合うのか、僕としても嫌々付き合わされているという感じはなく、からかいがいのある友人として扱うことも少なくない。
対外的には彼との仲について話す際は『恐れ多くも』というような言葉をつけるべきなのだけど、周囲からは「気味が悪いし思ってもいないことを言うな」という指摘……いや、懇願されたので、余程改まった場でなければ自然体で接するようにしている。
それは僕だけでなく他の生徒会メンバーにも言えることで、生徒会室ではそれなりに気の置けない会話が繰り広げられているのだけど……裏を返せば、生徒会室以外では彼は第二王子として素の自分を出すことが出来ないということだ。
まぁ、流石に今ははっちゃけ過ぎだけど。
彼の愛しの婚約者であるクロシェットがいるときは、まだカッコつけた部分が大半を占めているものの、不在となれば彼女への溢れ出る愛が垂れ流しになるので、威厳も風格もあったもんじゃない。
僕はまだ彼の『恋バナのような何か』を聞いてあげている方だけど、今いるもう一人のメンバーに至っては完全にスルーを決め込んでいる始末。
普段なら僕も「あーはいはい」と彼の婚約者についての熱い想いを聞き流しているところだけど、今話題に上っているのは僕の大切な妹のことなのでそうもいかない。
どうやらクロシェットと僕の妹が、会ったばかりですぐに仲良くなったのが気に入らないらしい。
……愛に貴賤は無いけれど、こんなに余裕のない男が我が国の王子で、将来僕の上司になるかもしれないことを思うと、なんだか悲しくなってくる。
「――しかも! 今日は俺がデートに誘ったのに……先約だと? 俺は休日でも会いたいのに! 部屋に呼ぶなら俺の方が先に呼ばれても良いはずだろう!?」
クロシェット本人が聞いたら100年の恋も冷めてしまいそうなみっともないことを喚いているけれど、驚異の自制心で本人の前ではおくびにも出さないのだから大したものだ。
ただ、それにしても随分と独りよがりな言い掛かりじゃないか?
「いや、いくら君が婚約者でも女子寮には入れないんだから、呼ばれるワケがないだろう? ……それに、休みの前日に『明日も居残り休日出勤して、生徒会室で書類捌こうゼ☆』っていうのはそもそもデートのお誘いですら無いよ」
そんな僕の真っ当な指摘を聞いているのかいないのか、尚もぶつぶつとつぶやきが止まらない。
それでも書類を捌く手が止まらないあたりは、流石とでも言うのだろうか。
「あぁ、私室でのクロシェット……きっといつも通り美しいのだろうな――いや、もしかするとそろそろ届くはずの新作のドレスを着ているのでは? そんなの俺が一番に目にしたいのに……クソっ、俺もまだ見ていないクロシェットの姿を、パッと出の小娘が先に目にするかもしれないなんて耐えられるか!」
若干書類にシワが寄っているけれど、握りつぶさないだけの自制心は残っているらしい。
ちなみに、新作のドレスが届く予定というのはクロシェット本人から聞いたのではなく、婚約者が好き過ぎて秘密裏に送り込んだ侍女から得た情報だろう。
僕の知っている話を総合すると、クロシェットの侍女の半分は彼の息がかかっている者のハズだ。
学園にいる侍女たちの他にも、侯爵家にも人員が派遣されているので、余程私的なこと以外は恐らく筒抜けだろう。
一応、プライバシーを侵害するつもりではなく、あくまで護衛のための情報収集の一環とかいう言い訳感がハンパない、誰がどう聞いても言い逃れのできない理由付けをしていたけど、僕としてはバレずに少なくとも婚姻まで、できれば墓の下まで持って行って欲しい案件である。
そこまでするか!? と思わなくもないが、同時にその徹底した姿勢に関心もしている。
……それなのに、何故肝心のクロシェット本人に彼の重過ぎる愛が伝わっていないのか、不思議で仕方ない。
「それならさぁ~、本人に言ってみたら? 『休日も君を独り占めしたいくらい大好きなんです』って」
クロシェットに伝わっていないのは、単純に目の前の恋愛ポンコツ王子が彼女の前でだけイタい程にカッコつけてるからでしかない……まぁ彼女の方も、何故か婚約者から異性として好かれる可能性を考えてすらいない様子だから、たまに隠しきれていない彼の気持ちに気付く余裕が無いんだろう。
『言葉にしなくても伝わる』なんて、傲慢な考えは流石にしていないはずだけど。
しょーもない独占欲に付き合ってくれるかはさておき、言わないことには何も始まらないでしょうに。
「ばっ……! いきなりそんなこと言えるか! 『ガッつき過ぎて怖い』なんて思われたらどうする!」
……なんでそこでヘタレるんだよ!?
というか、クロシェット側からしたら怖がられる可能性があることは判ってるんだな……。
告白する話題になった途端、日に焼けない体質のせいで病的に白い肌が赤く染まっているけど、さっきまでの話の方がよっぽど恥ずかしくないか?
「それなら最初は紳士的に、抑えめに行けば良い。クロシェットが君のことを嫌っていないのは知ってるだろう?」
「勘違いするな! 嫌われていないんじゃない、間違いなく好かれている!」
「なら、それこそ問題ないじゃないか」
やれやれと肩をすくめて見せると、真っ赤に染まった顔でまた何やら言い出した。
「彼女への気持ちを控えることは出来ないし、かといって言葉選びを間違えれば、確実に怖がられるか、嫌われるだろうが。……長年こんな関係だから、余計に難しい。これまでも俺は『クロシェットのことを何とも思ってません』みたいに本人から思われているんだ、急に手のひらを返したように見えるのも心外だ」
「……君はまず、彼女に対して素直になるところから始めないといけないと思うよ」
「うるさい、クロシェットはこんな素直になれない俺のことが好きなんだ。つい、キツい物言いになっても、うまく褒められなくても、それでも嬉しそうにして、でも俺に悟られないようにわざと澄ましてみせるクロシェットのことがたまらなく可愛く見えるし、そんなところも含めて彼女を愛しいと思っている」
「だから、それをそのまま言えば良いのになぁ……」
ちなみにこの『早く告白しちゃえよ』という会話、割と頻繁に交わされているものの、いつまでも先に進まないやり取りである。
キリっとした顔でかなり熱烈なことを言っていると思うんだけど、どうしてそのまま本人に言わないかなぁ???
「君、このままだと、その『完璧に気持ちを伝えられるいつか』を待っているうちに卒業……なんてこともありうるよ? そうなればもう近いうちに婚姻で、彼女には『あー政略結婚なんだなァ』って思われながらの結婚式になるんじゃないか? 両思いで幸せなキャンパスライフを送る事も出来たのに、クロシェットの方だけ君の想いを知らされないまま、どっちつかずの関係だと思わせたまま、その日を迎えさせるのかい? それは、いくらなんでもあんまりじゃないか?」
「……そんなことは、俺だってわかっている」
苦い表情を浮かべているが、自業自得だ。
「あーあ、ローザも可哀想に。君がしっかりしていないせいで、与り知らぬ場所で勝手にライバル意識を向けられてたらなぁ」
それでも勝手に敵意を向けられているだけなのだから、まだマシだ。
もし彼の婚約者がローザだったなら、僕は今みたいなやり取りをすることなく、思いっきり回し蹴りを食らわせていただろう。
クロシェットには悪いけど、考えただけでもゾッとする。
僕の言葉に納得できないのか、彼はすっかり元に戻った顔色で眉をひそめている。
「ライバル意識だと? この俺が、お前の妹に!? ハッ、シスコンも大概にしてもらおうか」
そう言って彼は鼻で笑ったあと、ふと顎に手を当て何かを考え出した。
――あれ、これ僕、何か余計なこと言ったかな?
「だが、それにしても部屋に呼ばれる仲になるには早すぎないか? そんなに距離が縮まるものか……? いや、まぁそういう事もあるだろうとは思うが……しかし……」
「ま、今日は僕が止めなかったらクロシェットは生徒会室に来てたんだろうね~。ちゃんと誘えない君のせいで、本当は今日やる必要の無い作業のために友達との約束を延期する羽目になるところだったよ。不甲斐ない婚約者に振り回されちゃって、彼女もいい迷惑だ」
今捌いている書類だって、本来まだ急いで対応するようなものじゃないのに、今日クロシェットが来なかったせいで滞ったと思わせては可哀想だから、前倒して処理しているに過ぎない。
元々真面目な集団なので、多少休日に時間を割いても早めに済ませられることはさっさとやってしまおうと思えることが救いだ。
「この生徒会室での作業は、デートの前振りだ。……終わってから、改めて誘おうと思っていた!」
認めたくないのか、悔しそうにしているがそのプランも穴だらけである。
「どこに行くつもりだったのか知らないけど、生徒会の仕事だって声を掛けられたら、普通はそのつもりでしか来ないよ。当然制服を着てくるだろうし、そのままデートに行けたとしてもせいぜい校内の庭園くらいじゃないか?」
しかもそれだとデートというより、仕事ついでに婚約者の義務を果たそうとしているように思われるのが関の山だ。
着飾った姿を見たいという割に、そのためのアピールが全然足りていない。
「君がそんな風にクロシェットを振り回すから、彼女には気を許せる友人が少ないんじゃないか? 親しくなるための時間を君が奪うから」
「ぐっ、俺は、そんなつもりじゃ……だが、婚約者の方を優先するのは当然のことだろうが。大体、何故クロシェットにお前の妹を紹介した!? 歳も離れているし、わざわざ会わせることは無かったんじゃないか?」
「そりゃあ、ローザが入学したら紹介すると話していたし、いざ紹介して下さいって頼まれたら、君が不機嫌になるから無理とは言えないでしょうよ」
ちなみに、クロシェットにローザを紹介したその日には、似たような内容でもう散々突っかかられている。
「大体、彼女たちの間のことに口出し出来ないことは、君だってよくわかってるだろう? ――それに、たとえ今僕が紹介しなくても、きっと彼女たちはいずれどこかで出会っていたと思うよ」
広いようでいて狭いこの世界で、彼女たちが出会わないということは無いだろう。
「くっ、そのくらい俺も分かっている! ……が、しかし――」
再びまた何かを考え出したかと思うと、突然立ち上がって大声を上げる。
「いくらなんでも、やはり早すぎる! お前の妹が実は悪女のような奴で、俺のクロシェットが誑かされている可能性もゼロじゃない!」
「ちょっと、人の妹になんてことを……。それに彼女たちだって、積もる話くらいあるんじゃ――」
イキナリとんでもないことを言い出したので僕も思わず慌てたけれど、続く言葉に、更に仰天することになる。
「いいや! 天使のようなクロシェットに、要らん事を吹き込む可能性もある! ――ロゼットとかいうお前の妹が、俺のクロシェットに相応しいかどうか、この俺が直々に判断するッ!」
えぇぇぇぇぇぇ!?
あーこれ、僕本当に余計なこと言ったなぁ。ごめんよ、ローザ……。
そうして、結局彼を止めきれないまま、彼は数日後の空き時間、1年生の教室が並ぶ廊下にローザを呼び出した。
……その日のうちにお茶会をしていた女子寮のクロシェットの部屋に突撃しなかっただけ、マシなんだろうか?
***
「ファレス! ローザに失礼な態度を取らないよう言っただろう!? さっきのは、いくら君でも酷過ぎないか?」
ローザとの話を終え、先に生徒会室に入っていたファレスに追いつき扉を閉めるなり――普段なら有り得ないことだが、僕は声を荒げて非難した。
今、他の生徒たちは授業中なので廊下を通りかかる人間はおらず、僕たちは選択した授業の都合でぽっかりと空いてしまったこの時間を誰もいない生徒会室で過ごすようにしていたので、声を抑える必要はなかった。
彼は生徒会室に入って直ぐのところに立ったまま難しい表情を浮かべていたのだが、振り向き僕の様子を目にすると、呆けたようにポツリと呟いた。
「……お前でも、そんな風に怒ることがあるんだな」
「意外だとでも!? 大切な妹だと言っておいたハズだ」
「あぁ、そうだったな……。確かに先程の俺の態度は、褒められたものではなかった――改めて直接謝罪することは出来ないが、言い過ぎたと、お前から伝えてくれるか」
友人とはいえ、彼はこの国の第二王子だ。
立場があるので、腹立たしいがそれは仕方のないことだった。
それに、この数年共に過ごしてきて、彼の性格もある程度分かっている。
恐らく悪意を持ってローザに嫌がらせじみた言動をしたわけではないことも……本当にただ言い過ぎてしまっただけなのだろうということも。
だがローザの兄として、伝えておくべきことはある。
「それは分かったが、君にはそれなりに誠意を見せて欲しいね」
「誠意? ……なんだ、贈り物でもしろと?」
「――そんなことをしたら、僕は君を許さないだろう」
例え友人の妹への謝罪の気持ちだったとしても、急に学園内で第二王子に呼び出された令嬢が、その後に婚約者のいる王子本人から贈り物なんて貰った日には、とんでもない事態になるのは目に見えている。
当人以外の誰もがあらぬ疑いを持つことになり、関係者全員もれなく不幸になるだろう――それは彼の愛するクロシェットも例外ではないというのに、この男は普段完璧なくせに、何故それが分からないのか。
「僕からの望みは、君がこれ以上ローザとクロシェットの間のことに口出ししないことだ。手出しや邪魔立ても勿論禁止だ。邪推することも愚痴を言うことも許さない。君とクロシェットの関係が進展しないのは、君の態度が問題なだけだ。ローザを巻き込むな」
「……耳が痛いな」
「あぁ、そうだろうさ! ……言わせてもらえば、クロシェットに対しても君は不誠実だ。彼女の気持ちを弄んでいるのでなければ、いい加減ハッキリしろ」
彼には彼なりの葛藤や事情があることを知っているが、入学時から比べて、彼を見つめるクロシェットの表情にどこか張りつめたものを感じることが増えていた。
お互いに想い合っているくせに、いつか壊れてしまいそうな友人たちの関係は、近くで見ていてもまるで理解できなかったが、いくら当人たちの問題とはいえ、ローザが巻き込まれてようやく、僕も静観している場合ではないと気付かされた。
「クロシェットも僕にとって大切な友人だ。彼女を不幸にするくらいなら、僕は全部ぶちまけるぞ」
僕の脅しのような言葉を聞くと、彼は再び難しい表情を浮かべる。
「――それには、及ばない。お前の言うとおり、俺がどうにかすべき事柄だからな」
ようやく覚悟を決めたようなハッキリとした宣言に、少しばかり溜飲が下がる。
普段の生真面目なオーラも戻ってきたようで、少し安心したところで再び彼が口を開く。
「それにしても、なんなんだお前の妹は……?」
「ちょっと、ついさっきローザのことに口出ししないように言ったはずだけど」
思わず眉をひそめた僕に、彼はそうじゃないと首を振る。
「違う、悪口を言いたいわけではない。……そうではなく、あの娘はクロシェットに出会って大して日が経っていないにもかかわらず、俺に対してまるで怯むことなく、堂々と彼女を称える言葉を述べ、表現も的確だった。クロシェットのことは何でも聞けと言わんばかりの、あの気迫! 余程クロシェットを大切に想っているのだろう――むしろ俺に対して『コイツが婚約者か、果たしてお前こそ彼女に相応しいのか』と、言外に第二王子であるこの俺の資質を見定めようとでもしているようだった……!」
そこまで言うと、彼はグッと拳を握る。
「あまつさえクロシェットの服装について尋ねたときには『あらあら、婚約者なのにあの素晴らしい装いを目にしていないんですかぁ~?』とでも言いたそうな自慢げな様子に、思わず『羨ましい!』と叫んでしまうところだった……! あの日は淡いピンクのドレスを着ていたと報告は受けていた。俺の前では制服か青系統の服ばかりなのに……! そんなん絶対可愛いに決まっているだろうが!! ――そして、クロシェットのことを知り尽くしているような、圧倒的な自信! この俺が、思わず嫉妬してしまう程に……。そう、俺は先程、あの娘に嫉妬したのだ。そのせいで、俺らしくもない事を言ってしまった。……あぁ、言い訳ではないぞ、感心しているんだ」
感心していると言いながら、目は爛々と熱を帯びている。
なんだか嫌な予感がしなくもないけど、聞かないわけにはいかないのだろう。
「先日は笑い飛ばしたが、どうやら俺が間違っていたようだ。悔しいが、クロシェットに関してはあのロゼットという娘、確かにこの俺の好敵手と呼ぶに相応しい……!」
「うん、僕には君が何を言っているのか全く分からないよ」
あの短い時間のやり取りで、彼はローザから何やら凄いものを感じ取ったらしい。
自分の婚約者に関してはポンコツになる男なので、また変なことを言っている程度に思っておいた方が良いだろう。
僕からは、妹がただ迷惑そうにしているようにしか見えなかったけれど……彼は、僕には見えなかった何かが見えたようだ。
だけど、そんな我が妹の『何か』が彼の背中を押したようだったので、僕はもう少し、おとなしく彼らを見守ることにしようと思う。
何故か好敵手認定されてしまったローザだけど、さっき釘も刺したし、流石にもうそこまで関わることは無いと信じたい。
「――ところで、週末あたりローザと街に出かけようと思うんだ。君に酷い事を言われた、可哀想な妹を励ましてあげたくてね……美味しいものを食べさせてあげたいから、いつもより高めのお店に連れて行ってあげたいんだけど、少しばかり寄付してもらえるかな?」
「お前……本当に恐ろしいヤツだな。贈り物はダメなんじゃなかったのか?」
驚いたような顔をしながらも、彼は僕が『これで手打ちにしてやる』という意図を汲み取った上で、あえておどけたように問いかけてきた。
「君からローザに何かを贈るのは当然ダメだけど、僕がお願いしているのは、妹想いの友人への寄付だよ? ――何の問題もないじゃないか!」
「全く……、この俺にたかるのは、いくら世界広しといえどもお前たちくらいなものだろうよ」
呆れたような表情で財布を取り出した友人だが、彼の視界に映る僕は恐らく悪い笑みを浮かべているのだろう。
たかられた相手が複数形なのは、既に僕の前に成功させた人間がいるからだ。
そういえばそのもう一人も、自分の妹のために巻きあげたんだっけ、とぼんやりと思い出したのだった。
***
街デートで兄から言葉巧みに、第二王子とその婚約者の侯爵令嬢の仲について聞き出したローザは、あの二人はただの両片思いのジレジレカップルであるという話を聞いて、胸を撫で下ろした。
王子の沽券に関わる為、彼のダメっぷりが語られることは無かったが、友からの話を聞くうちに正解に近いところまでは導き出すだろう。
――そんな彼女が、友人の侯爵令嬢から『無事想いが通じ合った』と嬉しい報告を受ける日は、そう遠くない。
主人公を差し置いて、めっちゃ真面目に恋バナしてるお兄ちゃんたちでした。
ローザの頭を過った『第二王子ってば、もしかして?』の部分です。
第二王子はクロシェットのことを話す時はアツい気持ちが溢れてビックリマークが多いし頭おかしい感じですが、普段はしっかりした完璧タイプの人間、のはず……?
男同士ならガチでクロシェット愛を語れるのに、本人には言えないなんて、なんというチキン野郎……と、ローザなら言うのでしょう(爆)
テンポのあるコメディ色全開な話を書いていたはずが、本気でガチの恋愛トークしているわ、お兄ちゃんキレるわで、書いている本人なのにドン引きでした←




