元デブ子の野望
前世はデブだった今の私の名前は、ロゼット・ソレイユ・エグランテリア。
親しい人は、私の事をローザと呼ぶ。
エグランテリア伯爵の愛娘にして、全体的にゴージャスな印象を与える容姿をした美女である。
見た目は美女だけど、実はまだ十三歳なのよねー。
でも美少女っていうよりは、魔性の女寄りの美女なのよねー。
まあ、私的には全然問題ないんだけど。
美女、万歳!!!
「良くお似合いですわ、ローザお嬢様」
「ありがとう、エリー」
前世の記憶を取り戻し目覚めた翌日、「顔色も良いし、しばらく安静にしていればもう大丈夫でしょう」とのお医者様からの診断を受けた私は、ぶっ倒れたせいで中断されていた『ある作業』を再開していた。
もしかすると、これが前世を思い出す原因になったのかもしれないんだけど。
それは何かといえば、半年後に入学を控えた王立学園の、制服の試着。
名門お嬢様学校っぽい、この制服がきっかけになったんじゃないかなぁ。
自分の容姿に劣等感しか感じていなかった、前世の私。
こういう可愛い制服を着た女の子が、凄く苦手だった。
視界に入るだけで、その女の子っぽいキラキラしたオーラに押し潰されそうで。
目が合おうものなら、醜い自分を嘲笑されているような気持になってしまって、更に自己嫌悪のループに入って。
絶対に自分がなれない存在。
若く美しい彼女たちとは反対に、年々腹回りが増えていき老いていくだけの自分を想像してしまう。
痩せる努力すらしなかったくせに、自分勝手な感傷だとは思うけど。
……でも、そんな僻みとは、もうオサラバよ!!
「ふふふふふふふ」
「お、お嬢様?」
「あら、ごめんなさい。制服が素敵なものだからつい……」
そう取り繕えば、ギョッとしていた侍女のエリーも納得してくれた。
それもそのはず。
臙脂色のような濃い紅色をした制服は、デザインが素敵なのはもちろん、メリハリのある身体のラインに吸い付くようにピタリと合っている。
……オーダーメイドだから当然っちゃ当然なんだろうけど。
この感動は、痩せている人には解るまい。
肥ってたら、そのラインを隠すために、必要以上に大きいサイズの服を選びがちになる。
そしてそれに慣れていくうちに、ダボダボした服じゃないと落ち着かなくなっていく。
身体にピッタリ合うような服は、そうしていくうちにどんどんと着られなくなってしまうのよ。
とんだ負のループ!!!
制服やらスーツなんかの上着を脱いで、シャツやらブラウスやらをインした状態のウエストをさらけ出すことが出来るのは、肥っていないか、既に気にならなくなったおじさんの特権だと思う――と話が逸れた。
つまり、今の私には制服が超似合っているから、何も怖くないのだ!
背中まである豪華な長い金髪も、後ろに流しても結っても、どっちも可愛い!
誰に断るわけじゃないけど、別にナルシストなわけじゃなくて、ただ単に綺麗な女性が目の保養になるってだけだから。
着せ替え自由な等身大の人形を手に入れたような気持ち……かな?
生前見たことのないくらいの金髪美女が自分の身体なんだもの、今までできなかったお洒落とか色々とやってみたいじゃない?
ローザとしての記憶は勿論あるし、前世の記憶も併せて『今の私』なんだけど……前世の記憶のインパクトが強すぎて、どちらかというとそっちに引っ張られている感じがする。
多分、それだけ見た目がコンプレックスだったのよね。
しばらくすれば、落ち着くのかしら?
半年後の学園生活に、想いを馳せる。
王立学園の生徒は、王族や貴族なんかの上流階級のお坊っちゃんやらお嬢様ばかりで、五年制。
前世の私なら全力で拒否したであろう学園生活が、今は楽しみで仕方ない。
それこそ黒歴史として封印したいくらい、前世の学生時代は辛かった。
ひっそりと息を潜めるように、早く時間よ過ぎろと願い続けたあの頃。
友達がいなかったわけじゃないし、むしろオタトークで盛り上がってもいたけれど。
『青春を謳歌した』という満足感は、欠片だって得られなかった。
……だから。
今度こそ。
せっかく生まれ変わった、美人のご令嬢に生まれ変わった今こそ、誓う。
絶対に、ぜーったいに、素敵なウキウキ学園ライフを送ってやるんだからっ!!!
学園生活だけじゃない、卒業してもキラキラした人生を送ってやろうじゃない!
今度こそ、素敵な人生だったと思えるように。
2022/03/15、24 ちょこちょこと追記&修正しています。